九十話 自由な虜囚と強敵対策
皆様、こんばんは。
今回の更新は二話分になります。
ゼルダとの戦いを終え、反乱軍は一度後退してリシュコール軍から距離を取った。
今は次の行動に備え、休息と作戦立案のために野営を行っている。
すぐさま接敵するという事はないが、見通す地平の先には間違いなくリシュコールの部隊が息づいているのだ。
緊張感は保つべき状況である。
束の間の休息……と言いたい所だけれど、野営地の雰囲気はその様ではない。
リシュコールの正規軍に勝ったという事実に、仲間達は沸き立っていた。
まだ前の戦いで溜まった疲労もあるだろうが、それ以上に勝利の興奮が残っているようだ。
それが宴会という形で現出していた。
今はまだ日も高い。
野営の準備を終えて、すぐさま料理と酒が用意された。
そんな宴を楽しむ者の中にリュー達、幼馴染組がいた。
「ただ火をぶつけるだけじゃあまり効かないだろ? だからさぁ、ちょっと溜めて出すんだよ。一気に最高火力出して、爆発させる感じで」
「なるほどなぁ」
「それにしてもなかなか、美味いもの食ってるな」
「あたいが腕によりをかけて作ってるッスよ。あたいはここの料理長ッス」
「戦地でこれは贅沢だな」
問題は、その幼馴染組の中にゼルダが混じっている事である。
なんかいるし……。
「何でいるの?」
私が問いかけると、ゼルダが私に気付いてこちらを向く。
「そりゃあ、虜囚だからな」
「虜囚はこんなにフリーダムじゃない」
「言いたい事はわかる。しかしほら、鎖をつながれているし」
ひょい、と上げたゼルダの手首には鉄球つきの鎖が繋がれていた。
よく見れば、四肢全ての首に鉄球が着けられている。
「そんな片手で軽々持ち上げられてるの見ても説得力がないんだけど」
「まぁ、そんな堅い事言うな。大丈夫だって」
リューがなんとも楽天的な事を言う。
「これじゃあ、武器代わりにされるかもしれないじゃないか」
一番乗り! とか言って振り回してきたらどうするんだ?
「大丈夫だって。その鉄球、黒く塗っただけの木製だし」
「ますます意味なくない?」
「鉄は不足してるからな」
答えになっていないが?
「安心しろ。逃げる事はない」
答えるゼルダに向き直る。
「ここに居る間、静観しているつもりだ。リシュコールと反乱軍、どちらに軍配が上がるにしても全て見守っている。信頼できないか?」
「できるけど」
そういう人間でない事はよく知っている。
ただ、ゼルダは敵の指揮官だ。
それが反乱軍のトップと親しげにしているのは、他の仲間達に示しがつかない気もする。
「あ、ゼルダさん。今夜も飲み比べしましょうね!」
「ああ。またな」
通りすがりの仲間が気さくに声をかけて去っていった。
大丈夫そうだな。
「それで、次はグレイスをどうするつもりだ? お前が一声かければ、こちらに来そうだがな」
「それはよくない。私としては、戦って勝ちたいから」
「鍛えるため、という話か? 回りくどい」
仕方ない。
シナリオを踏襲すれば反乱軍が勝手に強くなるのか、戦いを経て強くなるのか私にはわからないんだから。
だったら、戦わせられるだけ戦わせるさ。
「だとすれば大変だぞ。グレイスは強いからな」
「具体的にどう戦うかはこれから詰める」
元々強い上に聖具持ちだ。
四天王最強の評判も伊達ではない。
「ああ、そうだ。僕が死んだ事聞いて、ママはどうしてた?」
ふと気になって訊ねる。
「訊く必要があるか?」
ちょっとムッとした様子でゼルダは返した。
少なくとも動揺はしていたようだ。
まぁ、本当の所はわかっていたんだ。
ただ、自分に向けられる他人の感情に自信が持てないだけで。
「ゼルダが死んだって噂を流したらどうなるだろう?」
「やめろ、馬鹿野郎」
本気めに罵倒された。
「私としては、ママにバルドザードから戻ってきてほしいんだけどね」
「ママとも戦う気か? やめとけ。勝ちたいならば、私の生存があやふやな内に王都を占領しろ」
「ママにも勝ちたい」
「わがまま言うんじゃありません」
ゲームのラスボスだ。
これを超えないまま、バルドザードへ行くのは不安だ。
「私が死んだ事を知って反乱軍に単身で突っ込んでくる姿を想像してみろ。……二秒ともつまいよ」
「さすがにそれは言い過ぎだ」
「過大だとは思わんが?」
ゼルダは少しママを大きい存在だと認識しすぎている。
……実際、大きいけど。
「お前が死んだという話を聞かされた時にも、すぐに行こうとしたのを止めたんだ。それだけ、大事に思われている事を自覚するんだぞ?」
「わかってるよ」
姉妹の忠告は聞いておこう。
それはそれとして今はグレイスだ。
リシュコール四天王最強を相手に、どう戦うのか?
軍師殿のお手並み拝見だ。
「強い将をできるだけ多く差し向けて叩くしかないですね」
軍議の席でグレイスの倒し方について訊ねると、ミラはそう答えた。
「どうかしましたか?」
「思ったよりもシンプルな作戦だったから」
少なくとも知性は感じられない。
「難しすぎると理解されないので」
反乱軍のみんな馬鹿だから理解できないって話?
「それは半分冗談として」
「半分は本気なんだ」
「取れる選択肢が少ないというのが実際のところです」
「どういう意味かなぁ?」
「正攻法の戦法というものは将同士の戦いになります。この戦いにおいて、どれだけ有利な状況に持ち込むのか。それを考えるのが軍師の主な仕事です」
この世界の人間は頑丈なので、罠などで手傷を負わせる事が難しい。
火計など物ともしないだろう。
となれば、そういう方向に軍略が発達していくのは自然な事だろう。
「戦力の分断を行って強者に強者を当てるというのが、基本的な手段になります。しかしこの辺りは平地が多く、地形を利用した分断などが難しい」
「じゃあ、どうする?」
「ゼルダ様の時と変わりませんよ。すでに部隊同士の連携を断つという分断は成されているのですから。あとは、戦場において立ち回りで上手くグレイス様を孤立させ、そこに最大戦力をぶつけるだけです」
なるほど。
最初の部隊同士の連携を断つという策も、思えば分断に類するものだ。
「それが基本的な戦術となりますから、挑発などの誘引にかからぬ冷静な者が名将と呼ばれる事が多いです。まぁ、策にひっかかりながら武力だけで突破できる者も名将でしょうが」
「グレイスは前者だな」
ママは後者だろう。
「ゼルダ様の時と同じように、あなた様が釣り出してくださればひっかかると思いますが」
「極力、正体は隠したいからそれはなしだ」
何より、ゼルダみたいに一目で看破されるとは限らないし。
あれさえなければ、ゼルダの時にも捕獲以外の選択が取れ――
「……ちょっと待った。ゼルダの時と同じなら、敗走させるだけでいいんじゃないの?」
ゼルダの時は兵力を削って逃げる判断を下させるという作戦だった。
同じ方法でもいいのに、どうして正面から戦う話になってる?
「グレイス様を倒す方法を訊かれましたので」
「意地悪な奴だなぁ」
「ロッティ様には、ロッティ様なりの考えがある場合もありますので」
そう言われると何も言えないな。