第93話「無能力者、敵の中枢に気づく」
太古のモンスターを倒したことで両軍の緊張が目に見える形で高まっていく。
エッジワース港を制圧した連合軍はそこで休憩を取り、帝都カロンへの侵攻を目指しているところであった。帝国軍はカロンまで引き上げ、敗北の一報が皇帝に伝えられたところだろう。
僕はプラネテスのみんなや、連合軍の将軍や兵士たちと共に食事をとっているが、そこにいつもの笑顔はなかった。数時間後には誰が犠牲になっていてもおかしくないからだ。フェニックスの攻撃は一瞬で兵士たちを焼き尽くし、ガイアソラスの力でさえ回復が間に合わなかった。
あんな戦いが何度も続けば――連合軍とて帝都攻略は困難を極めるだろう。
植民地を全て奪ったにもかかわらず、本国を攻めきれなかった事情がよく分かった。
攻略を待ちきれない僕は地面につけていた腰を上げ、その場に立ち上がった。ルーナたちは不思議そうな目で僕を見上げている。
「みんなはここにいて。僕は一足先にカロンを調査してくる」
「駄目だ。勝手なことはするな。これは軍に従事する者の基本だ」
アルダシール将軍が断りの返事をする。僕を離したくはないらしい。
「ばれないように調査をする方法があります」
「今は休め。少しでも魔力を温存しなければ、肝心な時に戦えなくなるぞ。お前は帝都攻略の鍵を握る存在だ。我々から離れることは許されない。継続的に回復をし続けてもらわなければ貴重なポーションを使うことになる。ポーションの削り合いになれば我々が不利だ。特に籠城している敵を攻める時には相手よりも多くのポーションやその他の回復手段を維持する必要がある」
「……分かりました」
諦めてその場に座り、アルダシール将軍の帝都攻略作戦に耳を貸した。
僕らは既に第1防衛ラインである戦艦、第2防衛ラインである海岸を突破し、最終防衛ラインである帝都の手前にまで迫っていた。
占領したエッジワースの人々はまるで恐怖から解放されたかの如く、天に向かって飛び上がるように歓喜の意を表していた。
そのことからもプルート帝国による圧政がいかに民にとって辛いものであったかが分かる。プルート帝国の解体は圧政からの解放を意味していた。
「今の帝都には大きな城壁が聳え立っている。しかも帝都への出入りまでもが制限され、これを突破するのは困難を極めるだろう。情報によれば帝都には多くの民と兵士たちが籠城していて、我ら連合軍の攻撃に備えているようだ。その周囲には太古のモンスターたちもいる」
「そのモンスターたちはどんな存在なんですか?」
「どれも見たことがないモンスターばかりだった。情報によれば、姿が判明している太古のモンスターは全部で3匹だ。地面や壁を這い回り、口から糸を吐いて相手の動きを止めてから仕留めてくる四足歩行のドラゴン、自らの尻尾に生えている剣を口で噛むように持ちながら戦うドラゴン、大きく燃え上がる翼を持つ凶悪な不死鳥だ。他にも数十匹ほどいるようだ」
「リントヴルム、ウロボロス、フェニックス。さっき戦ったフェニックスはアースが倒した。少なくとも、帝都にはリントヴルムとウロボロスがいるのは確定した」
マーキュリーが聞いた情報と人工頭脳に記憶させていた多くのモンスターのデータを照合した末に導き出した。
どうやらレヴィアタンやフェニックスのような、文字通り伝説の怪物級とも言えるモンスターが帝都に集められていることがハッキリした。
そんなにもたくさんのモンスターが相手となれば、僕1人だけでは対応しがたい。
「それほどの数なのであれば、我らも太古のモンスターと戦わねばならない」
「世界をも支配しかねない太古のモンスターがたくさん集まってるって……そんなのどうやって倒せばいいのよ?」
「方法ならあるわ。モンスターたちを操っている【洗脳】の使い手を捜し出して倒せば、モンスターたちの洗脳を解除することができるんじゃない?」
「それだと洗脳が解けたモンスターたちが一斉に暴れ出すわよ」
「あー、そっかぁー。マーキュリー、どうすればいいと思う?」
「化石から蘇った太古のモンスターたちは【蘇生禁術】の闇の魔力によって蘇った存在。モンスターたちは禁術使いの闇の魔力がなければ生命を維持できない。つまり、闇の魔力を持った禁術使いを倒せば、モンスターたちの生命を維持している闇の魔力が消滅し、モンスターたちを一斉に倒すことができる。帝国軍の人数はこちらの約4分の1、禁術使いを倒せば、戦況は一気にこちらに傾くことは間違いない」
「なるほど、その手があったか」
「……」
サターンが納得するように頷いた。プルート帝国軍を倒す方法を知ったみんなはホッと胸をなで下ろしたが、それとは対照的に僕は肩を落とした。
禁術使いを倒せば、敵はこちらへの有効打を失い戦争は終わる。
だがそれは――大切な仲間の命と引き換えだ。
「アース、お前は敵の中枢に潜り込み、何としてでも禁術使いを捜し出して倒すんだ。私としては最も頼りになる者にこの役目を任せたい。なに、道をこじ開けるくらいどうってことない。時間稼ぎをしている間に倒してくれ。それまでに兵が全滅すれば我々の負けだ」
「……どうしても……やらなきゃ駄目ですか?」
「どういう意味だ?」
「禁術使いが皇帝の言いなりになっているだけで、本当はとても良い人であっても……倒さないと駄目ですか?」
「戦争を終わらせるには、もはやこの方法しかない。心苦しいが、1人の命よりも大勢の命を優先するのは組織として当たり前のことだ」
「アース、一体どうしたのぉ~?」
「いや……何でもない……分かりました。その役目、僕がやります」
覚悟を決めた僕は返事を返した。このままじゃ本当に仲間殺しを実行しなければならなくなる。
どうすれば――どうすればいいんだっ!?
僕はこんな戦いをするためにここまで来たんじゃない――むしろこんな戦いを終わらせるために来たはずだ。必ず助けるって……約束したのに。
「! アースさんっ! どうしたんですか!?」
「……何でもない」
悲しみに耐えきれなくなった僕は近くの森の木に隠れた。
さっきから涙が止まらない。自分でもどうやって止めたらいいのか分からない。
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