第87話「無能力者、首脳会談に参加する」
どうにかプラネテスのみんなを安心させたところで楽しい夕食が終わった。
ネプチューンが食べないなら貰うぞと言わんばかりにパンを多めに食べてしまった。その分戦闘訓練で激しい運動もするから問題ないんだろうけど。
翌日、僕らは朝早くから目覚ましも兼ねて外の庭で戦闘訓練を行った。
彼女は【聖槍ブリューナク】という突き刺すための槍、そして【聖槍グングニル】という投げ槍を使いこなす槍の名手だ。
聖槍を2つも持っている理由を聞いてみれば、プラネテスに加わるなら相当の戦力ならねばと思い修業を重ね、王族のみが使いこなせるとされる先祖代々伝わる聖槍からその力を認められた。王族ならそれくらい強くないと示しがつかないんだとか。
ネプチューンがブリューナクを召喚し、その力をみんなの前で示した。
「オラオラオラオラオラァ!」
目の前にある庭の木に向かって目にも留まらぬ速さで何度も刺し始めた。その木は穴だらけになり、倒れたかと思えばすぐに根っこから木が復活した。
僕が庭の木に【自動回復】の魔力を仕込んでおいたのだ。これにより何度倒れようともすぐにまた生えてくるのだ。折れた部分は木材として利用され、時々はこの木材でキャンプファイヤーを行ったりしている。
「槍で刺したり投げたりできるのねー。マーズの【炎獄刃】も刺したり投げたりできるから、良いコンビになるかもね」
「私のナイフは切ることもできるわよ」
「何言ってんだ。アタシの聖槍だって切れ味抜群だぞ」
「ふーん、じゃあ勝負する?」
「望むところだ」
まるで張り合うようにマーズとネプチューンの2人がお互いのナイフと槍を鳴らし合った。
2人とも運動神経抜群だ。お互いの攻撃をひらりとかわしながら怯むことなく攻撃を続けている。特にマーズの動きの成長が顕著だった。パーティを結成した時よりもかなりレベルが上がっている。
そんなパーティの成長に喜びを感じている時だった――。
「朝早くから訓練とは精が出るな」
突然、僕の後ろからサターンの凛々しくも力強い声が響いた。
みんなが彼女に気づき、一時的に戦闘を中断する。
「サターン、それにウラヌスもどうしたの?」
「今日私たちがここまで来た理由は他でもない。アース、今日の昼に行われる首脳会談にお前も参加してもらう。首脳会談にはオフィーリア大統領、ネレイド国王陛下、アルゲウス大公のお三方が参加されるほか、三国同盟に必要な者たちも呼ばれることになっている」
「そんな大事な会談に何故僕まで出るんですか?」
「何故も何も、お前もプルート帝国への侵攻を行う上で貴重な戦力と見なされているからだ。この戦いでは多数の犠牲も出る。お前は回復担当として連合軍を支えてもらいたい。この前の大公国軍と帝国軍との戦いでは圧倒的な戦果を収めた。しかもレヴィアタンとの戦いでは敵の弱点を見抜き、見事に私の目の前で打ち破った。それが評価されたんだ。もっと喜べ」
「首脳たちにアースを出席させるよう勧めたのはサターンだけどねー」
「それを言うな。別にアースを贔屓しているわけではない」
「ふふっ、分かってるってー」
そっぽを向きながら反論するサターンにウラヌスが絡みつくように体に触れ、子供をからかうような仕草だ。
これにはサターンもタジタジな顔だが、それでも受け入れてしまっていることからも、この2人が相当な仲良しであることがうかがえる。
「僕は何を話せばいいの?」
「別に話す必要はない。話を聞いているだけでいい。もしプルート帝国について何か知っていることがあるならそれを話してもらいたい。それだけだ」
「――分かりました」
正午がやってくると、僕らは大公官邸の奥にある大公の部屋へと案内される。
僕のそばにはルーナ、サターン、ウラヌスの3人が共に同じ速さで歩いており、大公官邸に入ってから周囲の緊張感が一気に強まった。
大公の部屋には既に首脳のお三方が豪華な椅子に腰を下ろしていた。僕らも席に着くよう大公から言われ、用意された席に着いた。長いテーブルの左からルーナ、僕、ウラヌス、サターンの順に座った。ルーナの左にはオフィーリア大統領が座っており、ウラヌスよりも少しばかり濃い緑色のロングヘアーの端正な顔を持つ美しい女性だった。
しばらくすると、大勢の召使いが料理を持ちながらぞろぞろと部屋に入ってくる。料理がオードブルから次々と順番に運ばれてきたのだ。
それらを配り終えると、すぐさま部屋から出て行ってしまった。
「あなたがアース・ガイアさんですね。初めまして」
見よう見まねでルーナに合わせながら食べていると、オフィーリア大統領が僕の方を向き、上品に真っ白で花柄のナプキンを使いこなしながら挨拶をしてくる。
「初めまして……大統領もこちらにいらっしゃったのですね」
「ええ。三国同盟を結んだことを決めた者として、出席しないわけにはまいりませんもの。あなたの噂は常々うかがっております。この度のレヴィアタンとの戦い、もしあなたがいなければ、我々の艦隊は全滅させられているところでした。ウラヌス共和国軍を代表して感謝を申し上げます」
そう言いながら少しばかり頭を下げた。これには僕まで慌てて頭を下げてしまった。
とても国のトップとは思えないほど物腰が柔らかく、周囲に不快を与えないだけの配慮が見事に行き届いている。本当に優れた品格をお持ちだ。
「いえいえ、僕は当たり前のことをしただけです」
「当たり前のこと……ですか。それはとても難しいことでもあります。あなたのような方が国を動かし民を束ねれば、きっと平和な世の中になることでしょう。ガイアソラスの力を使えば、世界を征服することもできましょう。ですがあなたは、その力を平和のために使われているところに感銘を受けたのです。アースさんが味方でいることを本当に心強く思います」
「僕はただ、争い事を好まないだけですよ」
「わたくしもそうですよ。ですから争いを収めるために大統領になったのです」
オフィーリア大統領が前を向き目線を落としながら呟いた。
何か重大なわけを抱えていそうな横顔だった。ウラヌス共和国も元々はプルート帝国の植民地であったと聞いている。
植民地から独立した国々が寄ってたかって本国を滅ぼそうとしている理由は何となく分かるが、もっと深い因縁がありそうだ。
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