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第86話「無能力者、パーティへの好意を問われる」

 クワオアーがプルートから離れ、また身代わり君とプルートだけになった。


 他の囚人たちまでもが立ち去っていくクワオアーを目で追い、再び殺風景がこの空間を支配する。僕は身代わり君を通してプルートに会釈をするように頷いた。


 地下から身代わり君を脱出させたその時――。


 急に何者かが表れたかと思えば、パンッと身代わり君の体が弾け飛ぶように割れる音がした。目の前が僕の自室へと戻った。


 またしても身代わり君を割られてしまった。


 最後に身代わり君が目にしたのは、全身に鎧をまとったニクスだった。恐らくはあのカラドボルグに切られたものと思われる。


 すっかり忘れていた。家族の性質は似るものだ。気配を隠しても皇族たちはいずれも僕や身代わり君の気配を感じ取っていた。【迷彩(カムフラージュ)】は効かないものと思っていい。でもちょっと待てよ。身代わり君は僕にそっくりに作られてある――ハッ!


 プルートが危ないっ!


「アース、夕食できたわよ――アース?」


 何も知らないマーズが僕に夕食の通達をしてくるが、焦っていた僕はすぐには反応できず、彼女を不安にさせてしまった。


「あっ、いやっ! 何でもない。じゃあ行こうか」

「え、ええ」


 そのまま1階のリビングにいたみんなと合流し、そのまま夕食をとることに。


 スープもパンも凄く美味しい。しかも今回はタンシチューまでついている。


 テーブルいっぱいに料理が並べられ、年頃で食欲旺盛なネプチューンががっつくように目の前にある料理をムシャムシャと平らげている。


「これうま~い。王城でも食べた事ねえぞー」

「ねえ、あんたそれでも王族なわけ?」

「いいじゃん別にぃ~。王族は好きに生きちゃいけないってのか?」

「そうは言わないけど……なんか国王陛下たちと一緒に食事をしている時のネプチューンとのギャップがありすぎて、どうも違和感あるのよねぇ~」

「あの場では王族だけど、今はただのネプチューンだ。アタシは何者にも縛られない。王位継承権も捨てちゃったし、やっと自分らしく生きられるってもんだよ。アースに嫁いだお陰だな」

「えっ、嫁いだっけ?」

「だってこうやって一緒に住んでる時点で実質結婚してるようなもんじゃん。あははははっ!」

「「「「「!」」」」」


 ネプチューンとマーキュリー以外の全員が石のように固まり赤面する。


 その間にもネプチューンは構わず料理を食べている。マーキュリーは自分の分を食べ終え、とっととその場から離れてしまった。何だかとても恥ずかしそうな後ろ姿だ。


「もう、変なこと言わないでよー」

「でも言ってることは間違ってないんじゃない」

「そうですね。私はそれでも十分幸せですよ」


 ルーナがそう言いながら話をまとめ、僕を意識するような目でこちらを向いた。


 僕は自然な笑みを浮かべ、お互いを見つめ合った。ルーナのキラキラした目を見た後で目線を下に移すと、彼女の豊満な胸がブラウスの中で窮屈そうにしている。


「ふ~ん、アースって大きいのが好きなんだ~」


 目を半開きにさせながら呆れた顔でジュピターが言った。


「あっ、いやっ、別にそういうわけじゃなくて――」

「いいのよ~。男の子だもんねぇ~。ふふふっ、可愛いなぁ~」


 ジュピターが豊満な胸を正面から押しつけてくる。みんなの中で1番でかい。それだけでも僕を動揺させるには十分だった。


 このもふもふとした感触を惜しみなく僕に与えながら、人形にでも抱きつくかのように絡みつきながら頭をなでてくる。


 その様子をみんなが不機嫌そうな顔で腰かけながらジッと見つめている。


「こっ、子供扱いしないでよ。もう大人なんだから」

「そうかなー。アースはまだまだ心は子供だと思うよー」

「……そんなことないよ……立派な大人だし」

「だったら、ちょっとはみんなの気持ち考えたら?」


 さっきまでの人形に抱きつくような可愛げのある表情を見せていたジュピターの顔色が、唐突に冷たい声と表情へとガラリと変わった。


 その不意な変化は僕には豹変のようにさえ思えてしまい、まるで背筋に氷が通ったかのような寒気すら感じた。


「みんなの気持ち?」

「そうよ。みんなちゃんとあんたに気持ちを伝えたでしょ。あんたの気持ちはどうなの? 好きなら好き、嫌いなら嫌いってことくらいハッキリさせたらどうなの?」

「……そう言われても。難しいよそんなの」

「難しくても好意を伝えられたらちゃんと返事をするのが礼儀よ。その礼儀を守らなくても許されてきたのは、あんたがずっと子供と見なされてきたからよ。大人だっていうなら、自分の気持ちを正直に伝えて、けじめをつけたらどうなの?」


 覚悟を問うような目でジュピターが言った。彼女は嫌われるのを覚悟でみんなの代弁者というリスキーな役割を引き受けている。


 そんな役回りができる彼女には是非とも敬意を払いたい。


「……分かった。じゃあ言わせてもらうね。僕はみんなのことが大好きだ」

「「「「「!」」」」」


 僕以外の全員が赤面する。普段は冷静さを貫いているマーキュリーまでもが沸騰を確認するかのように自らの額に片手を当てている。


「だからみんなに結婚を申し込まれた時は凄く嬉しかった。僕だってみんなと結婚したい! でも一夫多妻なんて想像もつかないし、かと言って誰か1人に絞ることもできないし、誰も裏切りたくないし、傷つけたくなかった。だからずっと……見ないふりをしてきた」


 やっと言えた。結婚なんてする覚悟がない気持ちを隠し続けてきたことを。


「あたしにはアースが傷つくことを恐れていたように見えるけどね」

「……そうかもしれない」

「アースさん、わたくしたちは重婚しても問題ないことをこの前確認し合いました。わたくしたちはもう覚悟はできています。後はアースさんだけです」

「今はそんな覚悟はないよ。でも期限が来るまでには必ず覚悟を決める。みんなを幸せにできるくらいに強くなって」

「ふふっ、アースさんがわたくしたちを好きでいることを確認できただけでも十分ですよ」


 ルーナが僕の手を優しく手に取ると、その冷たい手を温めるように強く握りしめた。痛みを感じない程度の強さで、僕らの愛情を確かめ合うように。


 必ず幸せにしたい。いや、必ず幸せにする。


 僕は心の中で人知れず誓うのであった。

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