第90話「無能力者、上陸作戦に参加する」
3日後――。
ムーン大公国、ネプチューン王国、ウラヌス共和国の3ヵ国からなる連合軍対プルート帝国軍の戦いがついに始まった。
大公国軍兵士は黄色、王国軍兵士は藍色、共和国軍兵士は水色の軍用服だ。帝国軍兵士は灰色の軍用服であり、甲冑や鎧にも違いがある。大きな鶏冠のような甲冑に丸い盾が特徴の大公国軍、長方形の盾と長剣が特徴の王国軍、二刀流の剣と翼が描かれた鎧が特徴の共和国軍。そのどれにも個性が表れていた。
共和国軍にとって翼は自由の象徴だ。それぞれの国家には違った理念がある。
だが共通の敵を得た今、目的を同じにした首脳たちもまた、煌びやかで目立ちかねない甲冑と鎧に身を包んでいる。
当初はプラネテスのメンバーの中で最初から最前線で戦うのは僕だけの予定だったが、直前になって王国軍と共和国軍の戦艦が嵐によって補充不可のアクシデントに見舞われ、後衛で温存されるはずだった残りのメンバーたちまでもが引きずり出された。
結局、プラネテスの全員が最初から連合軍の最前線で戦うことに。
しかし、敵はまだこちらには迫ってきておらず、未だ距離を保ったまお互い睨み合いの状態が続いている。
「全くついてないわねー。それぞれの戦艦部隊が本国で立ち往生だなんて」
「元々オールト海峡の周辺の海は気性が荒くなりがちな上に渦潮も多いから、戦艦でも通過するのが難しいのは前々から言われていたわ。あたしたちが帝国領を通って陸路からエッジワース港に行かないといけなかったのもそのためだから仕方のないことだけど、今になってまた嵐とはねー」
「遠距離攻撃が得意なルーナとヴィーナスとマーキュリーは僕らの後ろから援護射撃を、僕とマーズとネプチューンは近距離戦で相手を倒す。ウラヌスとジュピターとサターンは対空攻撃を頼む。空の敵は凍らせたり、電撃で痺れさせたり、リングで動きを封じたりして翼を使えなくしてやれば簡単に倒せるはずだよ」
僕はプラネテスのリーダーとしてメンバーたちの配置を考えた。
マーキュリーにパーティの組み方をゼロから教えてもらい、接近戦と防御に優れた者は前衛、遠距離戦とサポートに優れた者は後衛といった基本的なことから、白兵戦になった時の立ち回りまでを頭に叩き込んだ。
たった1人でも犠牲を出さないように――もうあんな辛い思いは御免だ。
それに僕はルーナの専属護衛でもあるのだから、必ず守ってみせる。彼女からもう必要ないと言われる日までは――。
「ほう、私たちの特徴から適性ポジションをすぐに編み出すとは。本当に無能力者だったのか?」
「えへへ。これでも何の才能もない無能力者だったんだよ。信じられないよね?」
「アースさんは無能力者じゃありません。世のため人のためにご奉仕できる素晴らしい方です。ガイアソラスもそんなアースさんだからこそ、自らの力を授けたのです」
「だといいんだけどね」
「敵襲だぁ!」
1人の兵士の声を皮切りに緊張感が一気にこの空間に張り巡らされた。こちらの動きを警戒しながら守りを固めていたはずの帝国軍の戦艦が痺れを切らして攻めてきたのだ。
カイパーベルト港から出航した連合軍の戦艦部隊は、エッジワース港で待ち構えていた帝国軍の戦艦部隊と激突した。
最前線では国によって色も形も異なる甲冑と鎧をかぶった兵士たちがぶつかり合った相手の戦艦に乗り込み、剣、盾、槍、斧などの武器を打ち鳴らし合っている。
――ここに、史上最大の上陸作戦が始まったのだ。
僕らはすぐさま作戦行動を開始した。
前衛である僕、マーズ、ネプチューンは勢いよく味方戦艦から敵戦艦の間を飛び越えた。目の前にはこちらに刃を向けている帝国軍の兵士たち。そして後ろからは続々と味方の兵が迫ってくる。
「【自動回復】」
ガイアソラスの膨大な魔力を放出し、味方全体を自動回復状態にした。
お互いの兵士たちの口からは耳を塞ぎたくなるような怒号とも言える掛け声が飛び交い、攻撃を受けた兵士たちが次々と倒れていく。
しかし、連合軍の兵士たちはいくら体を斬られようとも【自動回復】によって体の傷や切断された手足がすぐに元の状態にまで回復した。すぐに立ち上がっては敵兵に一目散に向かい、闘志をむき出しにしながら突撃する様を見た敵兵は恐れおののき、ついに戦うことをやめて逃げてしまった。
今度は魔法を使った遠距離攻撃に切り替え、火の玉を次々とこちらに飛ばし、連合軍の兵士たちが次々と爆撃に巻き込まれていく。
だがいくら爆撃で体がもがれようとも、次の瞬間には復活しており、今度はお互いに魔法攻撃の応酬となった。ジュピターを始めとした仲間たちが後ろから強力な支援をしてくれているおかげで空の敵に顔を向けなくても澄んでいる。
ジュピターたちの魔法攻撃を前に敵のワイバーンたちが次々と撃ち落されていく。
魔法攻撃を倒そうとしてもすぐに復活する兵士たちを前に、敵兵はじりじりと追い詰められていったのだ。
「【魔剣斬】」
ガイアソラスを青白く光らせると、その光輝く刃を横向きにして敵兵やモンスターたちを一気に一刀両断し、それぞれの切り裂いた場所が大爆発を起こした。
しかもそのまま敵の戦艦部隊が後退をし始めると敵戦艦同士がぶつかり、その衝撃でパニックになった兵士たちが逃げ場を求めて一斉に後ろへと逃げ始めた。
戦艦が束になったように1ヵ所に固まると、僕は早々に決着をつけようとガイアソラスを元の右腕に戻し、手の平を敵戦艦が密接に固まっている場所へと向けた。
僕の手の平に黒い光が集まり、そこに強力な魔力を集中させた。
「それは……まさか」
サターンが驚きの声を上げるが、彼女はもう気づいたようだ。
「【撃滅道路】」
手の平から極太の黒い光線が一直線に敵戦艦を全て破壊し、乗っていた敵兵が全てバラバラになった戦艦から空へと投げ出された。
「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁ!」」」」」
星が降るように敵兵が海へとボトボト落ちていき、その多くは海を泳ぎながらエッジワース港がある海岸へと逃げていった。
エッジワース港の海岸はさっきの極太の光線により奥の森の方まで削られ、地面は光線の跡が残った。それは半月のような形に抉られ、広めの道路となっていた。
これには敵味方を問わず呆気に取られている。
「アース、まさかお前、レヴィアタンの力を使ったのか?」
「そうだよ。プルートが僕に送ってくれた最終兵器だ」
プルートは僕がここから帝都カロンまで辿り着けるよう最高の力を送ってくれた。
あえて強いモンスターばかりを復活させることで僕に力を与える作戦にはさすがの敵も気づかなかったようだ。
敵地から最も手助けをしてくれた彼女を早く助けないと。
気に入っていただければ下から評価ボタンを押して応援していただけると嬉しいです。
読んでいただきありがとうございます。




