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八十六話 疎にして漏らす

皆様、こんばんは。

今回の更新は今日と明日で二話ずつの予定です。


著者は昔から、赤い弓兵に脳を焼かれています。

 反乱軍の行く手には、リシュコール軍主力による戦力の壁が立ち塞がっていた。


 筆頭となるのはゼルダ。

 そしてグレイスである。


 それ以外に布陣する部隊の将も、名だたる将達だ。

 ゲーム中にも出てきたし、私が名を覚えているという事は強敵だ。


 幸いなのはトゥーラ……イクスの母親がいない事。

 彼女は終盤、四天王よりも後に出てくる強ボスだ。

 今当たるのはまずい。


 まぁ、ゼルダとグレイスも十分まずいんだけど。


 彼女達の実力が今どうなっているのかはわからないが、バルドザードでの実戦を経験して強くなっている事は間違いないだろう。


「やはりこうなりますか。想定通りですね」


 作戦会議の席。

 反乱軍の主要人物が揃う中、ミラが発言する。


 想定通りなの?

 私はまったく想定してなかったよ?


「どう対処するのが最善かな? 軍師殿」

「横一列に並んだ布陣での前進。意図は我々の包囲でしょう。穴があるとすれば、本来ここまで大規模で行う戦法ではないという事。それでも強行した結果、部隊同士の距離が離れ過ぎている。戦力の不足を補うため、感覚を空ける必要があったのでしょう」


 流石は軍師だ。

 私の考えが及ばない所にも考えが及んでいるようだ。


 つまり、今回のリシュコールの作戦は部隊を網に見立てた追い込み漁の様なもの。

 しかしながら網は荒く、隙間が多いという事だ。

 天網とはいかんな。


「なら、隙間を衝いてやり過ごすか?」


 問いかけると、ミラは首を横に振って否定する。


「各個撃破を提案します」


 ミラは積極的に戦う事を提案した。


「反乱軍の戦力でそれはできるか?」

「攻めるべき場所があるとすれば、多少の侮りが見られる所。一当てされても突破はできないという前提を以ってこの陣形は取られています」


 確かに、敵将の顔ぶれを見るにどの部隊も強いのはわかる。

 反乱軍では、抜けないだろうという考えは確かに垣間見えた。


「つまり、突破さえできれば機能を失う?」

「私にはそう見えます。そして、足並みの揃っていない部隊がある」

「どこ?」

「ゼルダ様とグレイス様の部隊です。他と違い、行軍が速く突出しています」


 よりによって一番攻め難い所じゃないか。


「仲の良い姉妹を殺されたと思えば、当然とも思えますが」

「私の死が彼女達を動かしている、と?」


 この場にいるのは、皆が聖具使い。

 私の正体を知るものばかりだ。

 だからそう問いかける。


 すると、何を今さら? という目をミラから向けられた。


「そらキレるわ。あんだけ仲良かったんだから、真っ先に突っ込んで来るのちょっと考えればすぐわかるだろう」


 リューもミラの発言に対して同意する。


 ……もしかして、今回のイレギュラーも私の存在が大きいのか?

 ゼルダとグレイスが私の死に対して怒り、反乱軍の討伐にいち早く乗り出したというのなら……。


 逆に考えて、ゲームで真っ先に駆けつけなかったのは(ロッティ)の死に対して、特に強い感情を抱かなかったという事ではなかろうか。

 ゲームの私は、姉妹に嫌われていたのかもしれないな。


「ともかく、突出しているゼルダかグレイスを狙うという事でいいのかな?」


 私の問いにミラは首肯し、策を開示する。


彼我(ひが)の戦力差から攻める手立てを考えれば、各個撃破以外の選択肢はありません。わずかばかりではありますが、行軍速度はゼルダ様の方が高いです。なので一度退き、この行軍速度によってできる部隊同士の間隔を開かせます」

「孤立させようという魂胆だな。上手く行くか?」

「冷静さを欠いている今なら、可能でしょう。その上で待ち伏せを行います。二日後を目安に考えれば……。ここでしょうか」


 ミラは用意された地図の一点を指した。

 そこには小さな森があった。




 作戦を決めた反乱軍は、すぐさまそれを実行に移した。

 部隊を後退させ、ミラが予測した待ち伏せ地点まで移動する。

 そして斥候を放ち、リシュコール軍の動きをつぶさに観察した。


 リシュコール軍は横一列に並んだ布陣から、一定の速度で行軍していた。

 さながら、それは引き網漁のようにも思えた。


 しかし、行軍距離を経るにつれ、一部の突出が目立ち始める。

 ゼルダとグレイスの部隊である。

 これはミラの予測が的中したと見ていいだろう。


 それから少しするとさらにゼルダとグレイスの距離にも差が出始める。

 ゼルダの行軍速度はグレイスよりも速く、一部隊だけ前へ出る形になっていた。


 そして、例の森へ到達する。


 ここまではミラの想定通り。

 想定と違ったのはゼルダが夜に森を通り抜けようとし、途中で野営をする事になった点である。


 森は、人の隠れる場所が多すぎる。

 本来ならば、襲撃などの警戒をして夜の森などで野営をする事は避けるものである。

 まして、この作戦を取るならば他の味方と密に連絡を取る事が肝要だった。


 夜の森に入るという事は、あまりにも無謀である。

 やはり冷静さを欠いているという事なのだろうか。


 それほど、妹を殺した相手が憎いんだろうか……?


 ともかくとして、反乱軍にとってはこれ以上ないほどの絶好だった。


 ゼルダの部隊が野営の準備を始める様子を、私達は身を潜めながら遠目に眺めていた。


「足止めだけでいいのか?」


 班分けで同じだったリューが問いかけてくる。

 他にも、ケイとジーナが一緒に居た。

 リューの問い、それへの返答が気になるのか二人もそれとなくこちらを見ている。


「ゼルダに死なれるわけにはいかない。だから作戦目標はゼルダを無力化させる事だ。となれば、生け捕りか敗走のどちらかになる」


 リュー達で足止めし、他の班で兵士達を攻撃する。

 個人による突破の難しさを知らしめ、なおかつ戦力的な不利を突きつけてやれば冷静じゃないゼルダでも正確な判断を下すだろう。


 今回の件もあるが、うちの家族は感情で動きやすい。

 ゼルダに関して言えば、その矢印の向く先は私だけではないだろう。

 仲間の兵士達に被害を出してまで、自分の望みを優先する事はない。


 他者との関係に一番悩み、取り組んでいたのはゼルダだ。

 長子としての責任があるからか、姉妹の中でも一番感情の抑えが利く。


「生け捕りでもいいんじゃないか?」

「そうなると負担が増える事になる。それに、ゼルダがどれだけ強くなっているかわからない。こちらの戦力では、相手にならないかもよ?」

「俺らも強くなってんだぜ?」

「ああ。知ってるよぉ」

「別に倒しちまっても構わないんだろ?」

「……負けそう」

「なんで?」


 そんなやりとりをしていると、ゼルダの部隊の設営が完了したようだ。

 装備を外し、休憩を取り始める兵士の姿が見え始めた。


「さ、そろそろだ」


 口火を切るのはミラだ。

 声が上がるのと同時に、こちらも突撃を仕掛ける。


 そして、その時はやってきた。


 ミラ達の班、全員が声を上げる。

 その声を合図として受け取り、私達も突撃を仕掛けた。


「後ろにいろよ」

「わかってる。僕も死にたくないからね」


 突撃隊形の中、先頭を行くリューと対象的に、私は後方へ下がってついていく。

 突入した野営地では、すでに兵士達が戦っていた。


 食事の用意が途中で放り出されている。

 鎧を脱ぎ、槍だけを手にした兵士が戦いに赴いている。


 これから休息に入るという時に攻められ、それでも混乱せずにすぐさま反撃に移ったのだろう。

 強い兵士達だ。


 形だけでなく、実際に戦ってきた部隊なのだという事が如実にわかる。


「みつけたぞ」


 ジーナが告げ、人差し指を彼方へ向けた。

 その先には、ゼルダがいる。

 完全武装のまま、トンファーを握って応戦していた。


 休むのは最後か。


「行ってくるわ」


 リューが言い、ゼルダへと駆け出した。

 それに続いて、ケイとジーナも駆け出す。


 聖具の力で加速したジーナが真っ先に一当てする。

 ほぼ奇襲だっただろうに、ゼルダはその一撃を防いでいた。


 リューとケイも続けざまに攻撃するが、それも見事に防ぎ、なおかつ反撃する余裕もあった。

 リュー達も強くなっているが、やはりゼルダも強い。

 流石はステージボスを任されるだけの事はある。


 ああ、強いなぁ。

 私の姉は……。


 彼女達の戦いを眺めながら、そんな事を思う。


 リュー達とはほぼ互角。

 打倒できるかどうかはわからない。

 けれど、それでいい。

 倒す必要はないのだから。


 不意に、ゼルダの視線がこちらに向けられた。

 目が合った気がした。


 すると、ゼルダは三人の囲みを破ってこちらに走り出す。

 リュー達が慌ててそれを追った。


 班の指揮者として見極められてしまったか……。

 頭を潰すのは、当然の判断だ。


 さて、どうしたものか……。

 子供の頃はできなかったが、ゼルダは炎熱の属性変化を持つ。

 今は当然使えるだろう。


 私と相性は悪い。


 それでも対応できるよう、私は迎撃の準備をとった。


 真っ先に追いついたジーナを殴り飛ばすと、ゼルダは私の目前まで迫った。

 そして……。


「ロッティ!」


 彼女は私の名前を呼んだ。

トゥーラはバルドザードから戦力を割くべきではないと判断して自分から残りました。

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