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九話 ジークリンデ

誤字を修正致しました。

助かります。

ゼリアとゼルダをよく間違えるので気を付けていたのですが、ダメでしたね。

 視察目的でターセム村へ訪れた時の事。


「よう、よう、よう、また来たのかよ」


 とラッパーのような文言でリューが絡んできた。

 もちろん、他二人もいる。


 ジーナは何を考えているのかわからない微笑みを浮かべ、ケイはハラハラした様子でリューの動向を見守っている。


 何度かこの村には訪れているが、その都度に何度も絡まれている。

 正直、慣れてしまった。

 こういう時は無視してしまうのが面倒なくていい。


 慣れたのは私だけでなく、リューも同じだ。

 クローディアが控えていても、直接手を出さなければ反撃されないと学んで口だけ出してくるようになった。


 と思ったが、人間は教訓を忘れる生き物である。


「無視すんなやゴラァ!」


 虫の居所が悪かったのか、その日は手を出された。


「ぴぇっ!」


 掴みかかろうと伸ばされる手に驚き、悲鳴が漏れる。

 身をよじりながら咄嗟に防ごうと手を上げたがスカり、リューの手もスカって私の顔の横を通り過ぎる。


 よじった体がバランスを崩し、足がもつれてリューの体を巻き込んだ。


「があああああああっ!」


 リューが悲鳴を上げる。

 気づけば私はリューの体を下敷きにする形で倒れ……。

 その腕は、腕にリューの肩に関節技を極めていた。


「それ以上いけないっス!」


 ケイが必死な様子で叫ぶ。


「ああ、ごめん」


 私は関節技を解いて謝った。


「痛ぇ、痛ぇよぉ」


 涙目になりながらリューは呟いて立ち上がる。

 本当にかなり痛かったようだ。


「憶えてろよ! この借りは必ず返してやるからな!」


 そして、そう捨て台詞を吐いて去っていった。


「すまない。あっという間で助けられなかった」


 クローディアが謝ってくれる。


「いえ、それはいいんですけど」


 答えながら、私は自分の手を見た。

 今の感触を思い起こす。


 双子の相手をしていた時から、関節技が効く事はわかっていたけれど……。


 魔力の多い人間の強さを私はよく知っている。

 その力には、到底抗えるものではなかった。

 でも……。


 リューは将来的にゼリアを下す事となる存在だ。

 そんな相手に、私は関節技で一矢報いる事ができた。

 これは可能性だ。


 やはり関節技。

 関節技は全てを解決する。


 人間離れした相手ばかりがいる戦乱の世界だ。

 どこかで逃げられない戦いを強いられる事はあるかもしれない。

 武器で戦うような戦場で関節技を使うのは無謀だが、咄嗟の護身術としてなら十分に役立ちそうだ。


 本格的に関節技の練習をするべきかもしれない。




 パパから手紙が来た。


「ママが寂しがっているので一度帰ってきてほしい」


 という内容だった。


 私は領地に滞在してから、一度も帰っていなかった。


 私も家族と離れるのは寂しいと思っていたが、命もかかっているのでその対策を疎かに出来なかった。


 とはいえ、このように呼び出されれば帰るべきだろう。

 半月程度しか経っていないが、もう長く会っていない気がした。

 だから家族と会える事が嬉しくて、帰りの道程はうきうきした。


 城に辿り着くと、なんと家族全員からお出迎えされた。


「ロッティ! 久しぶりだな」

「お姉様、会いたかった」

「「クスクス、帰ってきたのね。クソザコお姉様❤」」


 姉妹全員でいちゃいちゃしていると、ママが近づいてきた。


「ママに言う事はないか? ロッティ」

「お仕事はどうしたんですか?」

「そうじゃない。一人で寂しかったんじゃないか?」


 なんとなく何と言って欲しいのか察する。


「寂しかったです」


 実際、寂しさは覚えていたので心情のこもった声が出る。

 すると、ママから強く抱きしめられた。


「ママもだ」


 最後に、パパが近寄ってくる。


「おかえり、ロッティ」

「ただいま、パパ。やつれて……ないね」

「何でやつれてると思ったの?」


 私の不在で寂しさを覚えたママが、心の隙間を埋めるためにパパを――!

 という事を考えていた。

 考えすぎだったみたいだ。


 私の頭の中、ピンク色だったよ。


「まぁ実の所、何度か襲撃されたよ」

「やっぱり」

「でも、予測さえできれば対策は取れるからね」


 流石はパパだ。


「仕事はこれで終わりか?」


 クローディアがパパに問いかける。


「とりあえず、ロッティが一人前になるまでもうしばらく様子を見ていてほしい」

「了承しよう」

「ありがとう」

「面白い子だ。一緒に居ても苦にならない」


 もしかして私、思ったより気に入られているのかな?




 それから、しばらく王族専用のリビングで団欒しようという事になったのだが……。

 リビングには、先客がいた。


「よぉ、久しぶりだな。ガキ共」


 そう声をかけてきた先客は、右目に眼帯をした女性である。

 その顔は、眼帯こそなければゼリアと見紛うほどに似ていた。


「お久しぶりです。伯母様」


 と、姉妹がそれぞれ挨拶を返す。


 彼女の名はジークリンデ。

 ゼリアの姉で、私にとっては伯母にあたる人だ。


 顔はゼリアと似ているが、似ているのはそこぐらいだ。

 胸の大きさも常識的……。


 常識的、だと?

 そんなわけはない。

 足元が見えなさそうな胸というのは、常識的とは言えない。


 まずいな。

 どうやら私の常識は、この世界の常識に侵食されつつあるようだ。


 ゲームでも敵として登場し、ママをマイルドにしたようなパラメータである。

 流石に四天王程つよくないが、基本的に防御と攻撃に長けた四天王と違って機動力と回避性能が高い。

 正直、ゼルダを相手にするよりきつい。


 弱点があるとすれば、近距離特化で中長距離の戦いで一方的に殴れるくらいだろうか。


「まだいたのか、姉貴」


 ママが憮然とした声で言う。


「話を終わらせた気になってんじゃないよ」

「終わりだ。姉貴の話には一考の余地もない」

「これは伝統だと言っているだろう」

「それが何だ。私は皇帝だ。王様の言う事は絶対なんだ」


 何、その駄々っ子理論。


「お前、それママの前で言えんの?」


 ジークリンデが言うとママは黙り込んだ。

 ママのママ、お祖母ちゃんである。


 何度か会った事があるけど、優しいお祖母ちゃんである。

 でもその様子を見るに、ママにとっては頭の上がらない存在らしい。


「しかし……しかし……」

「お前が何にビビってるのかはわかってるけどな」

「私が怯えている? そんなわけはない」

「正当な理由がないのに拒否しているのはそういう事だろうが」


 二人の話が何の事なのかわからないので、こっそりとパパに声をかける。


「何の話ですか?」

「継承の儀についてだよ」

「継承の儀?」


 聞いた事がない。

 ゲームでもそんなイベントはなかったと思う。


「この城には、伝説の聖具が保管されている」

「聖具……」


 ここでその話が出るとは思わなかった。


「代々、リシュコールの皇位は聖具に選ばれた者が継ぐんだ」


 なるほど。

 リシュコールの家系は邪神を倒した人間の血筋だ。

 邪神を相手にするかもしれない事を考えれば、聖具に選ばれた人間が王様である方が都合良いのか。


「その儀式をそろそろ行った方がいいとジークリンデ様は仰っているんだよ」

「ママは何でそれに難色を示しているんですか?」

「昔……いろいろあったからね。ママにとってはあまり思い出したくない事なんだよ」


 怖いもののなさそうなママなのに、儀式を拒否するほどに痛い目を見たって事なのか。


「お前は過保護過ぎるんだ」

「子供のいない姉貴にはわからん」

「アホか。ガキ共は私にとっても可愛いんだよ」


 ジークリンデは溜息を吐く。


「いいか? 聖具の継承ができなくちゃ、子供達は皇位に着けないんだ」

「そんな決まり、私が壊してやる!」


 ジークリンデがゼリアに拳骨を落とした。


「馬鹿な事言ってんじゃないよ」

「でも……でも……」


 私はまたパパに声をかける。


「なんだか、ママがいつもと違うんですけど」

「あっちが地だよ。娘の前では威厳があるように振舞ってるだけだよ」


 そうなんだ。


「姉貴の目が潰れたのだって儀式のせいじゃないか」


 そんな危険な儀式なのか……。

 それだったら、ママが反対するのもわかる。


「潰したのはお前だろうが」


 ん?


「シアリーズ! お前からも何とか言ってくれ!」


 万策尽きたのか、頭にたんこぶを作ったゼルダがパパに助けを求めた。


「僕としてはそろそろ儀式はした方がいいと思う」

「お、お前はいつも姉貴の味方だな!」

「そんなつもりはないけど」


 とにかく、とジークリンデが声を上げる。

 みんながそちらに注目する。


「儀式は行う。日程は明日でいいな?」

「早すぎるだろ。準備もできてない」

「王族のみの参加で、保管庫に立ち入るだけの儀式に大層な準備がいるか。それに、とっくに準備はこっちでしてるんだよ」

「なんだと! ずるいぞ!」

「はいはい! もう決まった事だからな! 今日は泊まっていくぞ!」


 言いながら、ジークリンデはリビングから出て行こうとする。


「待て! 私は納得しないぞ!」


 文句を言いながら、ゼリアがそれを追った。

 ジークリンデが部屋を出る間際、チラリとパパに視線を送った事に気付いた。


 直後にパパをうかがうと、顔から表情が消えていた。

 強張っているというのでもなく、ただストンと感情が抜け落ちたような表情だった。


 けれど、私の視線に気付いていつもの優しそうな表情を向けてくれる。


 嵐のように去っていったゼリアとジークリンデの姉妹に、言葉を失っていた五姉妹。


「「お茶、飲みましょー」」


 沈黙を破ったのはカルヴィナとスーリアだった。


「そうだね。じゃあ、僕が淹れるよ」

「ううん。私が淹れるよ、パパ」


 王族だけが立ち入れるリビングなので、給仕などは立ち入れない。

 ここで寛ぐ時は、全て自分でやるのがこの家のルールだ。


「じゃあ、グレイスが茶菓子用意するね」

「私はどうすれば?」

「ぼーっと突っ立てればいいんじゃないかな?」


 何気なく呟いたゼルダにグレイスは答える。


 どことなく言葉に棘がある。

 あの一件以来、グレイスのゼルダに対する当たりが強い……。


 ゼルダもそれを察しているので、ちょっとしょんぼりしている。


「「お姉様、私達とボードゲームでもしましょ」」

「ああ、そうだな」


 フォローするつもりだったのか、純粋に遊びたかったのかはわからないが、双子がそう切り出してゼルダは嬉しそうに応じた。

脇固めだったかな?

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