二話 何しに来たのお姉ちゃん?
感想へのコメントは、話を投稿した際の活動報告で返させていただいております。
ゼルダ・リシュコール。
彼女はゲームにおいて、あまり印象に残らない性能のボスだった。
かと言って、弱いわけではないのだけど……。
ただ、印象に残りやすいユニットはだいたい攻撃力が高い傾向にある。
たとえばゼリアみたいに、何度かコントローラー投げたくらいに味方を簡単に倒すくらいの攻撃力があると嫌でも印象に残る。
ゼルダは、攻撃力に乏しく防御力がべらぼうに高いユニットだ。
攻撃力が低いのは、四天王の中で唯一伝説の聖具を持っていないからだろう。
それでも伝説の聖具を持った人間ばかりの主人公チームを相手に一人で立ち向かえるのだから、自力は四天王の中で最強なのかもしれない。
何故彼女だけ持っていないのかという理由は、続編で判明する。
見た目はママを一回り小さくしたような印象がある。
顔つきもそうだが、鉄のような色合いの黒髪も同じ。
家族の中では、一番ママに似ているかもしれない。
厳しい表情を作り、責任感の強そうな雰囲気のある凛々しいお姉様だ。
今はまだ幼いので、顔つきも丸く可愛らしいが。
そんな姉にじっと見られ、私もまたそんな姉を見詰め返した。
「こっちをみてる……」
ゼルダが呟く。
そして、小さな指でぷにぷにと私の体をつつき始めた。
「ふにゃふにゃしている……」
そりゃね。
足やら、お腹やら、腕やら、姉は無遠慮に私をつつき回す。
ほっぺたを執拗につつきだし、ちょっと鬱陶しくなったので「ふにゃ」と声を上げると姉は怯んだ。
けれど、少ししてからまたつつき始める。
そろそろ大泣きしてゼリアを呼ぼうかと思い始めた頃、ぴたりとつつく手が止まった。
代わりに、じっと私を見回す。
そして、私の足を手に取った。
何をする気だろう?
と思っていると、姉はおもむろに私の足を口に含んだ。
何してるのお姉ちゃん?
もごもごと口を動かし、私の足を味わう姉。
私、食べられるんだろうか?
何これ?
こしょばいし。
しばらくして、姉が私の足を口から解放する。
そして姉は満足したのか、そのまま部屋から去っていった。
何がしたかったんだろう?
そして、よだれで足をべとべとにされた私だけが残った。
せめて拭いていってほしいな。
それからママのおっぱいを吸い、たまに姉から足をもごもごされ、時が過ぎていった。
いつの間にか自分の足で歩けるようになり、言葉を喋れるようにもなった。
ほとんどを寝てすごしていたからか、そうなるまでにたいして時間を経たようには思えなかった。
そうしてざっと三年後。
体も動かず、城から出る事も許されない。
将来に危機感を覚えながらも、何の手段も講じる事ができない三年だった。
焦りは当然あり、けれどもその焦りに慣れ始めていた。
その日の私は、父の書斎で本を読んでいた。
「ロッティは本が好きだね」
優しい声でそう声をかけたのは、長い金髪を三つ編みにした柔らかな表情の男性。
おっとり金髪美人である。
どことなく儚い雰囲気がある。
彼は私の父親、シアリーズだ。
「うん」
ママも姉も肉体派で、体を動かすのが好きな人間である。
暇な時間に遊ぶとなれば、必然的に体を動かすものになる。
だが、私はそんな二人の体力についていけないのだ。
となれば、インドア派のパパの書斎で本を読むのが一番楽なのである。
この世界において、男性は魔力総量が少ない。
魔力は身体能力にも影響を与えるので、自然と女性が肉体派になっていくのは当然だ。
その点を見るに、いよいよ「おっぱい=魔力貯蔵庫」説が濃厚になる。
「それはそれでお父さん心配だよ」
パパの心配はわからないでもない。
でも、私は肉体的に大成できない将来を知っている。
なんなら命を落とす。
だから、そうならないよう今の内に勉強しておきたいのだ。
ゲーム本編のように戦いの場に出るのではなく、できれば裏方……。
内政とか、そういう目立たない場所で働きたい。
それで、ついでに反乱を起こされない方法を模索したい。
「大きくなったらパパのお手伝いしたいから」
そう答えると、パパは目を丸くした。
その目じりが柔らかく下がった。
「ありがとう」
ふふふ、と色っぽく笑って私の頭を撫でてくれた。
その時である。
部屋のドアが強めに開かれた。
驚いてそちらを見ると、ママが仁王立ちしていた。
「時間ができた。お前も休みだろ? 乗れ!」
と、自分を親指で示しながら言う。
乗れ?
どういう……。
あっ(察し)。
パパは苦笑する。
「ちょっと行ってくるね」
パパー!
その後、パパと再会できたのは二日後の昼頃だった。
パパは見るからに痩せていて、目の下には隈ができていた。
儚さ数割増しだ。
それから数ヵ月後。
私に妹ができた。
後にリシュコール四天王に名を連ねる妹である。