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閑話 パパの一日

 体に力が入らない……。

 年々、無茶ができなくなっている気がする……。


 加齢のせいもあるだろう。

 が、今日に関しては別の理由が挙げられる。


 身を起こして隣を見れば、素っ裸で眠るゼリアがいた。


 東洋の商人から購入した粉末の薬を飲む。

 酷い臭いだし、苦いし、飲みにくい事この上ないが、その酷い味に救いを感じる程度にこの薬の効力は強かった。


 漢方というものらしい。

 麻薬の類でない事は確認済み。

 徐々にではあるが、これを飲むと体に力が戻ってくる。


 着替えを済ませ、寝室を出る。

 書斎に向かい、昨日やり残した資料を片付け始めた。


 昨夜は仕事中、思いがけないゼリアの襲撃を受けてしまい仕事を中断せざるをえなかった。


 そうしていると、ノックの音が部屋に響く。


「どうぞ」


 促すと、ロッティが部屋に入ってきた。


「仕事を手伝いに来ました」

「ありがたいね。でも、どうして僕が今仕事していると?」


 普段なら、予定にない仕事だ。

 それなのに、ロッティに気付かれた事が意外だった。


「……昨夜、ママに連行されるパパを見ました」


 察しのいい子だ。

 思い遣りもある。

 何よりも、娘達の中で一番とっつきやすい。


 他の子は、僕が女の子の扱いに慣れていないのもあってよくわからない部分がある。


「これで終わりだ。お疲れ様」


 ロッティが手伝ってくれたおかげで、やり残した仕事は早く片付いた。


「お疲れ様です。それじゃあ」


 ロッティが部屋を出て行くと、城の人間が動いている気配に気付く。

 本来なら僕が働くのもこの時間からだ。


 今日、最初の予定は何だったかな。


 会議か。


 ゼリアも参加する事になっているが、朝起こさずに出てきたから多分不機嫌だろう。

 下手に起こすとそのままベッドへ引き込まれる可能性があるので、時間に余裕がない時は起こさないようにしていた。


 残念ながら、僕の腕力では一度掴まれると成す術がない。


 もう少し時間を置いて顔を合わせたかったが、仕方がない。


 会議室へ向かうと、案の定不機嫌そうなゼリアがいた。

 会議が始まり、ゼリアの視線を無視しながら議題を進めていく。


 議題は、聖具継承者のお披露目発表会についてだ。


 これには各国の要人を招待する事になっている。


 聖具継承者は、この国において王位継承者と同義である。

 次代の君主を周知しておくという意味を担った催しだ。


 もちろん、バルドザードの人間も招待する事になっていた。

 敵対の意思を感じるとはいえ、今はまだ戦になっていない。


 できれば戦とならない内に、どうにか関係の改善を行いたい所だ。


 情報交換の場にもなるため、発表は自由に移動できる立食形式の宴と平行する事になっている。


「肉が足りないんじゃないか?」


 不機嫌そうに黙り込んでいたゼリアが、初めて口を開いたのは料理メニューに関しての議題になった時だった。


「十分だと思う」


 三分の二以上の料理がすでに肉料理である。

 彼女が満足する比率にすると十割肉料理になるだろう。


「野菜の何が美味いんだ?」

「陛下は揚げたお芋が好きでしょう?」

「まぁ、確かに」

「刻んだ玉葱を炒めて作ったソースは美味しいよね?」

「まぁな」


 あれこれと言及し、さりげなく野菜料理の比率を増やした。


 会議が終わり、少しだけゼリアと話をする。

 公私混同はしないように、という旨の事を長年言い含めた結果、こういう場では閨への誘いなどはしてこないので安心して会話ができる。


 何かが琴線に触れて、ムラッとする時もあるので注意は必要であるが。


 今日は特にそういう事もなかったので普通に退室する。


 次は書類仕事だが、その前にゼリアの片付けなければならない仕事用の資料探しをしていた方がいいだろう。


 などと考えながら廊下を歩いていると、カルヴィナとスーリアに出会った。


「「あら、お父様」」

「素直になれないお父様」

「自分で自分の事がわからないお父様」

「優しいお父様」

「でもちょっと怖いお父様」

「「大好きよ、お父様」」


 意味深な事を告げ、どこぞかへ走り去っていく娘達。

 この子達が一番、よくわからない。


 好意を寄せてくれているのならまぁ良いか。


 資料室に入る。


「あ、お父様」

「グレイス。どうしてここに?」


 グレイスは備え付けの椅子に座り、資料に目を落としていた。


「お勉強してた。ここの本、外に持ち出しちゃいけないから」

「そう。えらいね」


 褒めると、グレイスは照れて顔を綻ばせた。


 こうして自主的に勉強するのは、ロッティとグレイスだけだ。


 ただ客観的に見ると、グレイスは体を動かす方が得意なように思える。

 身のこなしに才能を感じるし、魔力の扱いも上手いようだ。


 ロッティも運動神経はいいのだが、魔力に恵まれていない。

 しかし、それを補って余りあるほどに頭の回転が速い。

 教えた事はすぐに覚えるうえに、勤勉である。


 ゼリアとは教育方針について相談もしたが、子供達のやりたいようにさせるという事に決まった。

 他の子達はその方針に沿っている。


 けれど、ロッティだけは自分がやりたい事というより、自分にできる事を突き詰めている印象があった。

 ゼリアは、それに不憫さを覚えているようだ。


 語弊はあるだろうが、出来が悪い子ほど可愛いという事なのだろう。


 決して出来が悪いというわけではないが、魔力に関して困った事のないゼリアとしては魔力量の少ないロッティが気になって仕方ないらしい。


 グレイスの勉強の邪魔にならないよう、必要な資料だけを持ち出して書斎に戻った。


 仕事を片付けていると、途中でロッティが手伝いに来てくれた。

 正直、かなり助かる。


 仕事の合間に休憩し、昼食を取りながら少し雑談をする。


「ねぇ、パパは領地の視察も担当しているんだよね?」

「うん。そうだよ」

「それに連れて行ってほしいんだけど」

「それは構わないけれど。どうして?」

「勉強のため」


 本当に勤勉な子だ。

 こんな時にまで、貪欲に経験を求めている。


「それから、ゼルダが少し落ち込んでいるみたいだから、パパからも気にかけてほしい」


 仕事が終わる。

 これから夕食まで予定が空いていた。

 僕は訓練場へ向かう。


 ロッティに言われて、ゼルダの様子を見に行こうと思ったからだ。

 ゼルダはだいたい、訓練場にいる。




 ゼルダが気落ちしている事は僕も気付いていた。

 時期からして、聖具に選ばれなかった事が悩みの種だろう。


 ゼルダは特にゼリアへの憧れが強いから、次代の王になれない事がわかってショックだったに違いない。


 訓練場に着くと、ゼルダは剣を振っていた。


「ゼルダ」

「父上」


 声をかけると、ゼルダは剣の素振りを中断する。


「何かありましたか?」

「特に何もないよ。時間が空いたから、様子を見に来ただけ」


 答えるとゼルダは無邪気に笑う。

 ゼルダは姉妹の中で一番素直な子だ。

 その気質はゼリアによく似ている。


 さて、気にかけるにしてもどうアプローチするべきか……。

 直接悩みがあるか聞いてみる?


「父上、姉妹と仲良くするにはどうすればいいのでしょうか?」


 迷っていると、ゼルダは神妙な面持ちでそう問いかけてきた。


「グレイスと仲良くしたいんですが、そっけなくあしらわれてしまいます」


 悩んでいるのはそっちなのか。


 僕は現場にいなかったので又聞きしただけだが、ゼルダは事件を起こしたらしい。

 ロッティを訓練に参加させて怪我を負わせ、それに怒ったグレイスが魔力を暴走させ、場を治めたゼリアがゼルダを叱ったという。


 怪我を負わされたロッティはまったく気にしていないようだが、グレイスはその時からあからさまにゼルダを嫌っている。


 難しい話だ。


 ゼルダはその事を反省しているし、その事を許せと他人に言われてもわだかまりは残るだろう。


「ゼルダ。これについては、何か行動を起こしてどうにかなる事じゃないと思う」

「じゃあ、どうすれば?」

「ゼルダは、自分がした事は間違っていたと思う?」

「はい」


 ゼルダは淀みなく答えた。

 本当に素直な子だ。


「なら、その気持ちを忘れずに誠意を見せ続ける事だよ。それ以外はないよ」

「わかりました。そうします」


 それから練習を再開したゼルダを夕食時まで眺めた。


 一家揃って夕食を摂り、リビングで家族の団欒を過ごす。


 夜が更けてロッティが部屋に戻ると言うと、それを合図にみんな部屋に戻った。


 さて……。

 多分、大丈夫だとは思うが念のため。


 ゼリアと寝室に戻ってから、僕は秘蔵の酒を出した。

 飲みやすく、しかし強いものだ。


「美味しいお酒が手に入ったんだけど、どう?」

「そうだな。たまにはいいかもしれない」


 グラスに酒を注いで渡す。


「強い酒だな」


 グラスの中身を一気に呷り、ゼリアは言う。


「私を酔わせてどうするつもりだ?」


 ほんのりと上気し、艶やかな表情で問いかけられる。


 その問いに、そのまま酔い潰して眠らせるつもり、と心の中で答えた。

 今夜も襲われたら僕は死ぬかもしれないから。


 幸いにしてゼリアは酒に弱い。

 そのくせ、グラスは一度で乾す豪快な呑み方をするのであっという間に意識を失うのである。


 結果、今はすよすよとベッドで眠っていた。


 とはいえ、この状態も少し危険。

 一度、寝ぼけたゼリアに全力で抱きしめられて肋骨をやった事がある。


 自分の酔い覚ましも兼ねて、部屋を出た。


 バルコニーで夜風に当たろうかと思って歩いていると、ある部屋のドアが少し開いていて光が漏れていた。


 ロッティの部屋である。


 こんな時間まで起きているのか。

 気になって、中を覗き見る。


「これは良さそうなんだけど、この形にもって行くのがなぁ……」


 ロッティは部屋の中、蝋燭の明かりを頼りに何かしていた。

 よく見ると手元には二つの人形があり……。


 ロッティは二つの人形を組み合わせ、股間と尻の辺りをぐっぐっと押し付け合わせていた。


「…………」


 声をかけようとしていたが、それを見て足音を殺しつつその場から離れる。


「女の子は難しい……」


 思わず、そんな声が漏れた。

ロッティが研究していたのは、リバースパロスペシャルという技です。


明日と明後日に渡って更新予定です。

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