清盛切られる!?
仁安3年(1168年)3月 京・六波羅・平清盛邸
深夜
「うふふ、清盛様、白拍子ばかりにうつつをぬかしているのが悪いんだよ。」
わずかにさす月明かりに時子の姿が照らし出される。冷たく凍った視線の先は、静かに寝息をたてる清盛の顔。
その手に持つ鋭利な刃物がギラリと光る。
「ぎゃあああああああ!」
邸宅内に響き渡る絶叫。
その声の主が、この邸宅の主でもあることに気付いた者たちは飛び起き、清盛の寝所へと駆けつける。
「あはははっ、はははは」
そこで目にしたのは清盛の無惨な姿と狂ったような時子の笑い声。
六波羅・小松邸
「父上が切られた!?」
突然の凶報に取るものも取りあえず清盛パパの邸宅に向かう。
どうした、何があった。まさか歴史が変わった!?
昨日、帰り際に時子に白拍子のことを告げ口したのがまずかったのか。
駆け込んだ先で目にしたのは仏となった清盛パパ。
「・・・何やってるんですか、父上。」
清盛パパの頭がきれいに剃られていた。
事件の真相はこうだ。
昨日、僕から白拍子のことを告げ口された時子は静かに逆上。その怒りは夜になっても収まらず、気付くと刃物を手にしていたとか。
寝入っている清盛パパの髪をばっさりと切り落とした。
驚き慌てる清盛パパの姿があまりにもおかしくて、時子は狂ったように笑い転げた。
「出家する。もうそれしかない。」
事実をそのまま世間に知られてしまったら清盛パパの、いや、平氏の面目は丸つぶれだ。清盛パパは悲壮な覚悟をみせた。
「しかし、それだけで誤魔化せますか。頭、ところどころ血がにじんでますよ。きっと切り方が下手だったんでしょうね。」
対する僕は冷ややかだ。清盛パパの自業自得だと思っている。
「しばらく福原に引きこもる。あとは任せた。平氏譜代の家人たちも重盛が面倒みてやってくれ」
「ちょ、いきなり何を。」
止めるのも聞かず、清盛パパはさっさと仕度して、逃げるように福原へと旅立った。
ちなみに犯人の時子は、お付きの女房たちにこってりと絞られて、その後、責任をとって清盛パパと同じように出家させられた。
「では、対外的には、今回の病気のことで父上は出家した。母上もそれにあわせて出家した、ということで。父上は隠居。以後は福原に移られたということにします。」
宗盛がテキパキと口裏合わせを進めてくれて、外向きの発表準備をしてくれた。
優秀な弟がいると楽でいいねえ。お兄ちゃんは嬉しいぞ。
「兄者あ、こっちの弟のことも面倒みてくれよ。」
肩に手を置かれて振り向くと、暗い表情の知盛がいた。
どうやら今回の件で、僕が在京を決意し、東国に行けないのではないかと思っているらしい。
「オレさあ、武蔵守8年もやってるんだぜ。なのに1度も武蔵に行けないってどうよ。兄者や基盛兄者みたいに軍勢を率いてみてえんだよ。」
ニンマリとする僕。いいよ、いいよ。その願い叶えてあげよう。
軍団長の話をすると、知盛は喜び勇んで東国へ向かう仕度をしに行った。
「兄上。」
1人の弟を送り出したと思ったら、後ろからもう1人の弟が肩に手をおいてくる。
「ん、どうした宗盛。」
機嫌良く応じる僕に宗盛が笑いかける。あれ? 笑ってるけど怒ってる?
「兄上が母上に告げ口したと聞いたのですが、どうなんです?」
どうやら僕の危機はこれからのようです。




