第92話「無能力者、吸収を極める」
フェニックスは口から次々と太陽のような炎の塊を僕に撃ってくる。
だがそれを僕1人で一心に受け止めようと炎の塊の前に立った。
レヴィアタンという伝説のモンスターを吸収したことで、またしても魔力が増幅したガイアソラスからとてつもない力を感じていた僕はこの刃を信じて元の腕に戻すと、両手を開いて構えた。
「【吸収】」
両手から青白い光のオーラを帯びた穴が出現し、その穴が物凄い吸引力で炎の塊を次々と吸い込んでいく。
――凄い。【吸収】の魔力が上がっている。
いや、今までは僕自身がこの魔法を使いこなせていなかったんだ。ガイアソラスが強化されたわけじゃない。僕自身が強くなったことで、ガイアソラスが持つ本来の力を引き出すことができるようになっているんだ。
召使いを辞めたあの日からは体力も大きく伸びているし、体も以前よりとても引き締まっている感じがする。足も速くなっているし、筋力もついてきていた。
フェニックスの攻撃が終わると、細い目を顰め、苛立った様子でその大きな翼を羽ばたかせ、三日月のような形をした風の刃が襲ってくるも、その攻撃さえ両手から発生した穴によって吸収されてしまったのだ。
すると、今度は痺れを切らしたフェニックスが突撃してきたのだ。
「アースっ! 危ないっ!」
「【吸収】」
僕はフェニックス本体の吸収を初めて試みた。
だがそう簡単にはいかず、そのまま突撃を受け、かなり後ろまで弾き飛ばされてしまった。森の木にぶつかり、木に穴が開くほどの衝突音が周囲に響き渡った。僕は違和感を持った。血が全く出ていないのだ。
昔であれば木の尖った部分に刺さり、そこから血が出てきてしまっているところだ。
だが傷がつくばかりか、鉄の塊がぶつかったかのように木が一方的に折れてしまう始末だ。
ガイアソラスと融合した僕とて人の子と思ってはいたが、レヴィアタンの絶大な防御力を手にしてからは傷1つ負っていないことに気がついた。
やはり倒した後でないとモンスター自体の吸収はできないようだ。
もはや【自動回復】で体の傷を癒す必要さえなかった。
いつ魔力疲労を起こしても不思議ではなかったが、この不死鳥を倒すまでは絶対に倒れるわけにはいかない。その気持ちだけが僕の体を支えていた。マーキュリーからはガイアソラスが持つ膨大な魔力に体が耐えきれなくなり、倒れてしまう危険性があると言われた。
だが構うもんか。たとえそうなったとしても、この戦いにだけは勝ってみせる。
そう思った瞬間、再び右肘から先をガイアソラスへ変えると、さっきよりも眩い光を放ち、大きな翼を羽ばたかせてフェニックスと同じ高度まで飛んだ。
「これは一体……分かったよガイアソラス、僕は君の力を信じる。だから僕に力を貸してくれ」
僕の掛け声に応えるかのようにガイアソラスの光が僕の体を優しく包み込んだ。
その瞬間、僕の体が一瞬で消えた。
フェニックスが僕を探そうと首をキョロキョロとさせたが、その直後にフェニックスの翼や脚が切断されていき、夥しい血が流れると同時に苦しそうな奇声を上げた。
「【魔剣一閃】」
一瞬だけバチバチと光りが輝くと同時にフェニックスの体がスライスされるように切断されたが、不死鳥なだけあってマグマのように溶け出した体が元に戻ろうと復活しようとする。
しかし、その体から魔力が抜けているのを感じ取った僕は勝利を確信する。
フェニックスはマグマと化したその体から元に戻ることができずにいた。
「あれっ。どうしてフェニックスが復活しないの?」
「アースがさっき放った技には相手から魔力を奪う効果がある」
「魔力を奪う効果?」
「そう。アースは新たな回復魔法をあの戦いの中で習得した。あの技は相手を攻撃しながら相手の魔力を奪い、自らの魔力を回復する技」
「魔力を回復ですって! そんなの聞いたことないわ! あれだけ威力の高い攻撃をしながら回復までできるなんて」
「アースはワタシでも予測不可能。そのような技を持っていたとて、全く不思議ではない」
「あんた……こういう時も冷静なのね」
「でもマーキュリーの言うことも分かるわ。アースなら不思議じゃない」
「体を復活させるには魔力が必要だ。だがアースがフェニックスから魔力を奪ったことで復活ができずにもがき苦しんでいるわけだ」
「――凄い。凄いです。アースさん」
マグマの状態のまま動けないでいるフェニックスなら倒れていなくても【吸収】で倒すことができると思った僕は再びこの魔法を使った。
フェニックスが大きく丸い光となり僕と一体化する。
さすがに簡単には倒させてくれないかと思ったが、新たな力を引き出したことで、僕はフェニックスをも倒すことができたのだ。
「やりましたね。アースさん」
ルーナが僕のもとに駆け寄ってくる。ガイアソラスと大きな翼を体内にしまい、僕は彼女と勝利の抱擁を交わした。
「フェニックスを倒すなんて……凄いな」
サテッレスのリーダーであるイオが僕を褒め称えてくれたが、やっていることが常軌を逸しているのか、最後には言葉を失っていた。
「ふ~ん、結局彼1人で倒しちゃったわね」
「ひょっとして、僕らはもういらなかったりして」
「そんなことないわ。今度は私たちがアースを守らないと」
イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストたちとはすっかり仲良しだ。
そのためかプライベートでも一緒に食事を共にしたり、僕らのためにお得なクエストを教えてくれたりと、パーティという枠組みを超えた交流を楽しんでいた。
彼らもまた、連合国軍の兵士としてこの決戦に参加してくれている。
かつてジュピターと共に戦った過去を持つが、その詳細は明らかになっていない。
ジュピターたちはやたらと過去を伏せたがるところがあるようで、必要な時以外に自分のことはあまり話そうとしない。僕らと出会ってパーティに加入してからも故郷のことはほとんど口にしなかったくらいだ。
「マーキュリーが分析してくれたおかげだよ。不死鳥なら魔力を奪ってやれば復活できなくなるんじゃないかなって思ったからさ」
「一時はどうなるかと思ったけど、アースのお陰で何とかなったわね」
「えへへ。いよいよカロンまで攻め込めるね」
「アルダシールさん。アースさんならきっと大丈夫です。このまま敵に時間を与えるよりも、一気に攻め込んだ方が得策であると思います」
「――そうですな。分かりました。少し休んだらカロンを攻めましょう」
「はいっ。わたくしたちならきっと勝てます」
自信満々なルーナ、そして僕の力に確信を持ったアルダシール将軍の言葉により、侵攻計画は急速に進むことに。
兵を休ませている間、僕は帝都カロンを調査しようと考えるのだった。
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