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三十四話 初めての仲間

「やっぱり、これが聖具だとわかるんですね……」

「保管庫で見たから」


 思えば、あそこに聖具が残っていたのは、ミラが時折王城に訪れていたからなのだろうな。

 それで、同調できる機会をうかがっていた、と。


「これ、どうしたの?」

「控え室で家族と話をしていたら、目の前に現れたんです」

「声は聞こえた?」

「語りかけてきました」

「選ばれたわけだ」

「はい。ですが、私に皇位を狙う心積もりなどありません。それをお伝えしたく、ここに参じた次第で……」


 なるほど。

 そういう事か。


 聖具というものは、この国において皇帝の血族に対して皇位継承の資格を与えるというものである。


 実際は皇族でなくとも使い手に選ばれるが、長い歴史で邪神伝承がおとぎ話となったようにその事実が曲解されている(ふし)がある。


 そういう物として認知されてきた時間が長すぎたのだろう。

 皇族以外に実物を見る機会がないというのも原因かもしれない。


 だから、その使い手となった事でミラは皇位継承者として見られる可能性が出てきた。


 いつものミラなら、誰にも言わずに抱え込んだと思う。

 その方がいらぬ誤解を招く事もないし、何ならゲーム中では黙って聖具をネコババしていたわけだし。


 ゲームとの違いと言えば、皇族との繋がりがある事くらい……。


 選択肢として私に語り、誤解を早々に解いてもらう方法を選んだ。

 多分、高すぎるリスクを負いたくないのだろう。


 あと、目撃者(家族)がいた事も関係しているかもしれない。

 それでも彼女がここまで取り乱している事が意外だ。

 やっぱり、頭が良くてもまだまだ子供という事なんだろうか。


 まぁ謎の兜が出現し、脳内に直接語りかけられ、しかもそれが聖具だと気付けばただ事ではないと混乱するのは仕方がないか。


 その相談をする相手として、私を選んでくれたのは話がわかると思ってくれたからかな?

 そういう信頼を向けてくれるのは素直に嬉しい。


 とりあえず、彼女の抱える不安を解いてあげよう。


「大丈夫。聖具が皇位継承者の証というしきたりはないから、君がそれを持っていても問題はない」

「え?」

「あくまでも、皇位を継げる立場の人間が皇位に着く場合、聖具に選ばれていないといけないというものだから。それが曲解されて、聖具の使い手に継承者の資格があると勘違いされているだけ」

「そうなんですか?」


 問いかけるミラの表情から、少しだけ強張りが取れた。


「陛下には伝えておくよ。ただ、他の貴族には言わない方がいいから隠しておいてね」

「はい。ご温情に感謝致します。……アマテラスはどうしましょう?」

「実物を知っている人間が少ないから気付かれないと思うよ」

「お返ししたいんですが……」


 危険物である事には違いないからね。

 持っている事を知られたら厄介な事になる事は目に見えている。


「それはいけない。あなたは選ばれた。そこには意味がある。だから、持っていて」

「大丈夫なのでしょうか?」

「聖具の使い手は、皇族以外の方が多いから。気にしなくていいよ」

「そうなのですか?」

「クローディアの着けてるマスク、あれ聖具ね」


 現状、私しか知らない秘密を暴露した。

 他にも使い手はいるけれど、例題は彼女だけでいい。


「え?」

「だから、あまり気にする事じゃないんだよ」

「そうですか……」


 納得してくれたかな?

 彼女の内心は計り知れないが、少なくとも表面上は落ち着いてくれたようだ。


「安心した?」

「はい」


 よかった。


「あの……」

「何?」

「あなたに、仕える事を許していただけますか?」


 思いがけない申し出に私は驚いた。


「この程度の事で恩に着せるつもりはないよ」


 気にしているのかな? と思ってそう答える。

 しかし、ミラは首を左右に振った。


「恩を感じているわけではありませんよ。ただ、私は優秀な人に仕えたいだけです」

「ずいぶんと買いかぶってくれるね」

「私が見た中で、ロッティ様が皇女殿下方の中で一番優れているように見受けられます」

「私は皇帝(おうさま)になれない」

「私は権勢が欲しいわけではありません。私が求めるのは、自身と家族の幸せです。むしろ、大き過ぎる権力は身の破滅に繋がるでしょう」

「なるほどねぇ」


 と、言うけれど……。

 果たして本心はどうなんだろうね?


 聖具(爆弾)を抱えた事で、保身のために私を利用したいという気持ちがあるのではないだろうか?

 そう、勘繰ってしまう。


 だとしても、こちらとしては彼女を味方につけられるのはこれ以上なく嬉しい事だろうけど。

 彼女が考えている事なんて、気にする事はない。


「そう言ってくれるなら、私は喜んで受け入れるよ。よろしくね」

「よろしくお願いします」


 こうして私には、初めての仲間ができた。

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