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閑話 世界を求める者達

 バルドザードの王城。


「それで、どうだった? 皇帝陛下は」


 ヘルガが席に着くと、同じ部屋にいた人物にそう問いかけられた。


 そこは蝋燭の明かりだけが光源の暗い部屋だった。


「噂通り……いえ、噂以上でしたよ。勝てるんでしょうかね?」

「勝つ必要はない。が、王がそんな弱気でどうする?」


 ヘルガの冗談めかした言葉に、先ほどとは別の人物が答える。


「シ、シロ達に理想のせ、世界を見せてくれるんでしょう?」


 やや興奮した口調で、また別の声が問いかけた。


「それはもちろんですよ。安心してください。それはそうと、何があったのか報告してくれますか? 見ていたのでしょう?」

「え、あ、はい。えーとですね……」


 声が語るのは、城の外で起こった一連の出来事。

 ラウデンの逃走が阻止された一件の事だった。


「途中で飛び出したのはそういうわけでしたか。本当に子供が大切なんですね」


 ヘルガは呟き苦笑する。


「状況はわかった。次は、君の所見が聞きたいな」


 声の一つがそうヘルガに促す。


「皇帝陛下は、喧嘩っ早くて短絡的な感じでしたね」

「そいつはいい。仲良くできそうだな」


 ヘルガの言葉に、別の声が楽しげな様子で返した。


「正直、こちらの挑発行為を無視できるような人間ではありませんよ」

「なら、挑発にすら気付けない暗愚か?」

「それはないですよ。私に対する敵意は対面した時からありましたもの。とはいえ、感情に抑えの利く人間にも思えなかった……。他国の偽計を疑われているんでしょうか?」

「周囲に御せる人間がいるのだろう」

「なら、候補としては皇配のシアリーズか、姉のジークリンデと言った所でしょう」


 そこでおずおずとした声が上がる。


「あ、あの。シロの思い過ごしかもしれないんですけど……」

「構いません。何か気づいた事があるのなら仰ってください」

「は、はい。え、えーとです、ね。今回の事、全部、最初から、気づかれてましたよ」


 ヘルガは、ほう、と興味深そうに目を細めた。


「どうしてそう思うのですか?」

「お、お城の警備に、え、えと、それから、使った人のマーク……対応も早かったですし、それに、途中まで気づかなかった……です。泳がされてました……です」


 要領を得ないその言葉をヘルガは頭の中で解釈する。


 警備状況があえて杜撰になっていた。

 ラウデンはすでに目をつけられていた。

 事が起こってからの対応が迅速だった。

 そして、それらの動きに気付く事ができなかった。


「あなたをしても気付けなかったのですね」

「ひゃい、しゅみません。ラウデンさんは、警備を買収したと自信満々だったそうなので……」


 報告を聞いていると、最初から買収などされていなかったのかもしれない。


「責めているわけではありません。あなた以上にこの分野で長けた人間がいませんから、意外だっただけです」

「えーと、多分、お子さんの追跡がなければ、さ、最後まで泳がされている事に気付かなかったと思います……」


 子供の追跡に気付いたから、泳がされている事に気付いたか。

 つまり、その予定外に助けられたわけだ。


 いや、助けられたわけじゃないか。

 むしろ、途中で邪魔をされたと見るべきか。


「それさえなければ、私達の行いであると相手に確信させる事ができたというわけですね」

「はい……」


 ヘルガ達の目的は、リシュコールと戦いを起こす事だ。


 それも高い戦意を持って、攻めてきてもらうのが良い。

 望ましいのは泥沼の戦乱。

 相手を討ち滅ぼさんという激しい怒りに満ちた強い戦意。


 戦いの中で傷つき、仲間を失い、極限まで体力を絞られながらも戦い続けなければ成らない兵士達の苦悩。

 国から食糧を奪われ、子を奪われ、飢えてもなお奪われ続ける民の苦痛。


 それらの交わる怨嗟が必要だ。


 それを糧に、邪神は力を得るのだから。


 長引かせるため、できるなら戦力が拮抗した状態で当たりたい。

 一方が弱れば漁夫の利を狙う他国が介入するかもしれない。

 他国の介入を許さぬよう、力を維持したまま戦いを長引かせるのが理想的だ。


「もうとうに相手はわかってんじゃねぇかな。こういうチマチマした策を弄しても無駄だと思うぜ」

「ならどうします?」

「抑えが利いているなら、それを取り除けばよい」

「シアリーズとジークリンデを始末すると? 二人とも曲者ですよ。難しいと思いますが」

「なら、抑えが利かなくなるほどに怒らせればいい。子を大事にしているなら、子を殺せ」


 それはそれで難しいのではないか、とヘルガは思案する。


「子の一人がよく城から出ているそうだ。標的として一番相手取りやすいだろう」


 ヘルガの考えを読むように、声は続けて補足する。


「手段があるなら、試してみるべきでしょうね。シロ。リジィ。お願いできますか?」

「ひゃい! 頑張りましゅ!」


 一人がすぐに返事をするのと同時に、本を閉じる音がした。


「命じればいいだろう? 王様」

「私は暫定的に皆様方のまとめ役をいただいているだけです。本質的に私達は同じ目標を持つ同志ですからね。あくまでもお願いですよ」

「ふん」


 皮肉っぽく鼻を鳴らす。


「いいだろう。そのお願いを聞くとしよう」

「ちゃんと、私達の仕業だという証拠を残してくださいね」

「そ、それは、シロがやります! 頑張ります!」

「お願いしますね」


 ふっ、と蝋燭の明かりが消えた。


「お腹が空いたわ」


 闇の中、そんな呟きが漏れた。

次は月末に投稿致します。

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