平治の乱(4)
平治元年(1159年)12月
「重盛クン! 無事だったんだね!」
後白河上皇は僕の顔を見るなり抱きついてきた。危うく後ろに倒れそうになったが何とか踏ん張った。
「はい。なんとか無事です。雅君もいち早くここに逃げ込んでくれて良かったです。」
「うん。あいつら、共通の敵だった信西が死んで、ボクがいなくなれば自壊すると思ったからね。早めに逃げ出せて良かったよ。」
・・・無邪気に答えてくれているけど、この人どこまで分かっていたんだろ。よく読んでる。
ともかく、後白河上皇の無事は確認できた。後は藤原信頼と源義朝たちの討伐だ。
「では宮城を取り戻しに行ってきますね。」
「あ、待ってボクが皆を見送るよ。」
まさかの上皇自らの見送りだ。
これでこちらの正当性は格段に高まるし、兵の士気も上がる。ほんとにどこまで分かってやっているのか非常に気になる。
さて、宮城から義朝たちを誘い出す作戦だけど、第一陣として基盛と頼盛叔父が出陣した。この2人が誘い出す役だ。
ちなみに僕は本陣守備。既に遠江で源義平を討ったことと、後白河上皇を小松邸で守り通したという2つの大きな功を立てていることから、ここからの戦では他の人たちに功を立ててもらおうという清盛パパの采配だ。
基盛たち第一陣が出陣してからしばらくして、宮城に攻め入り、当初の予定通り退却を開始したとの報せが入った。
すぐさま、第三陣が出陣する。
第二陣は既に出陣しており、大きく迂回して、第一陣を追撃する義朝勢と宮城との間に割って入る予定だ。
第三陣は、第一陣を追撃する義朝勢の横腹を突くつもりだ。
戦場の音が徐々に六波羅近辺に響きはじめるが、危険を感じるほどの距離ではない。
もともと源義朝の手勢は、一族郎党に限られ、平氏との戦力差は大きい。おまけに坂東からの援軍は来ない。こちらの勝利は近いのだろう。
やがて一際大きな喊声が聞こえた後、勝ち鬨が響き渡った。
「勝ったか。」
全軍の指揮を執っていた清盛パパが大きく息を吐き出した。
勝てるとは分かっていても緊張していたのだろう。
間もなく、賊が壊走したことと、その追撃を開始したことの報せが届いた。
本陣が沸き立つなか、その使いと入れ違いに別の使いが来た。
聞くと遠江からの使いらしい。
一瞬嫌な予感が頭をよぎったが、無理矢理それを打ち消し、使いに会う。
使いの内容は
-男子誕生
母子共に健康らしい。頭の中が真っ白になった。
「おお! おめでとうございます。」
「やったな!」
「勝利の日に男子誕生とは、実にめでたい!」
周りからの祝福を受けてようやく我を取り戻した。
「子どもが産まれた・・・。やった、やった!」
思わず大声で叫び出した。
待っててよ、坊門殿。僕の子。すぐに戻るからね!
その後、再び響いてきた勝ち鬨が我が子の誕生を祝っているかのように聞こえた。