第81話「無能力者、仲介をする」
レヴィアタンとの戦いが終わり、僕らはカイパーベルトのギルドカフェへと赴いた。
サターンとジュピターが対面するように座り、その週を僕らが囲んだ。マーキュリーにそれぞれの発言内容を記憶させ、記録係を務めてもらうことに。
記録係を間に挟むことで、発言に矛盾が生じた時はすぐに指摘が入る。まるで裁判のように見えるが、こうでもしなければ一生終わらない気がした。
「それじゃあ、まずはサターンの言い分から聞かせてもらうね」
マーズが2人の仲介役として指揮を執り、それぞれの言い分を見守った。
話し合う覚悟ができたサターンはジュピターの目を真っ直ぐ見つめながらその口を開き、ジュピターもまた、負けじとサターンの目を見つめ返した。
「我がサターン王国軍は支配下に置いている種族を集め、巨人族の反乱に備えさせていた。だが巨人族たちは、我々が思っていた以上に強かった。今までに見たことのないモンスターたちを率いて攻めてきた。調べてみれば、どれも太古に滅んだはずのモンスターばかりだった」
「太古のモンスター?」
「ああ。さっきのレヴィアタンも、太古の昔から蘇ったとされる1体だろう。当時の我々では手も足も出なかった。誰1人として……」
サターン王国軍は格下の巨人族だからと見くびっていたツケを払うことに。
巨人族が指揮する反乱軍の中にとんでもなく強力なモンスターがおり、その1体は戦況を大きく変えてしまうほどの力を持っていた。
王国軍は反乱軍に押し返されてしまい、王都ミマスは陥落した。
様々な種族が集う王国軍は散り散りとなり、その多くはジュピターのように亡命し、他は難民として世界各地を彷徨っているという。彼女がいる悪魔族たちも次々と壮絶な戦死を遂げた。彼女も最後まで戦おうとしたが、家族に止められ逃げ延びた。残されたサターンたちは恥を忍んで同盟を結んでいたウラヌス共和国を頼り、召し抱えられたサターンは共和国の将軍となっている。
反乱軍の強さは明らかだった。
そして彼女は亡命してから驚愕の事実を知る。
それはエルフ族が旧サターン王国を裏切り、敵に寝返っていたという情報である。それを知ったサターンはこれを決定的な敗因と悟り、ジュピターを目の敵にしているという。
――サターンの話を聞いているだけで胸が張り裂けそうになる。
それはここにいるみんなも同じだった。特に酷い落ち込みようだったのはジュピターだ。目の前に出されているコーヒーを見つめながら一切口をつけずに見つめ続け、その目は半開きになり、かたくななまでに口を閉ざしている。
「お前たちエルフ族が裏切らなければ、私たちはもっと戦えていた。勢力を盛り返す決定的な機会をお前が奪ったんだっ!」
彼女の剣幕の前に、ギルドカフェにいた店員や他の客たちがが凍りつくように固まった。
僕やルーナたちが慌てて周囲の人たちに謝り、落ち着くよう言い聞かせた。
「……違う……そうじゃない」
ジュピターが今までのサターンの言葉に耐えかねたのか、目から大粒の涙を流し、弱々しい声を絞り出しながら否定する。
「あの時、エルフ族は壊滅寸前だったの。しかも反乱軍に包囲されて身動きも取れなかった。反乱軍は私たちに寝返るよう通達を送ってきた。もし拒否すればその場にいるエルフ族が全員皆殺しにされるって言われたの。包囲網から脱出するくらいはできたかもしれない。でもそんなことをすれば、私たちの家族はみんな殺されていたわ。エルフ族が持つ風の力でも、巨人族たちが率いるモンスターたちには太刀打ちできなかった。そこで私たちは寝返ったふりをして生き延びたの。包囲から解放されたのを見計らって脱出したわ」
サターンはずっとジュピターたちが裏切ったと本気で信じていた。裏切りは本当だったが、それは敵を欺くためのフェイクだった。
本当の意味で裏切ったわけではなく、家族を天秤にかけられたが故の苦肉の策だった。
それを知った彼女は両腕をわなわなと震わせ、顔も小刻みに震えていた。
テーブル席に腰かけ、そのまま下を向いてしまった。彼女は苛立っている。今まで信じてきた者が覆ろうとしている。親友に裏切られ失望していた自分自身を責めているようにも見える。
「そんな都合のいい話を私が信じるとでも?」
「反乱軍の強さはあんたも知ってるでしょ。当時の私たちではとても適う相手じゃない。だから私は今でも……いつかサターン王国を復興させる時は、真っ先にあんたに力を貸すって決めていたの。私はまだ諦めてない。あんたが王族に返り咲く日まではね」
ジュピターが涙ながらに笑顔でサターンの手を掴み、必死にその誠意を訴えた。
サターンは口を開けたまま呆気に取られている。その目からは貰い泣きとも受け取れる涙がにじみ出ていた。
彼女はいつでもサターンに力を課すことを伝え、サターンもそれを了承したかのようにジュピターの手を強く握り返した。
「……ジュピター」
「サターン、ずっと伝えられなくてごめんなさい。あの後、あんたが行方不明になったと聞いて、ずっとここで細々と家族と働きながらあんたを探してたの。不慣れな環境で他の家族は次々死んでいって、今はもう私1人になっちゃったけど、私は親の遺志を継いで、ここであんたを探してた。あんたが生きていることを信じて」
「……謝らなければならないのは……私の方だ。お前は私を信じ続けてくれていたんだな。それなのに私は……ずっとお前を裏切り者だとばかり。済まなかった」
「ううっ……うっ……」
「うっ……ううっ……」
2人はお互いを強く抱きしめ合いながら啜り泣きをし、僕らの前で和解の意を示した。
この光景にはルーナたちも貰い泣きしてしまった。
かつて戦いに敗れ、その友情までもが引き裂かれたジュピターとサターンは、今日再びその絆を取り戻すに至ったのだ。
「アース、ジュピターと話す機会を設けてくれてありがとう。もし必要があれば、私もお前たちに協力しよう。世話になった」
「やっと決着したみたいだね。本当によかった」
「あっ、こんなところにいたんだー」
「「「「「!」」」」」
聞き慣れない高い声に僕らは思わず声が聞こえた方向へと一斉に振り向いた。
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