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作者: zawatin

私は、雨の日が好きだ。なぜなら…。それは、これから話しながら伝えていくことにする。


今日は、雨だった。~

私は、雨宮紗織。(24)未婚だ。彼氏もいない。今の私には、必要ないのである。ちなみに、名前に雨が入っているから好き。なんて、そんな単純なことではない。


傘を持って家を出た。仕事に行くのである。ついこの間までブラックな企業で毎日超残業、社畜のように安い給料で働かされ、逃げるようにして辞めた。

今のところ、私の決断は、良かったと思っている。

そんな私が向かうのは家から徒歩15分の距離にあるカフェ。今はそこでアルバイトをしている。

「ピシャン!」と音がして振り返ると、スーツ姿のおじさんに、水たまりを踏んだ車の水しぶきが炸裂していた。

「くそ!」おじさんはいらだっている。(少しおかしくて、笑いそうになったが我慢した。私は、偉い) 「どうぞ」私は、ハンカチを手渡した。

「返さなくてもいいので。」「あ、ありがとう。」おじさんは、申し訳なさそうに歩いて行った。少し寂しそうな背中だった。何かあったのか…人を詮索するのはあまり好きではないので辞めた、他人は他人、自分は自分である。


カフェに到着。シフト5分前、着替えに5分、完璧だ。

「お疲れ様でーす。」 「お、紗織ちゃん、お疲れ様。今日もちょうどだね。」

マスターにはお見通しだ。「完璧です。ニヤリ(謎のどや顔である)」

ここのお店は少し人通りから外れたところにあるので、あまり満席になることがなく、知る人ぞ知るお店だ。

なので、お客さんも常連の顔見知りの人が多い。

私は、ここのマスターが好きだし、何よりマスターが入れるコーヒーは魔法がかかっているかのように感情が溢れてくる。不思議で好きだ。


今日は、雨というのもあり、まだ、お店にお客さんはいない。

「あーあ、せっかくマスターにコーヒーの淹れ方教えてもらったのにな~。」

「まあまあ、こういう日もたまにはいいじゃないか。」

「けど、あんまりいつもと変わりませんね。」

「ははは、君の正直なところ嫌いじゃないよ。」マスターは少し苦笑いだった。

「でもでも、私はマスターのコーヒー凄く好きですよ? みんなすごくもったいないです。」

「そう言ってもらえると、僕もうれしいよ、どうぞ。」

お客さんがいないときはこうしてコーヒーが出てきて、私はカウンターに座る。

「ありがとうございます。このコーヒーは?」

「ブラジルのコーヒーで程よい苦みと爽やかな酸味がバランスよく味わえるコーヒーだよ。まるで恋のようなコーヒーだね。」

マスターはたまにロマンチック気質になる。

「あ、おいしい。」 「良かった。」

私が、会社を辞めて落ち込んでいる時にたどり着いたのが、ここのカフェだ。

私は、こうしてカウンター席に座って、コーヒーを頼んだ。

その時私は、疲れ切って今にも泣きだしそうな、そんな顔をしていたらしい。

「お砂糖とミルクはどうなさいますか?」

「いらないです。」普段ならいれるのだが、今日は苦いコーヒーが飲みたかった。

一口飲んでみると、まるで感情がほどけて、とけるようなそんな温かみがあっていつの間にかマスターに今日あった辛いことや、今まであった辛いことすべて吐き出していた。

マスターは優しく受け入れてくれて、話を聞いてくれて、私は救われた気持ちになった。

そして「良かったら、つぎの仕事が見つかるまでうちで働いてみないか? あまりお客様は入らないかもしれないけど笑」


そうして、私は今このカウンターに座っている。

「そういえば、初めて紗織ちゃんが来た時もこの席だったね」

「そうですね、あの時のコーヒーもすごくおいしかったんです」

「そういえば、マスターは奥さんいらっしゃらないんですか?」

「実は、二年前まで、私には、妻と9歳になる娘がいたんだ。だが、交通事故で…。 残されるものって本当に、残酷だよ。 けど、今は大丈夫だよ。

未来はどうしたって変えられないんだから、いま目の前にある現実を受け止めて、生きていくしかないんだ。 ごめんね、暗い話をしてしまったみたいだね笑」

「いえ…(私は、嫌な質問をしてしまったなと少し後悔した。)

マスターは、凄く、お強い人ですね。」

「ははは、私もいい大人だからね笑」

「紗織ちゃんは、今彼氏さんは?」

「いないです、私には必要ありません。」

「何か、事情がありそうだね、話してみるかい?」

「…。(コーヒー効果だろうか、マスターの前では隠し事ができない。)」

「ちょうど、一ヶ月くらい前までは、いたんです。」

「会社を辞める二週間前くらいかな。」

「はい、そのくらいです。 その日私は、一人で街を歩いていたんです。

そしたら、彼氏が知らない女の人と歩いていて、聞いたんです。その女の子、誰なのって。」

そしたら「あ~…紗織のことがさ、最近あんまり好きじゃなくなってきたというかさ、あ~…ごめん。」彼はそのまま、行ってしまった。

頭が真っ白になった。彼は何をいているのか、理解できない。

その後、LINEで「紗織ごめん、別れよう」とメッセージが来た。

彼の言動が全く理解できない。

私の何がいけなかったのか。何が、気に入らなかったのか。

私が、何をしたというのか。私は、何もしていないのに、どうしてこんな気持ちにならないといけないのか。人が信じられなくなった。


先ほどまで空は晴れていたのに、空はくもりはじめやがて、雨が降った。

私は自称、雨女。デートの時、何度この体質を恨んだことか。

だけど、今日に限っては、違った。

雨に打たれる。

心が洗われるそんな気持ちになった。

嫌な、くもった心が、晴れていく。そんな気持ちになった。


「私は、この日から雨が好きになった。」


「本当なんなんですか…恋の味のコーヒーって…うぅぅ…おいしいい…」

本当このコーヒーには勘弁してほしい。感情が止まらない。

「辛かったね、でもそんな半端な男だったら、早めに別れることができて、よかったじゃないか」

「はい、でもその時も職場環境が厳しくて、心の支えが、彼だけだったんです。だから、心の拠り所がなくなって、仕事もいまいち手に付かなくなって、それで…」

「仕事も、やめちゃったってことだね。」

「はい、何もなくなっちゃったって…だけど今の私にはこのカフェとコーヒー、そして、マスターがいるから大丈夫です!」

「うん!でもこれだけは覚えておいてほしい。紗織ちゃんは、まだ若いから、この先きっと色んな出会いがある。その中には、また辛いことだってあるかもしれない。だけど、それに目を背けてしまうと見えるはずの明るい未来だってきっとみえなくなってしまう。だから、前を向いて生きてほしいんだ。辛くなったら、いつでも人に頼ればいい。私を、カフェを、コーヒーを頼ればいい。人は、一人で生きていけるほど、そんなに強くはない。だから、支えあって生きていくんだ。人という字のようにね。」また、少しロマンチックモードに入ったと思った。だけど、マスターの言葉は間違いなく私の心には響いていて、救われた。前向きに生きていこう。そう思えた気がする。


「私、もう恋なんてしないて言いません。絶対に。」

一つ一つの出会いを大切にしたいから…。あれ、この言葉聞いたことがあるような…?私は、細かいことは気にしない。

マスターは、少し目を丸くして私は、微笑み「うん、頑張ってねといった。」

「カラーン♪」入り口の扉が開く音だ。

「いらっしゃいませー!」



「お疲れ様でした~!」

「紗織ちゃん、頑張ってね。」

「はい!お疲れ様でした~!」私は、勢いよくとびだした。

雨は上がっていた。

「ほんっと、マスターは凄いな~。」


「やっぱり、若い子は元気が一番だよな~。ん、あ!紗織ちゃん、傘!って…もう行ってしまってるか...。」

私は、歩くのが好きだ。だから、晴でも雨でも歩くようにしている。

「あ、ららら…」目の前のおばあちゃんが、たくさんのみかんを落としていた。

「大変!おばあちゃん大丈夫?手伝うよ!」

「すまないねぇ、ありがとうお嬢さん。」

私は、拾い終えたおばあちゃんから、お菓子とジュースを貰った。

朝の私なら、子供じゃないんだから。って思ったかも知れないが、その時はとても嬉しい気持ちなった。

私は、すぐ近くのバス停のベンチに腰掛けて、お菓子とジュースをたしなんだ。

すると、ぽつぽつ…。雨が降り始めた。「大変、早く帰らないと。」って、あれ!傘置いてきちゃった、どうしよう…」。

運悪く、家からもカフェからも中間地点、戻っても、帰ってもびしょびしょになるだろう。

幸いバス停には、屋根があった。途方に暮れていると…

「あの!さっきみかん拾われてましたよね?遠くでみえて…良かったら、傘入りませんか?」

ふと同じくらいの歳の男性が声をかけてきた。

「あ、じゃあ、お願いします…。」

ドキドキした。雨のにおいに、微かに春の花の甘い…そう恋のような甘い匂い…。ってマスターか私は!心の中でノリつっこみしながら、いつもの帰り道を少しゆっくり歩いた。


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