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八十話 ルマルリ攻略 後編

 鍵を使い、隠し通路を進む。

 私一人だけじゃなく、反乱軍の部隊全員だ。


 一人では広く、部隊が通るには狭い通路。

 ぞろぞろと歩んでいく。


「領城への隠し通路なんて、よく知ってたッスね」


 隣を歩くケイが声をかけてくる。


「やっぱり、王女様だからそういうの知ってるんスか?」


 声を潜め、そう問いかけてくる。


「こういうものは王様にも秘密で作るものなんだよ」

「仲間同士なのに?」

「王様が敵になった時に逃げるためさ」

「どうしてそんな事になるんスか?」

「王様に叱られそうな事をしているから、とか」


 まぁ、古い通路だ。

 以前の領主が作ったという可能性の方が高いけど。

 前の領主は悪い事していたのかな?


「領主からすれば、皇帝は……。そうだな。ケイにとっての村長みたいなもんだよ。いたずらして叱られそうになった時はどうする?」

「……怖くて隠れてたッス」

「その隠れ場所、村長に教えられる?」

「すごく納得したッス」


 さて……。


 通路が終わり、目の前には階段と行き先を塞ぐ天蓋がある。

 ケイに頼んで押し開いてもらう。


「誰もいないッス」


 頷いて返す。

 天蓋の先には、食料庫と思しき場所があった。

 率いてきた反乱軍の仲間達に目を向ける。


「みんな、ここはもう領主の城。敵のど真ん中だ。しかし大丈夫。領主は戦力の殆どを外の守りに向けている。中には一人たりとも入れたくないんだろう。だから、中にいる兵士はそれほど多くない」


 私は仲間に語りかける。


「本来、こういう時はこっそりいくものだが……。こんな大所帯じゃあ、無理があるよな」


 小さく笑いが漏れる。


「だから逆に、騒ぎながら入ってやろうじゃないか。急に城の中から敵が出てきたら相手はびっくりするぞ。じゃあ行こうか。派手にやろう。ケイ、扉を蹴破ってくれ。これ以上なく、音を立ててな」

「了解ッス」


 ケイは返事をすると、食料庫の扉を蹴った。

 半ばから扉は割れ、大きな音が周囲に響く。


「うおおおおっ!」


 誰とも無く、雄叫びが上がる。

 ケイ、ジーナ、クローディアが先導し、担当する部隊の仲間達がそれに続く。

 城中へ駆け出していった。


 ほどなくして、戦いが始まる。


 私は一人、遅れて城内を歩む。


 反乱軍と領兵が戦っている。

 明らかに領兵は浮き足立っていた。

 思わぬ場所からの奇襲は大きな効果を発揮しているようだった。


 反乱軍と戦っていた領兵を掴み、不意を衝いて倒す。


「ぎやっ!」


 腕を極めたまま顔を踏みつけ、続けて踵に仕込んだ鉄塊で三度続けて踏みつけた。

 傷つける事は敵わないが、心理的なダメージと痛みは大きいようだ。

 手を離しても、領兵は顔を手で覆ってのた打ち回っていた。


 同じように、苦戦している反乱軍の仲間を助け、領兵を投げ倒していく。


 前方通路の右手側。

 石壁が崩れ、領兵が飛び出してくる。

 領兵はそのまま倒れ、動かなくなる。


 空いた穴からケイが現れる。


「ここに領主はいなかったッス」

「了解」


 言葉を交わすと、ケイはまた別の相手と戦い始めた。


 前方から飛んできた領兵の身体を肩に担ぐように受け止め、いい感じに力が抜けていたのでアルゼンチンバックブリーカーを極める。


「ぐあああっ!」


 地面へ強かに落とすと、前から来るジーナとすれ違う。


「まだ見つかっていない」

「了解」


 襲い掛かってきた領兵に、数本の矢が突き刺さって倒れる。


「護衛はいらないのか?」


 後ろからクローディアが訊ねてくる。


「いらない。それより領主は?」

「見つかっていない」

「そっちを優先して」

「了解」


 片っ端から、部屋のドアを開いていく。

 そして、三人の領兵に守られた部屋を見つける。


 多分、ここだな。


「ここは通さん!」


 歩み寄る私に、領兵達が襲い掛かってくる。


 一人の腕を取り、体勢を崩し、別の領兵へぶつけるように投げ倒す。

 もつれて倒れそうになる二人をどこからか現れたジーナが蹴り倒した。

 残った一人も恐るべき速さで蹴り倒す。


「丁度よかった。一人じゃ不安だったんだ」


 話しかけるとジーナが皮肉っぽく笑う。


「じゃあ、エスコートしよう」

「よろしく」


 私へ手を差し出し、もう一方の手でドアを開く。


「どうぞ。お姫様」


 芝居がかった口調で案内された室内には、十人以上の領兵が詰めていた。

 その領兵から守られるように、怯えた様子の女性がいた。


 彼女が領主だろう。


「狼藉者め! ここがお前達の終端場だ!」


 護衛の一人が剣を抜いて向かってくる。

 そんな彼女がジーナに顎を蹴り上げられ、宙に浮いてからどさっと床に落ちた。

 聖具の力だろうが、私の隣にいた彼女が相手に距離を詰める姿が見えなかった。


「不意打ちとは卑怯な!」

「目の前でまっすぐに近づいた。不意打ちも何もない」


 無茶な事を言うとは思うが……。

 強者ならきっちりと対応してくるのがこの世界の怖い所だ。


 ジーナに護衛の領兵達が殺到する。

 彼女はそれに危なげなく対処した。

 領兵はジーナの動きに追いつけず、的確に繰り出される蹴りによって次々と倒されていく。


 危なそうなら援護しようと思ったが、その必要も無く戦いが終わろうとしていた。

 最後の護衛を蹴り倒す。

 残るのは、剣を握って震える領主が一人だけである。


「さて……決闘でもしようか?」


 問いかけると、領主は剣を取り落として平伏した。


「降伏いたしますぅ! 家族の安全は保証してくださいぃ!」


 状況、完了だ。


 ここにイクスがいなくてよかった。

 その状況を封じるための二面作戦だったが、功を奏したようだ。




 領主の身柄を確保し、呼びかけるとすぐに外の領兵達は降伏の意思を示した。

 領主街の占領はスムーズに進み、こうしてルマルリの攻略は完了した。


「武装解除したらあとは放置でも構わない。ミラに攻略完了の伝令を送って。え? 男性一人と子供三人が隠れてた? 多分領主のご家族だから、一緒に収容して」


 仲間に指示を出していく。


「お疲れ様ッス」


 必要な処理を済ませ、一段落ついた頃にケイから労いの言葉をかけられた。


「ありがとう」

「あっちは大丈夫ッスかね?」

「さっき、伝令を送ったら行き違いでクラド攻略成功の報せが届いたよ。速さでは負けちゃったな」

「勝負じゃないッスよ」


 ケイは苦笑する。


「なんか、すごく順調ッスね。こんなにすんなり行くとは思わなかったッス」

「そう? 僕はそうなると思ってたよ。それだけの実力をみんな持っているからね」

「すごい自信ッス」


 自信があったわけではない。

 ただ、漠然と大丈夫だと思っていただけだ。


 私は、このルマルリ攻略戦で確かめたい事がいくつかあった。


 最も知りたかったのは、ゲームと同じ行動を取る事でどこまで状況が再現されるかという事だ。


 鉄ウサギも虹の鮭も、ゲームにあった隠しイベントだ。

 虹の鮭は特定のフリーマップにケイを出撃させると入手イベントが発生する。

 鉄ウサギも同様で、特定のフリーマップにジーナを出撃させると手に入る。


 ゲーム序盤なのでキャラ人数の都合で両者を出撃させない事はありえないが、フリーマップでレベル上げをしない人間にとっては見つけにくい要素だ。


 で、今回の事でわかったのは、時期が関係ないという事だ。


 ゲーム本編から一年が経過した現状で、どこまで再現されるか少し不安だった。

 しかし、実際はしっかりとゲーム通りの展開になった。


『誰が』『何をするか』が重要なんだ。


 パパの死もまた、実際のゲームと比べて恐らく一年のラグがある。

 だから、必ず同じ時間に同じ事が起きるというわけではない。


 私がしてきた事で、変わってしまった歴史もあるので強制力が高いわけではないのだろう。

 しかし、条件が揃うとゲーム通りの展開になりやすいようだ。


 パパを殺した人間は、強い目的意識から行動を起こしている。

 目的を果たすために、それが一番良い方法だと考えたからだ。


 あの場合、多分死ぬのは私でもよかったはずだ。

 それでもパパが選ばれたのは、運命的な部分が大きかったのかもしれない。


 ……そして、ゲームの展開は絶対ではない。

 改変の余地がある。


 本来、ルマルリに攻勢をかけた場合、領城には援軍としてイクスが配置されていたはずだ。

 イクスは避ける、当ててくる、攻撃強い、の三拍子が揃い、しかもバリア無視攻撃まで持った強ユニットだ。


 序盤の壁である。


 先の隠し通路も、イクスから離れた場所が初期配置になり、マップを攻略しやすくなるというギミックとなっていた。


 まぁ、私は経験値目的できっちり倒したが。

 フリーマップでちまちまレベル上げするのはあまり好みではない。


 ともかく、今回はそれを避けられるかどうかを試すため、クラドも同時に攻略する事にした。

 その思惑通り、自領を攻められた事でイクスが援軍として駆けつける事はなかった。


 知識を上手く使えば、こういう風に状況を操作できる。

 以上を以って、私の仮説はほぼ間違いないという事が証明できた。

 それを知れただけで、今回の作戦は戦果以上の収穫を得られたと言えた。

今回の更新はここまでになります。

では、良いお年を。

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