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反呪

 

 治承2年(1178年)10月 京


「ちょっと! どういうことですかっ!!」


 後白河法皇が幽閉されていた一棟の戸をパァンと勢いよく開くと驚嘆びっくりした顔の後白河法皇がこっちを向いて固まっていた。

 その顔は驚きから安堵、そして涙へと変わっていった。


「重盛クーーン!」


「や、ちょっと抱きつかないでください。あっ、鼻水を塗りつけないで!」


 放すものかという勢いの後白河法皇を引っぺがして座らせる。


「だって何がなんだか、まったく分からないんだよう。」


「平氏の者たちを一斉に解官させたことは覚えているでしょう。」


 鼻水をたらした顔をはっと上げると、後白河法皇は勢いよくぶるぶると首を横に振った。


「それも覚えてないんだよう。気付いたら幽閉されててさ。」


「いつから記憶が怪しいんですか?」


「んー、それもよく分からないよう。滋子の香を楽しみながら過ごしていたあたりからだんだん記憶がね。乱心してたのかなあ。」


「・・・香ですか。たしか八条院に頼まれていたものですよね。」


 何かいやな感じがする。これは調べてみたほうが良さそうだ。


「何かあったか調べてここからお出しできるようにしますから。もう少し辛抱してくださいね。」


 法住寺を出ると、後白河法皇の様子を清盛パパに報告したあと八条院を探りに向かう。


 -結果


「クロだな。真っ黒だ。」


 幽世から八条院の屋敷を調べてみると出るわ出るわ。

 人の心を惑わせる香の処方、蜂起を促す書状、源行家との密談。

 証拠はそろった。しかしどう決着をつけるべきか。腐っても王家の一員であるだけに慎重に事をすすめる必要がある。


 決着方法を考えつつ、何気なく目にした書簡に記されていたのは保元の乱の際に頼長に使用した香の成分とその効果検証に関することだった。


「・・・うん。決着方法を思いついたよ。」



 翌朝、八条院に声をかけた女房は部屋から返事かないのを不審に思い、戸をあけたところ、室内はむせかえるような血の臭いが充満していた。

 その原因は巨大な獣に噛みつかれたかのような傷跡の残る八条院の遺骸。


 怪異はただちに都中の人々の知るところとなった。同時に噂されはじめたのが、八条院は崇徳上皇の怨霊により弑されたというもの。

 清盛はこの怪異に朝廷として一致して対処すべく、後白河法皇と和解。解官された平氏貴族も復官し、両者の対立は解消した。


 平氏はこの後、守護と地頭の制度により、軍事的側面から武士の力を強化していった。また武官官位と公家官位を切り離すことで官位をめぐる両者の軋轢の解消に努めていくことにる。


 そして・・・


 治承3年(1179年)8月 京


「あーやっぱダメかあ。」


 幾多の危難から平氏を救ってきた重盛は病臥に伏せていた。







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