閑話 ヘルガ奮闘記
皆様、こんばんは。
今回の更新は今日と明日、二話ずつの予定です。
「ガレオン部隊、中央部の侵攻を阻止。リシュコール軍は後退しました」
「西部方面でリシュコール軍が北上開始。率いるのはジークリンデ」
バルドザード王城。
王の執務室。
ヘルガは伝令の報告を聞いていた。
そこから少し離れた所で、イヴが焼き菓子を食べている。
どう対応すべきかとヘルガが悩んでいると、執務室のドアが開かれた。
また状況が動いたのだろうか?
流石に嫌になるな。
そう思って視線を向けると、入室してきたのはギオールだった。
「今帰ったぜ。忙しそうだな」
「押し付ける相手ができて、少しだけ気分が楽になりましたよ」
「俺に行けって? 帰ってきたばかりなのに」
「余裕がないので」
ヘルガはギオールにジークリンデの撃退を命じた。
「まぁいいけどよ」
「それで? 何か耳寄りな情報はありますか?」
「リジィが持って帰ってる以上の新事実はねぇよ」
「そもそもリジィが帰ってきていないんですよ」
「あいつまだ観光してんの?」
呆れた様子のギオール。
「リジィは帰ってきた後に叱るとして、報告をお願いします」
「反乱軍には聖具使いが集まってる。そいつは確かだ」
「そうですか……」
シロの偵察である程度の情報は得ていた。
しかし、その裏取りはできていなかった。
「全部で八つ……。リシュコールの保有している聖具を合わせれば、全ての使い手がいる状態だな」
全ての聖具に使い手がいる。
そして、それはバルドザードも同じだった。
運命的だな、とヘルガは苦笑する。
「……反乱軍が、リシュコールの国軍に対抗できると思いますか?」
「できる」
ヘルガの質問にギオールは断言で返す。
その言葉でヘルガの腹が決まった。
万全を期すならば、反乱軍は今のうちに潰しておきたい。
しかし、リシュコール……というより、ゼリアを相手するには少しでも戦力がほしい状態だ。
内部からリシュコールを攻めてくれる勢力というのは、あまりにもありがたかった。
邪神の復活には、まだ糧が足りない。
今しばらくは現状を維持しなければ……。
「では、反乱軍の支援は続けましょう」
「いいんだな?」
「えらく念を押しますね」
「俺としても友誼を結んだ奴らを殺したかねぇ。そういう判断を下されたなら、覆されたくないのさ」
ずいぶんと気に入ったものだ。
と、ヘルガは苦笑する。
「だが、それだけじゃねぇ。あいつらはお前が思ってるより強いぞ」
どうやら、ギオールの言葉は正反対の意味も含んでいたようだ。
友人を潰されたくないが、今の内に潰さなくていいのか? と。
「あなたをそこまで警戒させる何かが?」
「反乱軍の頭目、あいつは得体が知れない」
「リューですか?」
その名は、諜報部が調べてきた名前だ。
「ありゃ、表向きだ。実際は、シャルって奴が仕切ってるよ」
その名前は初耳だ。
「顔を隠してて正体はわからん。が、放っておくのは怖いな」
根拠はないだろう。
しかし、彼女の直感は良く当たる。
「気に留めておきましょう」
今までは重要視していなかったが、一度シロに調べさせた方がいいかもしれない、とヘルガは決めた。
「報告は以上ですか?」
「そんなもんだな」
「では、西部へ向かい、ジークリンデの部隊を押し返してください」
「休みてぇ」
「休みたいですねぇ。申し訳ありませんが、余裕がありません」
「クラウは?」
「彼女は東部の守りです。真面目な方ではありますが、あまり積極的な方ではありませんからね」
「仕方ねぇ。あいつは俺達と毛色が違う」
ギオールは溜息を吐いた。
「普段どおりならば、そろそろリシュコール王が出陣してくる時期です」
ゼリアは国政を担うために時折戦地を離れ、それに伴って娘達も国へ引き上げさせる。
ゼリアとその娘達が戦地へ戻ってくればこの戦況はひっくり返されるが、不在の期間に勝ちを重ねて戦況を維持するのがバルドザードの戦略である。
「わかったよ。一日ぐらいはゆっくりしていいだろ?」
「ええ。ゆっくり、一日だけ休んでください」
ギオールが部屋の外へ出る。
「げっ!」
「よぉシロ、遊ぼうぜぇ」
「ぎゃああっ! 絡んでくるな! 大人しく帰りやがれです!」
「ここがお家だぜ、シロ!」
どうやらシロと鉢合わせたらしい。
休みなさいってば。
そう思いつつ、ヘルガは溜息を吐いた。
再びドアが開き、リジィが入室する。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「これ、お土産」
「ありがとうございます。……あなたはお休みなしですよ?」
クラウは六人目で最後の呪具使いなのですが……。
前に六人目についての話を書いたかあまり覚えていないので、もしかしたら別の名前で登場しているかもしれません。