君のことは忘れない(1)
安元3年(1177年)6月 京
「以仁王が挙兵を企てているようです。」
後白河法皇と遊んだり、頼朝討伐の計画を考えたりする日々をすごしていると、宗盛が不穏な情報を伝えてきた。
「反平氏の勢力にでも担がれたのかい。」
「それもありますが、・・・銭が無いとかで自棄になったそうです。」
・・・短慮か、短慮なのか。情けない。
「いや、兄上が原因ですから。」
なんでも以仁王の主な収入源は伯父である藤原公光だったが、公光が後白河法皇の不興をかって失脚した後は寺社領が主たるものになっていた。そしてその寺社領は僕の一連の寺社討伐の際に没収している。その後は八条院からの援助で細々と暮らしていたらしい。
・・・うん。僕が原因だ。そりゃ収入源を断たれたら自棄にもなるよね。僕もうしゃぎさんに首根っこをつかまれている。
でも宗盛の情報収集力はすごいねえ。僕はまったく知らなかったよ。
「・・・今の私は平氏の棟梁ですからね。大抵の情報は集まってきますよ。第一、京を離れている時期が長い兄上に京の情報で負けていたら形無しですよ。」
「な、なんか怒ってる? 宗盛くん。」
「いえ、まったく。突如として平氏の棟梁を押し付けられたとか、兄上が寺社を焼き討ちしたことで集まった平氏への非難の声の対応が大変だったとか思ってませんから。」
はい、ご迷惑をおかけしました。お兄ちゃんが悪かったです。反省してます。
「反省しているなら法皇様から以仁王追討の院宣をもらってきてください。その後の討伐の指揮もお願いしますね。」
はい、頑張らさせていただきます。
というわけで、後白河法皇のもとに自ら向かって院宣をもらっている間に、嫡男の維盛に都に駐留している精兵300を直ちに動かして以仁王の邸宅の包囲に向かうよう指示をだした。
「申し訳ありません、感づかれたようで逃げられてしまいました。」
院宣をもらって先行していた維盛に追いつくと、以仁王は逃走した後だった。
「どこへ向かったか分かるか?」
「捕らえた者の証言によれば、近江の三井寺だそうです。」
「三井寺・・・園城寺か。意外だね。」
園城寺は長らく延暦寺と抗争を繰り広げてきた寺だ。一般には三井寺の名で知られている。
この寺は比叡山から過去4回、焼き討ちにあっている。そのせいか、僕の比叡山焼き討ちの際には擁護に回ってくれたので、その後の寺社討伐の対象にはしなかった。
友好関係にあると思っていたけど、読み違えたか。
「維盛、軍団兵を招集してくれ。300では足りない。」
「はっ、ただちに。」
維盛が以仁王邸の接収するための兵を残して、撤収準備にあたる。
そうだ、こうなると宗盛に監視を頼みたい人物がいるな。急いで状況確認を頼みに行こう。
監視を頼みたいのは源頼政だ。平氏以外で公卿となった武士で清盛パパとも良好な関係にあったはずなのに、史実では以仁王に加担して討ち死にした人物だ。
まだ兵を挙げた気配はないけど、史実同様に以仁王に加担する可能性は高い。
「まったく、物の怪よりも人のほうが魑魅魍魎だな。」
隣にいる狼たちの背中をなでながら独りごちた。
ペンギン「他にも理由はあるけど、資金源が断たれたことで、史実よりも挙兵が早くなったペン。」