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君のことは忘れない(2)

 

 安元3年(1177年)6月 京


「源頼政が以仁王に合流しました。」


 宗盛から源頼政挙兵の報が届いた。やはりという感じだ。頼政は京にある邸宅を焼き払って園城寺に向かったらしい。

 だけど動機が分からない。源氏ではあるけれども清盛パパは頼政を厚遇していた。

 おかしいと言えば園城寺もおかしい。なぜこの時期に平氏を敵にまわそうとするのか。

 挙兵の中心にいる以仁王の動機は至極単純なのに、どうして周りの思惑はこんなに謎だらけなのか。まあいい。動機の究明は後だ。まずは乱の平定を急ごう。


 園城寺は近江国の西側、比叡山の南側に位置する。京からだと東に一山越えた辺りになる。

 これを僕は山を避けて園城寺の南から攻め寄せる。園城寺自体は大した防御施設はない。僧兵も弱兵と言って良い。

 主戦力となるのは頼政直属の武士団だ。とはいえ、それとて用心しなければならないという程度のものだ。


 問題は確実に以仁王を討ち取れるかということだ。さらなる逃走を許すと乱が長期化しかねないだけに、ここで討ってしまいたい。


「敵方が打って出てきました!」


 物見から報せが入った。既に肉眼でも確認できる。小勢だ。

 敵の進路からすると、こちらを避けて南にすり抜けようとしているようだ。


「騎馬はこれを追跡せよ。維盛が指揮を執れ! 残りはこのまま園城寺を目指す!」


 直ちに維盛とその近習が騎馬武者を率いて飛び出していった。

 維盛たちが、敵勢を捕捉しつつあるのを目の端にとらえつつ、園城寺に打ちかかる。

 僧兵が神輿を担いで出てくるが数々の寺社を焼いてきただけに僕の軍団に動揺はない。ひと当てで僧兵を突き破り、寺内に侵入する。


 早くも僧兵の一部は算を乱して逃げ出している。


「逃がすなよ! すべて討ち取れ!」


「お慈悲をっ うぎゃあああ」

「おのれ! 仏敵が! ぎゃああああ」


 今まで散々聞いてきた台詞をここでも聞かされることになった。


「はいはい。仏罰があるならさっさと下してください。比叡山を焼いてから何もないですけどね。」


「御大将! 維盛様が以仁王と頼政らを討ち取りましたぞ!」


 寺内の組織的な抵抗がなくなってきた頃に、維盛からの報せが届いた。


「よし! よくやった! 勝ち鬨をあげよ!」


 あとは戦後処理だ。園城寺を1棟残らず焼き払う。そして全国に散らばる平氏と、主従の関係を結んだ武士たちへ園城寺の荘園を接収するように指示を出す。ただ、園城寺はそこにあった書類、木簡もろとも焼け落ちた。こうなると所有する荘園の詳細は各国府にある情報くらいしか残っていない。

 あとは現地で実情を知る者たちが状況を把握しているくらいだ。

 しっかり横領をすすめてもらいたい。


 それと以仁王を討ち取ったことはまだ明らかにしない。誰が以仁王の助命嘆願に動くのかを見極めたいからだ。

 八条院のもとにいる以仁王の子たちは今のところ放置だ。引き渡しを要求して断られた場合の対処が難しくなる。


 六波羅小松邸に戻り、後白河法皇に戦勝報告をしに向かう準備をしている間に八条院から以仁王の助命嘆願が届いた。なんで平氏うちに届けるんだか。後白河法皇に出すのが筋でしょうに。

 返事はいったん置いておき、まずは法住寺の後白河法皇のもとに向かう。


 そのころ全国に散らばる八条院領を中心に以仁王の令旨が届きはじめた。もちろん以仁王に令旨を発する権限などないが受け取った側が大義名分にできると判断すれば令旨の真偽は問題ではない。


 令旨の内容は平氏討伐を促すものだった。平氏に不満を持つ者が動きはじめる。

 そして令旨を受け取った1人に源頼朝がいた。




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