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十三話 波乱の発表会 中編

誤字を修正致しました。

ご指摘ありがとうございます。

 私は備えてきた。

 自分の命を守るために、本当にいろんな道を模索した。


 圧倒的な暴威を前に、真正面から立ち向かう事はあまりにも無謀だ。

 だから、そもそも戦わずに済む道を探していた。


 でも、どうあがいても戦いになってしまう事もあるかもしれない。

 そのための護身術も磨き始めている。


 パパと技を研究し、時には動きを覚えさせるために何度か稽古もつけてもらった。

 それが実際に機能するのか……。

 今、試されようとしている。


 先に動いたのは相手の方だった。


 先手必勝と殴りかかってくる。

 距離があったので、軽く退いただけでかわせた。

 ついでに、相手の顔へカウンター気味のワンツーを見舞う。


 ペチペチと気の抜けた音が響く。

 一応なけなしの魔力を拳に込めたけれど、やっぱり堅い。

 私のパンチなど、まったく効いていないだろう。むしろ殴った手が痛い。


「効かん! 効かんなぁ!」


 相手も私のへなちょこパンチで実力を悟り、笑みを浮かべた。


 さっきよりも強く踏み込んで殴りかかってくる。

 攻撃を避けつつ、アウトからのカウンターを意識して対抗する。

 脳を揺さぶれないか、とフックで顎を横から狙い打ったが……。


 微動だにしない……!


 脳震盪を狙えないかと思ったが、私の腕力ではそれができないようだ。


「目だけは良いようだな!」


 言いながら、右ストレートを放ってくる。

 私はそれを退いて避け……。

 同時に相手は右足のミドルキックを放った。


 パンチなら避けられる。

 けれどこの距離、回避動作を取った直後の今では避ける事はできない。


 できるとすれば防御する事……。

 そして……。


 蹴りが私のわき腹に迫る。

 が、私は次に行うべき動作を取りつつ、蹴りをわき腹で受け止めた。


「うっ……」


 腹筋を固めたけれど、蹴りのダメージは完全に殺しきれなかった。

 でも、掴んだぞ!


 掴んだ相手の脚に体重をかけ、体を空中回転させる。


「なっ!」


 思わぬ事に、相手が声を上げる。


 力がどれだけ強くとも、人の体は物理法則に抗えない。

 比重によっては、身体能力に関係なく人は立っていられなくなる。


 グレイスのように飛べる人間なら関係なくバランスを保てそうだが、どうやらこの女の子はその素養がなかったらしい。


 蹴り足に私の全体重をかけられ、そして捻られ、簡単に転んだ。


 ドラゴンスクリュー。

 この技には、そういう名前がつけられている。


 そして、私は相手の足を手放さなかった。

 相手は派手に転び、仰向けに倒れた。

 その上で私は相手の足首をがっしりと掴む。


 放すもんか、と必死に握り締めていた。


 通じてくれよ。

 内心でそんな事を願う。

 相手が気を取り直して体へ力を込める前に、手早く次の動作へ入る。


 かつて、多くの小学生達を餌食にした悪魔の技を受けるがいい。


 スピニング・トーホールド!


「ぐあああっ!」


 相手の足首を捻り上げ、太腿で挟む。

 その上で、何度も体ごと回転して捻り上げて続けていく。


「ぎ、ぎいいいいぃ!」


 相手は痛みに耐えるように歯を食いしばっているが、私が足首を捻り上げるたびに悲鳴を上げる。


「ギブ?」


 十分に捻じりを加えてから問いかける。


「ノ、ノオォ……」


 涙目で、かなり痛いだろうに。


 でも手心は加えない。

 それから容赦なく、何度か足首を捻り上げる。


「ギ、ギブアッ……プ……」


 相手の宣言で、私の脳裏には試合終了のゴングが鳴った。


 大丈夫?

 と、仲間に心配され、相手は肩を貸されて立ち上がった。


「……覚えていろよ。この事は父上に報告させてもらうからな」

「無能の第二皇女にコテンパンにされました、とでも言うの? あなた、多分武家でしょう?」


 私が言うと、相手は涙目になって押し黙った。

 そのまま仲間に連れられて去っていく。


 現場には、私とゼルダとミラの三人だけが残った。


「ロッティ、怪我はないか?」


 ゼルダが心配そうに訊ねてくる。


「大丈夫だよ」


 蹴られたわき腹が少し痛いけれど、これは怪我と言えるほどではないだろう。


「しかし、強くなったな。ロッティ」

「相手が侮っていたからだよ。そうじゃなきゃ勝てなかった」


 蹴られた脇腹が今もズキズキと痛んでいるし。

 牽制目的だったであろうものでこれだ。

 本気で蹴られていたらそれだけで決着だ。


「だとしても私は嬉しい」


 ゼルダはそう言って笑顔を向ける。


「助けていただいて、ありがとうございました。ゼルダ殿下。ロッティ殿下」


 ミラは丁寧に頭を下げ、謝意を示した。

 私とゼルダはそちらに向き直る。


「私の名前はミラ。ミラ・ヴィブランシュです」

「ミラか、綺麗な名前だな」

「ありがとうございます」


 ミラは柔らかな笑みを浮かべる。

 優しそうな印象のその笑みだが、どことなく警戒してしまう。


 ゲームの先入観があるからだろう。


「なかなかいい啖呵だったぞ」


 ゼルダはミラの事を褒める。

 ゼルダ的には、あれは好感を持てる態度だったのか。


 やっぱり、ゼルダもパパの事でいろいろと言われているんだろうか?


「いえ、お二方が間に入ってくださらなければ、その勇気も持てませんでした」


 暗に私達を盾にした事をほのめかしているのは、どういう意図だろう?

 純粋にそう思っているから?

 謙虚さを示して相手を立てているだけかもしれない。


 ダメだ。

 なんかミラが相手だと疑心暗鬼になって考えすぎてしまう。


 今もゼルダと親しそうに接しているのがなんとも気になる。


「ゼルダ、そろそろ戻ろう。ミラさんも」

「そうだな」

「はい」


 ミラとはどう接するべきなのだろうか?

 正直、戸惑ってしまう。


 伝説の聖具アマテラスに選ばれた彼女は、いずれ貴族という身分を隠して密やかにリューの率いる反乱軍へ参加する。


 あまり戦闘能力の高いユニットではないが、登場人物としてはさまざまな策を弄して弱小勢力だった主人公の軍を帝国に匹敵するまでの勢力へ育て上げた立役者だ。


 つまり、彼女は私にとって敵にあたる人物なのだ。




 会場に戻ると、先ほどよりも人が増えていた。


 見た事のない顔が多い所を見ると、他国の参加者が増えたのだろう。

 さっきよりも交流している人間が多い。

 みんな、情報収集を行っているだろう。


 そう思っている間にも、参加者がホールへ入ってくる。

 入ってきた参加者は立場と名を読み上げられ、そして玉座にあるママと私の姉妹達に挨拶する。


 ゼルダは友達を見つけてそちらに行ってしまった。

 多分、格闘術の訓練で知り合った子達だろう。


 みんな二の腕がたくましい。

 ゼルダと空中腕相撲で遊んでるし。


 当の私はたまに料理を摘むためにテーブルまで行くが、基本的に壁の花だ。

 さっきほど男の子達は寄ってこないが、皆無ではない。

 若干、鬱陶しくなってきた。


 姉妹達には悪いけれど、私がここに居る意味もないしこっそり部屋にもどろうかな?

 なんて事を思い始めた時だった。

 出口の扉前まで歩みを進めた時だった。


「バルドザード王、ヘルガ・ブローク様入場!」


 そんな声が係りの人間から上がった。

 その瞬間、会場に緊張が走ったのを感じた。


 本来、こういう場には外交官か皇族の人間が来るものだ。

 王様が直接来る事はまずありえない。


 みんなが驚くのもよくわかる。


 でも、それだけじゃない。

 それなりに、この国とバルドザードの関係が知れ渡っているからだろう。


 ヘルガは黒のワンピースドレスを着て、その上に狼の毛皮を羽織った女性だった。

 色黒の肌と灰色の髪。

 高いヒールのコツコツという音を響かせながら、彼女はママの待つ玉座の方へ歩んでいく。


 ママの表情は険しく、ヘルガを射抜く目は鋭い。

 こちらに向けられているわけでもないのに、竦みそうになる眼差しだ。

 それを受けてもヘルガは平然とし、むしろ笑みすら浮かべていた。


 私はヘルガを知っていた。

 正確には、ゲームにおける彼女についてだが。

 しかし、実物大の人間として前にするとその威圧感に圧倒される。


「ご機嫌麗しゅう、陛下。ワタクシ、バルドザードで王位をいただいています。ヘルガと申します」


 ヘルガは慇懃に挨拶する。


「よく来られたものだな」

「ええ。雪道を行くのはまぁ大変でしたとも」


 ママとしては、挑発行為を繰り返すバルドザードの態度に対しての言葉だったのだろうが、ヘルガはそれをさらっと流して答える。


 ヘルガはグレイスと双子達にそれぞれ目を向けた。


「可愛らしいお子様達でございますわね」


 言うのと同時に、ママが玉座から立ち上がった。

 ずいっとヘルガに体を寄せる。


 緊迫の瞬間。


「そんなにお子さんが大事ですか?」

「そうだが?」


 ヘルガは丁寧な態度を崩さないが、ママは見るからに喧嘩腰だった。

 一触即発の空気が占める中、視線がそちらに集中する。

 私も思わず息を呑む。


 そんな時だった。

 横で、キィと扉の開く音が聞こえる。


 見ると、一人の男性が退室する所だった。

 私には後姿だけが見えた。


 こんな時に?

 まるで、会場の騒動を隠れ蓑にするような行動だった。


 不思議に思い……少し迷ってからその後を追う事にした。


 暗い廊下を歩む背中を、私は気付かれないよう静かに追いかけた。

 男性は淀みなく進んでいく。

 服装を見るに、この国の貴族で間違いない。


 そうして尾行していると、男性はある一室に入った。

 そこは資料室だった。

 暗くて表札は見えないが、何度か利用した事があるので知っている。


 焦りからか、部屋のドアがきっちりと閉まっていなかった。

 その隙間から覗き見ると、男性が何かの資料を手にとって懐へしまっている所だった。


 あの棚は確か、持ち出し禁止の資料を集めた所だ。

 その資料を取り込んでいるという事はつまり……。


 何て事を思っていると、男性がこちらに向かってくる。

 私は慌ててその場を離れた。

 壷を置かれた台座に隠れる。


 結構そこら中に壷を飾ってるけど……。

 ママ、壷好きなのかな?


 それから、どうしてこんな重要な場所に衛兵がいないんだろう?

 他の国の人間が来るこんな日は、特に守らなくちゃならない場所だろうに。


 男性が部屋から出て、また廊下を歩いていく。


 明確な不正を働く人間が目の前にいる。

 それに気付いているのは私だけだ。

 誰も気付いていないなら、私が追わなくちゃならない。


 追って来てよかった。

 私は尾行を続ける。


 男性は城を出て、周囲を覆う外壁の近くまで来た。

 外壁内へ通じる扉を開いて中に入る。


 本来、ここは鍵がかかっていておいそれと出入りできる場所ではないはずだ。


 鉢合わせないよう、少し時間を置いてから私もその扉から中へ入った。

 完全に姿を見失ったが、足音から場所を割り出してそちらへ慎重に向かう。


 男性は別の扉を開ける所だった。


 外へ出るための扉である。

 完全に資料を持ち出されてしまった。


 扉に隠れながら相手の背中をうかがい、その後を追う。


 城の外は森になっていた。

 この城は周囲を深く広い堀に囲まれており、城壁から堀までの間には木々が植えられている。


 謎の使命感に突き動かされてここまで追ってきたけれど……。

 今になってその判断に後悔が沸いてきた。


 本当は途中で衛兵を見つけて助けを求めるつもりだった。

 でも、ここまで誰とも出会わないとは思わなかった。


 まさか、城から出ていくとも思わなかった。

 とはいえ今になって戻れば逃げられてしまうだろう。


 今になって、私はどうしたかったんだろうかと疑問に思う。

 相手を一人で追いかけた所で、私には何もできないのに……。


 追跡を諦めて戻るべきなんだろうか?


 どうしよう。

 どうしよぉ……。


 そんな事を思いながらも尾行を続けていると。


「止まれ」


 どこからか声が聞こえた。

 低い女性の声だ。


「例の物は?」

「ここにある」


 男性は懐から資料を出して答える。


 すると、上から二人の女性が降ってきた。

 男性の前後を挟むように着地する。


「行くぞ」


 いけない!

 そう思って飛び出そうとした時だった。


「おイタが過ぎるな。皇女様」


 そんな声と共に、私は背後から伸びた手で口を塞がれた。

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