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四十八話 激突! ロッティ対マコト!

 聖具の一つであるスルトの効果は、ゲーム的に説明すると飛行能力と移動スキルの付与である。

 具体的に言えば、本来ならキャラクターそれぞれに移動力が設定されており、その分だけマスを移動できる。

 マスはヘックスではなくスクエアであるため、大体のキャラクターは移動範囲がひし形に近い形になる。

 しかし、移動スキルというのはその移動マスを前後左右に限定する代わり、移動距離を上げるというものだ。

 つまり、将棋における飛車と同じ移動範囲になり、直線的にしか動けなくなるがその分移動距離が上がるというものである。

 移動力の上がる装備品やスキルなどを積めるだけ積むとマップの端から端まで届く事もあるので本当に飛車のようになる。

 調子に乗って突き進んだ結果、敵陣のど真ん中に踏み込んでボコられるのはプレイヤーの誰もが一度は経験する事だ。

 そしてそのスキルで移動後に攻撃を行うと、移動マス分だけ攻撃力が上乗せされる。

 自分が通ったマス全てに攻撃を仕掛けるタイプのマップ攻撃も持っており、単純な雑魚散らしはもちろん、囲まれた際の脱出にも使えるという応用力の高い技である。

 性能だけ聞くとピーキーな印象を受けるが、実際に使ってみるとかなり使いやすいユニットだった。


 さて、私はそんな相手に勝つ事ができるのだろうか?


 ゲームの話なので、一概にそれを判断基準とするのは危険ではあるが。

 マコトのゲームにおける性能は、高火力高機動型と言える。

 攻撃力はかなり高く、リューと並んでボスキラーの名を馳せていた。

 しかし両名とも防御力が低いため、避けそこなうとかなり簡単に落ちる。

 ゼリア戦のマップ攻撃による初見殺しで成すすべなく落ち、攻撃の要を失って絶望するプレイヤーは多い。

 付け入るならそこ……と言いたい所だが、最低限の攻撃力すらない私にとって無意味な弱点だ。


 私を前に、マコトは大刀(スルト)を正眼に構えた。

 大刀からは光の粒子が噴出し、翼のように広がった。

 マコトの体が浮き上がる。


 彼女は戸惑う事もなく、まるでそれが当然のような顔で構えた。


「ちぇえええええい!」


 大刀を振り上げると声を放ち、一直線に突撃してくる。

 頭へ振り下ろされそうになった大刀をすれ違うように避けた。

 通り過ぎていくマコトを目で追うと、十メートル以上の距離をかけて減速をかける姿が見える。

 折り返し、再度こちらへ向けての突撃。

 折り返しに要する時間は三秒。

 それだけの時間をかければ、私も体勢を整えられる。


 飛行しているのでハンマーで足払いができない。

 直接攻撃はもっと無理。

 如何に防御力に乏しくても、それ以上に私は攻撃力に乏しい。

 直接殴ってもこちらが隙を晒す以上の効果はない。


 二度目、三度目の攻撃を回避。

 本当にまっすぐ突き進む事しかしない。

 それがマコトの流派であり、彼女自身の性格でもあるからだろう。


 しかし、折り返しにかかる時間が少しずつ、確実に短くなっている。

 力に慣れ始めているのだろう。

 時間をかけると不利になりそうだ。


 だけど、こんなものか。

 依然として、この期に及んで、彼女の攻撃には殺気がなかった。

 なんとか、なりそうかな。


 何度目になるかわからない突撃。

 それに対し、私は真っ向から突っ込んだ。

 マコトにわずかな逡巡が見られる。


 目前でハンマーを投げる。

 狙いはマコトの頭。

 しかしそれは難なく打ち払われた。


 それでも構わない。

 あくまでもこれは、マコトの視界と意識を奪うのが目的だ。

 そのわずかな隙を衝いて、私はマコトの胴にタックルをかました。


 ダメージなどないだろう。

 押し倒す事すら適わない。

 それでも、触れる事ができた。


 私がその状態からマコトの右腕を取ろうとする。

 しかしマコトはすぐに気付いて、右腕を大刀から離して咄嗟に後ろへ引いた。

 明らかに警戒している動きだ。


 私の戦い方を憶えていたようだ。

 結局の所、私がこの世界の人間と渡り合うにはこれしかない。


 けれど、それは囮だ。

 マコトの背へ回していたもう一方の手で、後ろへ引かれた肘裏を掴む。


「!」


 危機感を覚えたマコトは拘束を振り払おうとするが、私はマコトの足に自分の足を絡める。

 マコトの足を私の膝裏で挟み、足を絡めて完全に固定した。

 マコトは痛みで呻く。


「この」


 マコトはすぐに打開策を取る。

 自分の体ごと、私を地面に叩きつけようとした。

 行動を察した私は、一旦拘束を解いて回避。

 しかし、手だけはマコトから離さない。

 組み敷くように覆いかぶさる。


 マコトは必死に私を押し離そうとする。

 が、私は離れない。

 むしろ、その動きを利用して関節を極めようと動く。


 全身に絶え間なく魔力を通す事は難しい。

 どこかに意識を向ければ、どこかに意識を向けられない部位ができる。

 そこならば、私の力でも簡単に関節を極められるのだ。


 抵抗による動きが、そのまま私のチャンスになる。

 相手の動向を利用し、フェイントを活用し、時には一度極めた関節を外し、さながらパズルを組むように少しずつ、マコトの体から自由を奪っていく。


 次第にマコトの可動域が狭まり、そして……。

 私は裸締めの体勢に彼女を追い込んでいた。

 腕は必要な分、マコトの首に食い込んでいた。

 後は締め上げるだけである。


「君は優しいな、マコト」


 後ろから、彼女の耳元に囁く。


「ハンマーを打ち払わず、僕を一刀両断すればよかったんだ。視界が塞がるのを厭ったのは、それで手加減できなくなる事を恐れたからだろう?」


 敵になってなお、マコトは私を殺したくないと思っていた。

 だから私は、その隙を衝く事ができた。


「誰が、あんたなんか……」


 そう否定するマコト。

 けれど、行動が全てを物語っていた。


「僕を殺したければ、その優しさを捨てる事だ。じゃあマコト、あとでまたじっくりと話をしよう」


 囁き、マコトの首を締め上げて意識を奪った。

今回の更新はここまでになります。

続きはまた月末に更新致します。

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