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暗躍?


 久安4年(1148年)9月


 恒例の四天王寺での精進会に鳥羽法皇が向かわれた。

 頼長が重盛に告げた用とは、この供のことである。

 忠盛らも同行したが、鳥羽法皇は水路を行くのに対し、陸路で向かうこととなった。現地集合である。


 この精進会。まったくもって信心深くない重盛には退屈でしかないが、鳥羽法皇はもとより、その近臣にしても大事な行事の一つであったのだから、心を込めて念仏を唱えた後などには、それなりの疲労感がある。

 どうやら9月は欲望が1年で最も溜まっている月らしく、集まった皆で念仏を唱和し、悪鬼のようなものを追い払おうとするものらしい。



 その日の精進会を終えた鳥羽上皇は頼長らを供に宿泊所に引き上げてきた。


 「頼長よ。明日は1日休養じゃ。そなたもゆるりと過ごすがよい。」


 「ははっ、ではありがたく。」


 鳥羽法皇の休息を邪魔しないよう、頼長も自らの宿所に下がった。

 頼長としては、精進会も重要ではあるが、為政者としては、この年の夏に播磨、但馬、備前など中国地方につづいた大旱ひでりと、その結果としての米の不作が気になっていた。できれば早く京に戻り、対策を練りたいところである。


 「同士重盛にも何か案がないか聞かねばの。」


 どこか楽しげにも見える頼長であった。



 -夜


 鳥羽法皇の寝所に忍び寄る影。

 わずかに香る程度の香を焚き、すぐさま闇に溶け込んだ。


 翌朝、鳥羽法皇はにわかに念仏所に出立した。


 護衛をしていた忠盛らは、いぶかしく思いながらも、鳥羽法皇の動きを直ちに頼長に連絡した。

 できる男は報連相を欠かさない。流石である。


 知らせを聞いた頼長は慌てた。昨晩、休養すると聞いたばかりであったからだ。

 それでも直ちに準備を整え、念仏所に急ぎ向かう。


 頼長が念仏所に着いたときに、鳥羽法皇は小休止の最中であった。

 頼長が駆け寄ってくる姿を見た鳥羽法皇はなじるように言った。


 「何故、遅れたのか。」


 鳥羽法皇の言動をいぶかしく思いながらも、深々と頭を下げて頼長が答えた。


 「昨日、今日は休養すると院からお聞きしておりましたので、急な御出立に間に合いませなんだ。お赦しください。」


 「休養とな? はて、そのようなこと・・・」


 このとき、鳥羽法皇の目を見ている者がいれば、焦点が定まらなかった目が、徐々に力を帯びてくるのに気づけただろう。


 「! おお、確かにそうであった。何やら昨夜から夢見心地での。ようやくはっきりとしてきたわ。」


 首をかしげながら、鳥羽法皇は引き上げていった。



 -某所


 「うーん、やっぱりあの程度の量じゃダメね。でも、あれより増やすと間違いなく宿直たちに気づかれそう。今回はここまでかしら。」


 闇に溶ける者は、小さく呟くと、いつの間にか消え失せていた。


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