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第95話「無能力者、敵陣を突破する」

 帝城がある方向へと僕は走り出した。転移のために魔法陣を出している余裕はない。


 帝都中央区へ向かおうとする僕を止めようと、塀の内側にいた兵士たちとリントヴルムやウロボロスまでもが一斉に食いつくように襲ってくる。


 すると、1本の光の矢がウロボロスに刺さった。その直後に炎の剣が鋭い切れ味を見せ、ブーメランのように高速回転しながらリントヴルムの翼を切り落とした。


「あんたの相手はこっちよ」

「アースさんに手出しはさせません」

「太古のモンスターは合計8体、敵兵は534人、ワタシたちがアースなしでここの敵を倒しきるには魔力があと4365人分足りない」

「今それ言う?」

「だったら私たちがその人数分戦えばいいだけだ」

「そうね。それしかないわ」

「アースなら大丈夫だ。アタシたちだって今日まで訓練を積んできたんだ。アースが皇帝を倒すまではここで踏ん張るぞ」

「みんな団結してるわねぇ~」

「ウラヌス、そろそろ本気を出せ。でなければ本当に死ぬぞ」

「ふふっ、しょうがないわねぇ~」


 痛そうに雄叫びを上げた2体のモンスターは僕から目を背け、連合軍の兵士たちに向いた。それに目もくれず精一杯帝都中央区まで走り抜いた。帝国軍の兵士たちは連合軍がいる方向へと向かい、僕はただ1人帝城へと向かった。


 周辺の街並みは崩れかけの家すらあり、どの家も整備が行き届いていない。


 木造と煉瓦の家が立ち並んではいるが、以前来た時よりも明らかにボロボロだ。


 背中から大きな翼を生やし、帝城の屋上へ飛ぼうと思ったが、敵にこちらの位置がばれてはまずいと思い、下手に目立たぬよう陸路で屋上を目指した。帝城の中はもぬけの殻だ。兵士は全て塀の周辺を守っているし、住民たちの姿が見当たらない。


 兵士の数が明らかに足りていない。


 地下牢にいるであろうプルートを探そうと【凝視(ゲーズ)】を使ったが、地下牢からは生命反応が全くない。プルートの生命反応は屋上にあった。だがプルートだけじゃなく、他の囚人たちも全くおらず、人っ子1人いない。もはやこの殺風景極まりない場所へ入る理由を探す方が難しかった。


 ――そうか、住民がみんな兵士になっているんだ。大人も……子供も……囚人も……。


 僕は螺旋階段を上り、屋上へと向かった。以前ここから脱出した時に空いた穴は何事もなかったかのように修復されていたが、化石があった部屋は壊されたままだ。


「! ――プルートっ!」


 屋上へ出てみれば、そこにはハデス皇帝を始めとしたプルートの一族が勢揃いしており、その周囲にはオルクス将軍と僅かな雑兵が佇んでいる。プルートはニクスにカラドボルグを突きつけられた状態で両腕が手錠に繋がれていた。手錠の鎖は屋上の壁に繋がれており、そこから動けそうにない。


 ハデス皇帝は黄金に輝く罅割れた石版のようなものを大事そうに抱えている。


「アースっ! 来ちゃ駄目だっ!」


 両手が塞がったままのプルートが声を絞り出すように叫んだ。


「! ――これは」


 突然、前方から鎖のようなものが伸びてくると、僕の両腕がプルートが使っているものと同じものと思われる手錠にがっちりと拘束された。


 しかも手錠の鎖の先が壁に接着されて壁と同化すると共にプルートを拘束する。どうやら罠にかかってしまったらしい。


「かかったな。それは我が娘、ステュクスの錬金魔法によって作られた魔力封じの手錠(マジカフス)だ。その手錠にかかった者は魔力を封じられ、身動きが取れなく――」

「「「「「!」」」」」


 説明を聞き終える前に、試しに魔力封じの手錠(マジカフス)に繋がれている鎖を思いっきり引っ張ってみれば、まるで糸を引きちぎるかのようにあっさりと破壊してしまった。両腕に巻きついている手錠も力づくで引きちぎった。この光景にはプルートもステュクスもオルクス将軍も唖然としてしまった。


 だがハデス皇帝は焦るどころか、所々に金歯が差し込まれている歯を見せながらさっきよりも気味の悪い笑みを浮かべている。


「手錠をいとも簡単に破壊するとは、やはりお前はただ者ではないな」

「まっ、魔力を封じるはずなのに、何故効かないんだっ!?」

「あれはアースの魔力を封じただけで、アースがモンスターたちから吸収した能力までは封じられていない。あれは魔力ではなく、奴自身の身体能力だからだ」

「身体能力ですと」

「大方、馬力の強いモンスターの能力でも使ったのだろう」

「その通りだよ。今のはミノタウロスから吸収した怪力を使わせてもらった。僕にそんな小細工は通用しない。今すぐ降伏してください」

「降伏だと……ふははははは! 我々もなめられたものだ。ならこれはどうだ?」

「!」


 ニクスのカラドボルグが赤、黄色、青の光を放ちながらその輝きを増していく。


「【氷炎雷撃(アイスフレイムボルト)】」


 氷結、火炎、電撃といった全ての要素が混ざった魔力の波動が僕に向かって飛んでくる。


 波動が僕に直撃した途端、あまりの衝撃に風が吹き荒れ、オルクス将軍たちの背中に装着されている青いマントがバタバタと騒ぐようになびいている。


「やったか!?」

「いや、奴はこの程度で……終わる男ではない」

「「「「「!」」」」」


 僕の体には傷1つなかった。回復したからではない。ダメージを一切受けなかったのだ。ルーナが新しく僕のために買ってくれた服はもうボロボロになってしまっていた。


 痛みもない。それどころかアイテムポーチが無事であるかを心配する余裕さえあった。


「もう終わり?」

「その防御力もモンスターから吸収したものだな?」

「そうです。これはレヴィアタンの防御力によって防いだもの。これでありとあらゆる攻撃を跳ね返すことができます。抵抗しても無駄ですよ」

「ほう、ならばこれでどうだ?」

「!」


 信じられないことに、ニクスは実の妹であるプルートに大剣の矛先を突きつけた。


「――何故プルートを手にかけようとしているのですか?」

「お前とプルートが通じていることは知っている。お前にそっくりな顔の身代わりを地下牢から感知した時は本当に驚いた」

「やはり僕が最後に見たのは、あなただったのですね」

「そうだ。まだ気になる点がいくつか残っているが、話はこの辺にしておこう」


 ニクスが大剣の矛先をプルートに近づけ、先端がプルートの首に触れると、そこから鮮やかで赤く染まった血が静かに流れてくる。


 なんて切れ味だ。あんなものをまともに食らえばプルートはただでは済まない。


 父親に似て狡猾だし――僕の心情がここまで分かる敵は初めてだ。

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