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平治の乱(2)


 平治元年(1159年)12月 遠江国


 戦時ですので挨拶省略で失礼します。


 「よしっ、上出来だ!」


 結成してから1年に満たない足軽長槍隊が源氏の精兵を打ち破った。ほぼ全滅で、討ち漏らした者にも追撃の兵を出した。

 農兵の長槍隊も、平氏武士団も大いに沸いた。大戦果だ。


 思えば、鍛えはじめた最初のころは、思っていた動きをしないし、迷信深いし、いっぱしの隊に仕上がるのは当分先だと思われた。


 いろいろと指導法を変えてみたり、褒美を出してみたりしたが、わずかな進歩が見られる程度だった。

 藁にもすがる思いで、軍事にはさほど詳しくない頼長に聞いてみると、


 「幽世かくりょを見せてやれ。」


 とのこと。

 無闇に見せるのはどうかと思いつつも、試してみると効果覿面こうかてきめん。皆一様に青い顔をして体を打ち振るわせながらも行動が見違えるようになった。


 「平氏の物の怪の噂はまことじゃったあ。」

 とか

 「平将門様の再来じゃあ。」


 とか言う声は聞こえない。たぶん空耳だ。

 本当にこれで良かったんですか頼長。


 「問題ない。だが京ではやるな。事態がどう動くか読みきれん。」


 そんなやり取りを経て今日に至る。


 「重盛様、点呼終わりました。長槍隊に負傷者が3名おりますが、死んだ者はおりません。」


 苦労した日々を思い出しているうちに、点呼が終わったようだ。


 「よし、では長槍隊には、この場の後始末を頼む。戦利品は皆で分けよ。その後は見附に帰還いたせ。その余の者は京に向けて出立いたす。」


 今回の乱は勝てる戦いだ。まだ長槍隊を披露すべき時ではない。


 平氏武士団のみが、しばし休息をとった後、京に向けて出立する。

 京は今頃どうなっているのか。




 平治元年(1159年)12月9日 京


 平清盛が熊野詣で留守をした隙をつき、反信西派により信西襲撃が実行された。

 信西は、襲撃された三条殿をからくも脱出するも、潜伏先で発見され、斬首された。

 首謀者は権中納言・藤原信頼。

 武蔵国の受領をしていたこともあり、源義朝とも親交がある。また奥州藤原氏と姻戚関係にあり、平氏とも平清盛の娘と信頼の嫡男・信親との婚姻を通じてつながりがある。

 この信頼が保元の乱後にそれら武士団の力を背景にのし上がってきた。今では後白河上皇派の巨魁である。


 さて、保元の乱後の宮中では3つの派閥がしのぎを削っている。信頼ら後白河上皇派と二条天皇派、そして信西派である。


 これら3派閥は常に相争う関係にあったが、信西派の勢力が拡大。後白河上皇派と二条天皇派は信西派を叩き潰すことに利害の一致をみて共闘態勢をとった。


 その結果としての信西襲撃であり、信頼は目論見通りの結果を得た。

 勢いに乗った信頼は、そのまま二条天皇の保護を名目に、帝を軟禁する。続いて法住寺の後白河上皇の保護に兵を差し向ける。

 だがここで、後白河上皇は史実と異なる動きをする。法住寺にいること自体が史実と異なるのだが、危機を察した上皇は重盛の小松邸に逃げ込んだ。


 当初、信頼方の武士団は小松邸を一撃し、すぐにでも上皇の身柄を押さえられると考え、実行した。

 ところが思いのほか小松邸の防備は固く、三度襲撃するも、遂に抜くことができなかった。


 この状況に源義朝は平氏の帰還を懸念し、事前に坂東にいる長子・義平に坂東武士を率いて援軍に来るよう命じていたが、義平に急ぎ京に来るよう催促する使いを出した。

 その傍ら、平氏と縁戚関係にある信頼は、この事態を楽観視していた。小松邸襲撃は成り行きであり、状況を説明すれば、清盛も我らに同調するに違いないと。そのため信頼はこれ以上の平氏との衝突を嫌い、小松邸の包囲を解き、兵を引かせた。



 一方、清盛は熊野詣への途上に京での変事を知ると、直ちにとって返し、17日には京・六波羅に入り、後白河上皇が小松邸で保護されていることを知るや、自ら赴き、その護衛にあたった。


京の状況は史実を離れて動いていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公により歴史改変が遂に起きました。 後白河上皇が平家の懐に入ったことにより、史実よりも平家の勢力が拡大する可能性が出てきましたが、その一方で、史実よりも早くに反平家の動きが出るかもしれ…
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