借金はするものじゃない
承安4年(1174年)1月 京
「資盛の無礼を咎められたのは当然のこと。また、資盛の罪も公に罰するべきものである。」
関白の使者は、やはり謝罪を伝える使者だった。この使者に対する僕の返事がこれ。さらに内定していた資盛の侍従任官の取消しを求め、現在の任国である越前に赴き職務に励むべし、として京への立ち入りを禁じた。
僕としてもそのほうが都合が良いのだ。人手が足りなさ過ぎて、一門で使える人材は宮中に置く暇があるなら京外で使いたい。
ただ、世間的には苛烈な処分と見られたようで、「仏敵は身内にも厳しい」だの何だのと噂され、使者から返答を聞いた関白が慌てて自ら謝罪に来たものだから、その対応に時間をとられた。
-鞍馬寺
「何! いないだと!」
「ひいいいぃぃ、け、今朝がた、どうやら出奔したようで。焼き討ちだけはご勘弁くだされえぇぇ」
やはり時間をとられすぎた。鞍馬寺に兵を率いて来てみると遮那王は出奔した後だった。震えあがる住職を放っておいて、直ちに捜索を展開する。
おそらく奥州を目指して東へ向かったはずだけど。
承安4年(1174年)4月 越前
「どうやら奥州入りしたみたいやで。」
鞍馬寺出奔から3ヶ月。どうやら遮那王は奥州入りしたらしいと、うしゃぎさんから聞いた。
僕の捜索網をくぐり抜けてよく奥州入りできたものだ。
「すみません、父上。」
北陸方面の捜索指揮をしていた資盛がしょんぼりしている。
「仕方ないさ。こうやって経験を積んでいくことで大事な場面で失敗しないようになるものだ。」
「で、これからどうするんや。」
うしゃぎさんが茶を飲みながら聞いてくる。
「藤原秀衡に遮那王・・・今は元服して義経だったか、その引き渡しを求めようと思う。」
でもなあ、罪状がないんだよなあ。こっちで捕えられたらよかったけど、秀衡に引き渡しを求めるだけの罪状があるわけではない。
「罪状なら用意しとるで。奥州に向かうまでの船賃の踏み倒しと、うちの船頭への暴行や。」
・・・やけに協力的だな、うしゃぎさん。
「何か狙いがあるんですか?」
「金や。金を押さえてしまいたいんや。」
うしゃぎさんによると、今後、日本国内の物資の流通量が増え、取引量が増えると、それに必要となる銭も増えるという。そうなると現在出回っている宋銭だけでは銭が足りない。自前で鋳造するには金銀がいる。なら奥州の金を押さえてしまうのが早いということらしい。
「・・・奥州とやる気満々じゃないですか。」
「アテにしとるで、借金王。」
ぐはっ。やはり借金なんてするものじゃない。めちゃめちゃでかい利息がついてきた。