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三話 可愛い妹

 四歳になった。


 私が赤ちゃんの頃はべったりだったが、最近は母親のゼリアとあまり会う機会がない。

 彼女は皇帝陛下なので、仕事が忙しいようだ。


 それでも、子供が生まれたとなれば、子供の世話は自分でしなければ気が済まない性質のようだった。


 妹が生まれてからは、その妹にかかりきりである。

 妹の名前はグレイス。

 ……可愛い。


 ベビーベッドの中で、すよすよと寝息を立てている。

 産まれてから時間が経ち、しわくちゃだった顔も今はふっくらとしていた。


 こんなに可愛い子だが、リシュコール四天王最強説が囁かれている。

 というのも、パラメータが四天王の誰よりも高いからである。


 ゼルダと比べて防御の値以外で全て優れており、かといって脆いわけでもない。

 むしろ作中でも堅い方。

 攻撃能力はゼリアに次いで高く、攻撃特化で防御の脆い作中主人公には一方的に殴り勝つ。


 それが私の可愛い妹である。


「……あにゃ」


 不意にグレイスは目を覚ます。

 一瞬にしてその表情が崩れた。


「びゃあああああっ」


 大声で泣き始める。

 そんなグレイスをゼリアは抱き上げた。


「よしよし。腹が空いたか」


 そう言って、大迫力の授乳シーンが始まる。


「母上」


 ゼルダがゼリアに声をかける。

 そんな彼女に、ゼリアは険しい表情を返した。


「家族だけの時はママと呼べ」

「うん……ママ。グレイスが泣いた時は、私も乳をやれば泣き止むかな?」


 ちなみに、ゼルダの胸はすでに膨らんでいる。

 七歳とは思えない乳だ。


 二次性長って何歳からだっけ?

 やっぱり、この世界の乳房は魔力貯蔵庫という事なのだろうか?

 だから、そういうの関係なく大きくなるんだろうか?


「出ないとわかればさらに泣くし、オムツの場合もある。泣き出したらママを呼べ」

「わかった」


 授乳が終わると、やっぱりお腹が空いていたのかすぐに泣き止んだ。

 ベッドに寝かされると、すぐに目蓋が下がっていく。


「仕事に戻る」


 そう言って、ゼリアが部屋を出て行く。


 部屋には私とゼルダ、グレイスとその世話係だけになった。


「……ロッティは出て行かないのか?」


 おもむろにゼルダが訊ねてくる。


「何で? もっとグレイスを見ていたいんだけど」


 答えると、ゼルダは不満そうに顔を歪ませた。


 ……さては、私が居なくなった後であれをやるつもりだな?

 世話係の人も知っているのか、苦笑いをしている。


 私はため息を吐く。


「じゃあ、私も行くけど……。足の裏を嘗め回し過ぎて起こしちゃだめだよ?」


 そう伝えると、ゼルダの表情が驚愕に染まった。


「お前、どうして知ってる?」

「私、赤ちゃんの時の記憶があるからね」


 本当はそれ以前の記憶もあるけど。


 その言葉と驚いているゼルダを残し、私も部屋を出た。




 今日は、格闘術の手ほどきを受ける事になった。

 ゲーム中のロッティは驚くほど弱いので、強くなれるなら生存率が上がるので喜ばしい事である。


 まぁ自分の胸を見ると強くなれるのかな? という疑問は沸くけど。


 城の敷地内にある訓練場では、半裸の女性達が汗を滴らせながら剣を振るっている。


 いつ見てもこの光景は奇妙である。


「さて、何から始めるか……」


 隣でそう呟いた母上もビキニみたいな露出の多い鎧を着ている。


 戦いの場でこんな格好をするなんてトチ狂っているのではないか?

 と思えるかもしれないが、実際これはこの世界において理に適っている。


 丁度その時、二人一組で模擬戦を行っていた兵士が、相手のわき腹を剣で斬りつけた。

 その瞬間、相手の斬られた場所から火花が散る。

 剣は刃を引いていない真剣であるが、相手の素肌には傷一つ付いていなかった。


 この世界では、魔力によって体の強度を高める事ができる。

 それこそ、金属に匹敵する強度になるようだ。


 肌が鎧のような物なので、重い金属の鎧をがっちり着込む必要がない。

 だから、動きやすい軽装の防具の方が需要は高いのだ。


 なお、真剣で訓練するのも体の強度を高める練習のためである。


 ふと、自分を見詰めるママの視線に気付く。


「どうしたの?」

「いや……少し試したい事がある」


 そういうと、ママは腰に佩いていた短剣を手に取った。


「魔力の使い方はわかるか?」

「わからない」


 産まれてこの方、そんなものを感じ取った事はない。

 正直、前世の時との差異を感じない。

 子供の体は軽くて動きやすいなぁ、と思っている程度である。


 答えるとママは跪き、私の胸に手を置いた。

 すると、今までに感じた事のない感覚が体を巡る。


 そう、巡っている。

 何か……。

 血液とも違う何かが、体の中を流れている感覚だ。


「これが魔力だ。動くのがわかるな?」

「はい」

「自分で意識して動かしてみろ」


 そう言って、ママが手を離す。

 それでも、感覚だけは残った。

 ママが触れている時とは違って、あまりにも弱い感覚ではある。


 けれど、確かにそれは私の体の中を巡っていた。


「人差し指の先に魔力を集中しろ」


 言われた通りに、魔力を人差し指に集中させる。

 ママがその手を取り、短剣の切っ先を私の人差し指に突きつけた。


「少し痛いかもしれないが、許してほしい」

「はい」


 突きつけられた短剣に、少しずつ力がこもっていく。

 最初、私の皮膚はほんの少しの抵抗を見せたが……。

 あっさりと刃の切っ先が人差し指の皮を裂いた。


 いてて……


 ママの顔が険しいものになり、やがて悲しそうなものに変わった。


「すまないな。痛かっただろう」

「少しだけ……」


 ママは立ち上がると腕組みをする。

 目を閉じて、何やら思案しているように見えた。

 やがて口を開く。


「鍛錬は止めにしよう」

「え?」

「本でも読むといい。本が好きだろう? 時間もあるし、たまには私が本を読んでやろう」


 ママの声が妙に優しい。

 珍しく気遣わしげである。

 こんな様子のママは初めて見た。


 ……なんとなく察していた事ではあるけれど、やっぱり私の魔力では戦いに向かないんだろうな。

 ママが気遣わしく思うほどに。


「送ろう」


 そう言って、ママは私をグレイスのいる子供部屋まで連れて行ってくれた。

 部屋に入ると、パパの後姿が見えた。

 どうやら、グレイスに構っているようだ。


「シアリーズ」


 ママが呼ぶと、パパが振り返える。


「どうしてここに?」

「仕事の合間に、ちょっと寄っただけだよ」

「そうなのか」

「子供は可愛いね。ついつい構いたくなっちゃうよ」

「そうだな」


 微笑を深め、パパは言う。

 なんとなく、ムラッという効果音がママの方から聞こえた気がした。


「シアリーズ。子供は確かに可愛い。だから、もう一人作るか」


 パパが真顔になった。


「そんな時間ないでしょ?」

「今丁度、時間が空いた」


 あれ?

 本の読み聞かせをしてくれるんじゃないんですか?


「仕事はどうするの?」

「どうにかなる」

「スケジュール調整してどうにかしてるのは僕なんだけど……。子供ができたらもっと調整が難しくなるし……」

「できてしまってもお前ならできる」

「ちょっと、冷静に……」


 と言い募るパパの手を強引に取り、ママは部屋を出て行った。


「ふにゃふにゃ」


 何やら声を出しているグレイスを見る。

 自然と笑顔になった。


「大人の世界は難しいねー」


 そう言って、私はグレイスの可愛らしさを堪能した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ママンが色々と深情けすぐるwwwwww
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