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十一話 余暇の過ごし方

 関節技って、どうやって研究すればいいんだろう。


 ゼルダに「技かけさせて」って頼む?

 長々と一方的に痛い思いをさせるかもしれない事に付き合わせるのはちょっと可哀想だ。

 頼む時は、できあがった技を試す時だけにしよう。


 それに他人を絡めるとお互いの予定などもあって、空き時間に研究する事なんてできないだろう。


 そうしてあれこれ考え、私は人形を作る事にした。


 漫画家さんが使う、デッサン人形みたいな奴を出入りする細工職人さんにお願いした。


 そうして届く、二体一組の関節技研究人形。

 ロビンくんとニコライくんである。


 それぞれの関節には三種類の線が入っている。

 通常状態を示す黒い線、関節が極まっている状態を示す赤い線、関節が緩んでいる際の青い線だ。


 黒い線が赤い線と重なれば関節が極まっている状態。

 青い線に近い場合は極まっていない状態。

 という風な感じである。


 空いた時間、私は人形で関節技の研究を始めた。

 あんまり凝った関節技は実戦的ではないから、少ない手順で極められるものが好ましい。


 相手の攻撃の虚を衝くのもいいかもしれない。

 リューの関節を極めた時のように。


 事故ではあったけれど、あれは完璧な成功例だ。

 まずはあれを覚えよう。


 人形を使い、あの時の状況を再現する。

 どういう動きをとればいいのか解れば、自分の動きも確認する。


「メイルストロームパワー!」


 途中で飽きてブンドドを始める私。


「あばれんなよ。あばれんなよ」


 さらに飽きてちょっと他人に言えない遊びを始める私。


 そうして時折、気分転換を挟みながら研究を進めた。




「私もママみたいに胸が大きければなぁ……」

「どうした急に?」


 リビングでの団欒。

 いつも家族が揃う事は稀で、この日は丁度時間の空いたママと二人きりになった。

 こんな愚痴が出たのも、母親と二人きりだから甘えが出たのだろう。


「だって、魔力量は胸の大きさに比例するでしょ? これは魔力が胸に溜まるからじゃないの?」

「違うぞ」


 問いかけると、ママはあっさりと否定する。


「胸に詰まっているのは、愛だ」

「……」

「私はお前を愛している。もちろん、子供達もみんな愛している。ママも姉貴もな。でも、パパを一番愛している。その愛情がはち切れんばかりに詰まってるんだよ、ここには」


 と、ママは自分の乳房に親指を突きつけた。


「私だってこの話を聞いた時には半信半疑だったが、シアリーズと出会ってから胸が一段と大きくなった。だから間違いないだろう」


 女性ホルモンとか恋愛ホルモンがドバドバ増えまくったせいじゃないの?


 その時である。

 入り口のドアを半分開けた状態のパパに気付いた。


 嫌な予感を覚えたのかそのまま部屋へ入らず、ゆっくりと音を立てないようにドアを閉めた。


「シアリーズの事を考えていたら会いたくなったな」


 会うだけで済むかな?

 なんかドスケベな事考えてる時の顔してるし。


「ちょっと探してくる。時間は空いてるしな」


 空いた時間で何をするつもりなんですかね?


 ママはリビングを出て行った。

 頑張って逃げてね、パパ。


 その夜、げっそりしたパパが私の部屋へ来た。


 逃げられなかったんだ。


「ママはああ言っていたけれど、胸の大きさが魔力量に比例している事は間違いない。おやすみ」


 わざわざ訂正しに来てくれたらしい。




 その日の訓練場には、私を含めて五人の人間がいた。


 グレイスと双子達、そしてママである。

 継承した聖具がどんなものであるか、見ておきたいとママが言ったためだ。


 多分、個人的な興味からだと思われる。

 偶然居合わせた私は、見学したいと申し出た。

 私も個人的な興味からそう言った。


 妹達はそれぞれの聖具を装備しており、そしてママも珍しく自らの聖具であるゼウスを持ち出していた。


 珍しいというより、初めて実物を見たかもしれない。


 ゼウスは、ママの身長よりも大きな直径のチャクラムであり、中央の空洞を分かつように持ち手が伸びている。


 利剣乱舞が使えそうな形だ。


 ただ、私の知っているゼウスとは少し形が違っていた。

 ゲームにおけるゼウスは刃がノコギリ状になっていたのだが、ママが今手にしているゼウスは刀剣のような刃だ。


「さて、どうやって聖具の性能を試すか。模擬戦でもさせてみるか……」


 などとママが呟くと、グレイスがママの服の裾を掴んだ。


「ねぇ、ママ。グレイス、戦うのは嫌い」

「ふむ」


 ママはそんなグレイスの主張に一つ唸った。


「なら仕方がないな」

「「えー! 私達は戦いたかったのにぃ!」」


 双子の抗議に、ママはまた一つ唸る。

 その視線がこちらに向いた。


「どうしようかロッティ」

「双子とはママが戦って、グレイスの聖具は聖具単体で小突いてみればいいんじゃないかな」

「聖具は持ち主の魔力がないと性能を発揮しない」


 そうなんだ。


「離れた物へ魔力を流す事もできるんだがな。こういうふうに」


 言いながら、ママはゼウスを適当な場所へ投擲した。

 ズゴォ、という音と共に地面が抉れる。

 地面に刺さったゼウスが、ママの手へ戻ってきた。


 ジェ○イみたい。


「遠くを攻撃できる手段は便利だぞ。グレイスはできるか?」

「ううん、できない」

「なら仕方ない」


 ママはため息を吐いた。


「グレイス。軽く小突くから転ばないように注意するんだ」

「……! うん」


 緊張した面持ちでママの言葉に頷くグレイス。

 そして、ママは本当に軽くグレイスの纏うインドラを小突いた。


「ヴッ……」


 グレイスは苦悶の声を上げてよろめいた。

 そんな威力が乗っているように見えなかったのに……。

 ちょっと体が浮いたんだけど。


「たいした堅さだ。これなら、グレイスを守ってくれそうだな」


 ゲームにおけるインドラは一定ダメージ以下を無効化するという効果を持っていた。

 でも、今のは明らかにダメージが通ってそうだな。

 今の拳には、グレイスの防御力を突破するだけの威力が乗っていたのだろう。


「大丈夫か? グレイス」

「……うん」


 大丈夫じゃなさそう。


「じゃあ、次だ。カルヴィナ、スーリア。いつでもかかってくるといい」


 笑みを向けるママ。

 そこから視線を双子に向けると、二人は丁度ママへ跳びかかろうとしていた。


「タルタロスエンド!」

「平坂落とし!」


 カルヴィナがハーデスで切り上げ、スーリアがイザナミを切り下ろす。


 初手から必殺技ブッパですか。


 挟み込むような軌道の刃にさらされ、ママは焦った様子を見せなかった。


 二つの刃が上下からママを襲う。

 が、ママがゆらゆら動いたかと思うと、刃がすり抜けるようにして通り過ぎた。


 けれど、双子は動きを留めずに次の技を放つ。


 双子は動き回りつつ、それでも常にママを挟む形で位置取って攻撃を続けた。


 しかし、当たらない。

 ゆらゆらと動き、紙一重で全てかわす。


 それどころか刃の腹を指で弾き、当たらない方向へ軌道を変えるという芸当までやってのけた。


「火車!」

「ケルベロス!」


 前転宙返りをしながらの斬りつけと後転宙返りをしながらの斬りつけが両サイドからママへ迫る。


 が、強引に着地して途中で刃の軌道を変えた。


 双子が同時に、体を独楽(こま)のように回転させる。

 縦の斬撃が、横に変わった。


 狙うのは首。

 二つの刃が、前後からママの首を襲った。


「これが私達の!」

「最高の技よ!」

「「ヘルズゲート!」」


 フェイントを交えての合体攻撃だ。

 咄嗟に腕を上げて防御する。


 刃が触れると同時に、火花が散った。


「聖具と言えど、魔力が足りなければこんなものか」


 そう言ったママは、防御すらしていなかった。

 二人の振るった刃は、ママの首で完全に止まってしまっている。

 血が流れていない所を見ると、皮の一枚すら斬れていないようだった。


 その様子を見ると、流石の双子も動揺を見せていた。


「ただ、娘の成長を目の当たりにできたのは喜ばしい事だな」


 双子がママの首から刃を引く。


「いい休憩になった。これからの仕事に良い気分で挑めそうだ」


 そう言うと、ママは訓練場を去っていった。


「みんなお疲れ様。グレイス。体、痛む?」

「あ、もう大丈夫だよ。お姉様」


 ならよかった。


「カルヴィナとスーリアも凄かったね。最後の攻撃は首を狙ったからびっくりしたけど、手加減したんでしょ?」


 そうじゃなきゃ、親の急所なんて狙えないはずだ。

 ちょっとびっくりさせるつもりだったに違いない。

 この二人ならやりそうだ。


「いいえ、本気でやったわ」

「ママをぶち殺そうとしてやったわ」


 イカれてんのかこいつら。

 ……イカれてるんだろうな。


「「でも、いまいちこの子達の凄さがわからなかったわ。本当に強いの? あなた達」」


 双子が自らの聖具を見て言う。


 ハーデスは与えたダメージ値を追加でそのまま相手に与える効果で、イザナミは与えたダメージ値の数割分自分の体力を回復する効果を持っている。


 どちらもダメージが通らなければ、効果を発揮しないタイプの聖具だ。

 見るからにダメージ0だった今の戦いから、得られるものはないだろう。


 そして、自分の冗談みたいな強さを見せ付けるだけ見せ付けて去っていったママの聖具、ゼウスがどんな効果を持っているかと言えば……。


 使用者を飛行タイプにする。

 というかなりしょっぱい能力だったりする。


 同じ飛行タイプ以外の攻撃に対して命中率低下のデバフがかかるし、無印には対空攻撃がなかったので地味に厄介な特性ではあるんだけどね。


 グレイスなど一部のキャラクターが自前の能力で飛行持ちなのもあって、なんとも残念なイメージが拭えない。


 ただ、そんなしょぼい能力なのに、作中最強なのは何故なのか?

 なんでそんなに強いの? と言いたくなる。


 この日は、久しぶりに当時と同じ気持ちになった。

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