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女騎馬武者と獅子


 永暦元年(1160年)5月 伊豆


 こんにちは平重盛です。


 ・・・なぜか伊豆にいます。


 最初はすぐに京に戻る予定だったんですよ。嘘じゃないですよ。


 予定が狂いはじめたのは基盛が遠江には来ないと言ってきたあたりから。清盛パパが急に安芸に行くことになったらしく、基盛が京でお留守番となったためだ。

 今回のこともあるけど、遠江に常に平氏一門が居ることができるとは限らないので、ここは頼長に頑張ってもらおう。

 どうやら頼長もそういう想定だったらしく、またいずれは自分も遠江を離れても大丈夫なように、いずれは子どもたちに任せるつもりだと言っていた。


 そうこうしている間に4月になった。

 藤原親盛殿の娘・少輔掌侍との婚姻の約束の月だ。


 京に清盛パパもいないし、僕も戻っていないし、まずいなー、と思っていると、なんと向こうから押しかけてきた。しかも親盛殿と少輔掌侍の2人ともだ。

 さらに従者をはるか後方に置き去りにして、騎馬で駆けてきている。

 京で会ったときと雰囲気が違うな。


 「やはり東国の空気は良いのう。なあ婿殿!」


 京では慎ましやかな貴族という雰囲気だったのに、旅の間に伸びた髭のせいか、はたまた、その溌剌はつらつとした声のせいか、いかつい武士にしか見えないよ、親盛殿・・・。


 「我が良人殿か? お初にお目にかかる。妾が藤原親盛の娘・少輔掌侍だ。」


 ・・・巴御前だ。巴御前みたいな人だ。藤原一門にこんな姫がいていいの?

 でも格好良い。

 僕がぽかーんと少輔掌侍を見ていたが、彼女はちょっと不満そうな顔をしている。頼りなさそうだなとか思われてしまっただろうか。


 「頼りなさそうだな、とか思ってないぞ。」


 フッと少輔掌侍が笑った。うん、可愛い。


 「かっ、可愛いなどと言うな!」


 顔を赤くした少輔掌侍に叱られた。どうやら思っただけじゃなくて、口にしてしまっていたらしい。



 その後、坊門殿に少輔掌侍を紹介し、親盛殿と話し合った結果、遠江で婚姻することになった。

 僕らの婚姻を見届けた親盛殿は、その足で下総に行くという。


 「親父殿を見送りに行くぞ、良人殿。」


 強引に少輔掌侍に連れられて、あれよあれよという間に伊豆まで来てしまいました。

 親盛殿が「もうここまでで良い。」と言ってくれたので、やっと帰ることができます。

 今度こそ、坊門殿と維盛を連れて京に帰らないと。


 でも、伊豆か。ちょっとだけ頼朝の様子でも見に行こうかな。

 たしか北条家にいるんだっけ? 伊東家?

 まあ行けば分かるか。


 「良人殿。向こうから大男が走ってくるぞ。」


 少輔掌侍が馬を巡らせながら遠くをじっと警戒している。

 見ると確かに、誰かが走ってくるのが見える。


 確かに大男だ。遠くからでもよく分かる・・・って、あれは!?


 「源為朝!」


 「うおおおお! その気配、覚えておるぞー! 俺様の弓を斬った奴だああ!」


 獅子の咆哮とは正にこのこと。

 さっさと逃げようとしたら、馬までびびって動きが悪くなっている。

 そうこうしているうちに為朝が迫ってくる。


 「覚悟せいやああ!」


 幽世かくりょに逃げ込むかと思っていたら、為朝の進む先に少輔掌侍が立ち塞がった。


 「良人殿を害そうとする者は、妾が討ち取ってくれる!」


 おお! 格好いい。でも危ないよっ。

 少輔掌侍を連れて幽世に逃げようとしたら、為朝が止まった。足だけじゃなくて体が停止している。


 「お」


 「お?」


 再起動した為朝が一語だけ発した。


 「おんなのこだあああぁぁぁ」


 悲鳴をあげて走り去っていった・・・。

 なんだったんだ。為朝って大島に流されたはずでは。


 「・・・帰ろうか。」


 「・・・はい。」


 すっかり頼朝の様子を見に行く気をなくしてしまった。



そして、京に帰ってしばらくして、平氏の念願がついにかなう。


平清盛 正三位 参議


武士が初めて公卿になった瞬間である。



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― 新着の感想 ―
[一言] うん、おんなのこは怖いよね。分かるよ…
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