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第84話「無能力者、帝国の陰謀を知る」

 プルートがこちらに気づいた。魔法で隠しても分かる繊細さを彼女は持っている。


 かつてプルートがバイデントを所持している時は【迷彩(カムフラージュ)】を施した身代わり君をあっさりと見抜かれ、バイデントで風船を割るように破壊されてしまった。


 今すぐにでも連れて帰りたいが、この魔法結界(マジカルフォース)の前では無力だ。魔法はたちまち無力化されてしまい、転移の魔法陣もすぐに消滅してしまう。


 彼女の体は痩せこけており、満足に食事も取れないまま明らかに弱っていた。なのに目の前に立ちはだかる壁のせいで回復もしてやれない。


「――アース?」

「プルート、僕だよ」

「……今さら何の用だ?」

「今の帝国の情報を知りたい。どうして君はこんな所にいるの?」

「私はもう用済みだ。バイデントさえあれば満足に戦えるだけの魔力は残っているが、今の私はすっかりと魔力のほとんどを封印されている。言わばもぬけの殻だ」

「用済み?」


 僕は首を傾げた。プルートが何を言っているのか全く分からなかった。


 早速【凝視(ゲーズ)】を使い、プルートの特徴を分析するが、ここでとんでもない事実が発覚してしまったのだ。


 禁術使いの正体はプルートだった。完全に盲点だった。最初こそ失っても痛手のない第三皇子だという印象を外部の者たちに抱かせ、まんまとプルートにケルベロスの化石を持ってこさせた。


 やられた。完全に相手の術中にハマっていたようだ。


 僕らは有利だと思っていた。だが実のところ、みんなハデス皇帝の手の平の上で踊らされていたわけだ。自らの不利な情勢さえ利用するこの狡猾さ、戦略家としては完全に僕らを上回っている。一体何を考えているのかさえ悟らせてくれない。


 僕は両腕の拳が赤くなるまで握りしめ、口を閉じたまま歯を食いしばった。


「私は【蘇生禁術(ネクロマンシー)】の使い手だ」

「……まさか君が……禁術使いだったとはね。何か隠してるって思ってたけど、最も重要なことじゃないか。どうしてそれをずっと黙ってたの?」

「……済まない。どうしても言えなかった」

「どんな事情があったのか、全部話してくれないか?」

「分かった。お前には全てを話そう」


 プルートが枯れたような目で天井を見つめ、深呼吸を済ませてから口を開いた。


「父上は男子を望んでいたが、生まれた3人の子供はいずれも女子だった。このままでは誰も皇位継承権を持てないまま帝国に混乱をもたらすと考えた父上はある計画を思い立った」

「ある計画?」

「そうだ。私は闇の魔力を持って生まれてきた。その力は未知数で、闇の魔力を持ったまま大人になればそれが大きな災いをもたらすと古くから信じられてきた。だが父上は私に浄化魔法を施すことはせずに私を匿った。そして私が【蘇生禁術(ネクロマンシー)】を使えることを知った父上は歴史の資料を読み漁り、とあるモンスターに辿り着いた」

「それがケルベロスだったんだね」

「そうだ。だがケルベロスの化石は領国内にはなかった。秘密裏に動員した兵を使って他の国からも化石の採取を行っていたが、ついに発掘には至らなかった。だが7年前、ムーン大公国がケルベロスの化石を発掘し、それを博物館に飾ることになったという知らせを受けた」


 プルートは観念した犯人のように口々に今まで言えなかった機密をペラペラと口にする。


 ――なるほど、謎は全て解けた。


 つまり真相はこうだ。


 ハデス皇帝の目当てはムーン大公国の資源ではなくケルベロスの化石だった。だから全てを手に入れようと建前上の理由で侵攻し、植民地支配を試みたが失敗。


 そしてプルートにケルベロスの化石を取ってこさせたのは、暗殺の心配が最も低いと踏んだからと推測できる。


「父上はスペアとして私以外にも数人程度、闇の魔力を持った子供を匿い、ケルベロスを復活させるように【蘇生禁術(ネクロマンシー)】を使える者を掘り当てようとしている。そしてケルベロスを蘇らせてから姉さんたちや私を男に性転換させようとしているわけだ」

「それ、国際法違反じゃないの? ……あんまりこんなこと言いたくないんだけどさ、もうすぐ滅びようとしている帝国で、どうして皇子を残そうとしているのかな?」

「父上は世界征服を諦めていない」

「何か勝算でもあるの?」

「私の姉であるステュクスお姉さまは【洗脳(テイム)】を持っている。しかもどんなモンスターでも簡単に手懐けてしまえるほどの魔力を持っている。私が太古のモンスターを復活させ、そしてもう1人の姉であるニクスお姉さまは魔力において絶大とも言える素質を持っている。父上の後継者として相応しいくらいのな。だがニクスお姉さまの世界をも支配しかねない魔力は女の体では耐えられないことが分かった。だからニクスお姉さまがお前と戦った時、魔力をセーブせざるを得なかった」

「……」


 ――僕がニクスと戦っていた時、ニクスは一瞬だけ悔しそうな顔を見せた。


 それは僕に負けたからではなく、本当の力を出せなかったからだ。


 全ての謎が解けた時、何だかふわっと少しばかり体重が軽くなった気がした。ニクスは男の体であれば絶大な魔力を操ることができて、ステュクスはモンスターを操れる。そしてプルートは闇の魔力によってモンスターを復活させることができる。


 そしてケルベロスは自分や相手を性転換できる力を持っている。


 だから死に物狂いでケルベロスを復活させようとしているわけだ。


「そんな恐ろしい計画があったなんて」

「……済まなかった。私たちは対立関係にあった。父上はニクスお姉さまと組み、私はステュクスお姉さまと組んでいたが、父上にステュクスお姉さまを人質に取られ、従わなければ拷問すると脅された。それで仕方なく従っていた」

「ケルベロスの化石を盗んだのもそのため?」

「ああ。だが私は化石の一部を博物館から盗んだだけで残りは盗まなかった。それが私にできる精一杯ぼ抵抗だった。私は戻ってから父上にそれを見破られ、ここに幽閉されたわけだ。私ほどの腕なら、バイデントがなくとも化石を全て持ち帰ることができたからな」


 やはりプルートは裏切ってなんかいなかった――ずっと良からぬ計画を企む工程には向かおうとしていたんだ。


「事情はよく分かった。要はケルベロスの復活を阻止すればいいんだね。プルート、話してくれてありがとう」

「何故お礼を言う? 私はお前たちを裏切ったんだぞ」

「敵を騙すならまず味方からって言うでしょ。プルートはそれをやろうとしただけ。僕らを裏切ったわけじゃない。それにもう1つ、事実が明らかになった」

「?」


 プルートが目をパチパチと開閉しながら自分以外の人には見えていない僕を見つめた。


 彼女が禁術使いなのであれば、きっと僕が戦うことも分かっていたはずだ。


 常に冷静沈着で計算高い彼女の意図を僕は汲み取るのだった。

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