第79話「無能力者、覚悟を決める」
いつレヴィアタンがまた動き出しててもおかしくないこの状況で僕とサターンの交渉は続いた。さっきから彼女は僕の姿をその眼光で全てを見通すように眺めている。
悪魔はかつてこの星の大陸を全て統一していたことからもプライドの高い者が多く、戦闘能力もかなり高いことで知られている。旧サターン王国を治めていたこともあながち嘘ではないようだ。
レヴィアタンを縛っていた【呪術円環】が徐々に解け始め、最終的に無理矢理引きちぎるようにその怪力でリングを粉々に破壊してしまった。魔力のなくなったリングは急激に質量を失い消滅した。
再びレヴィアタンの方向が鳴り響いたが、人々は一部の冒険者たちを除いてレヴィアタンとは反対方向へと完全に逃げ果せた。
なるほど、リングで時間稼ぎをしたのは人々を避難させるためだったんだ。
レヴィアタンがこちらの気づき、海岸まで徐々に近寄ってくる。
「……分かった。今は協力してくれ。それと敬語もやめろ。貴族同士だろ」
「……約束だよ」
「ああ、約束だ」
僕はサターンの返事を確認すると、猛スピードで真っ向から共通の敵に向かって茶色い大きな翼を羽ばたかせた。
間近で見るとますますその迫力が伝わってくる。海岸から少し離れた岩に飛び乗った瞬間、悪天候でもないのに波飛沫を浴びせられ、漆黒の大きなドラゴンと対面する。
「【魔剣斬】」
ガイアソラスを大きく横に振りかぶり、その太く大きな胴体を切り裂こうとするが、まるで鉄にでもぶつかったかのような音が響いただけで、レヴィアタンの体には傷1つついてはおらず、怯むことなく僕にかぶりついてくる。
それを間一髪のところでかわし、再び空を飛んだ。レヴィアタンが上を向いた時にはガイアソラスを横に振りかぶっていた。
「【大地斬】」
今度は頭の上にガイアソラスを振りかぶり、そのまま海をも真っ二つに切り裂くほどの一撃を食らわせた。だがそれでもダメージを全く与えられず、全ての攻撃が無に帰している。
サターンは先ほどから猛攻を仕掛けている僕を上空から見守り続けている。
「回復以外にもそんな技が使えるとはな。他のモンスターなら間違いなく一撃だっただろう」
「感心してる場合じゃないよ」
レヴィアタンが大きく口を開くと、口の周りに黒い光が集まり、それは大きな黒い塊となり、そこから天をも貫きかねないほどの極太の光線が空中にいた僕らに向けて放出された。
あんなにも強力な光線が街に命中すればひとたまりもない。
でもあんな攻撃、一体どうやって防いだら――。
「【反射円環】」
その極太の光線にサターンが立ちはだかったかと思えば、彼女の前に円形のバリアのようなものが表れた。そのバリアはレヴィアタンの攻撃を全て吸い込み、それをそのまま逆噴射するように吐き出した。
極太の光線がレヴィアタンに命中する。だがそれでもダメージは与えられなかった。
「そんなっ!」
「自分自身の量力な攻撃さえ、あいつには効かないっていうの?」
「あれ、多分私の攻撃も効かないわよね?」
「アース、ここはもう逃げた方がいいんじゃない!?」
地上からマーズが両手を口にあてがいながら僕に向かって叫んだ。
プラネテスだけじゃない。サテッレスのメンバーたちもいる。それに他のパーティも。あいつの上陸を許せばみんなが死ぬ。それは考えるまでもなく分かることだ。
「駄目だよ。このまま上陸を許したら戦艦部隊も全部壊滅させられるし、みんなもあいつの攻撃に巻き込まれる。そうなったらもう、三国同盟どころじゃない」
「勇敢だな。だが賢明とはとても言い難い」
「僕は絶対逃げない。レヴィアタンも一度は滅びたんだ。必ず弱点があるはずだよ」
「そうは言っても、奴の体の表面は頑丈そのもので、あらゆる攻撃を跳ね返すんだぞ。仮に弱点なんてあったとしても、どこかに隠しているとしか」
「どこかに隠してる? ――! そうか、それだよっ!」
「何か策でもあるのか?」
「うん。良い方法を思いついた。ちょっと耳を貸して」
「あ、ああ」
サターンは戸惑いながらも僕との接触を許してくれた。
僕はサターンがリングを使った技を使えることをヒントにある方法を思いついた。レヴィアタンの体の表面はガードが固すぎる。だったら別の位置を攻撃すればいい。
「お前、正気か?」
「多分とち狂ってる。でもこれ以外の方法があるか?」
「――どうなっても知らんぞ」
「責任は僕が取るよ。僕がレヴィアタンを惹きつける。サターンはタイミングを見計らってリングを出してくれ」
「了解した」
もうこれ以外に方法はない。一歩間違えればやられるかもしれないけど、他に策がない以上、やるしかないんだ。たとえどんなに馬鹿げていたとしても、そこに突破口があるなら、僕は迷わず前に進むだけだっ!
僕を信頼してくれる仲間たちのため、僕を支え続けてくれたみんなのためにも。
「僕が合図したら、【呪術円環】をあいつの顔に投げて」
「分かった。死んでも墓は作らんぞ」
「うん。僕だってこのままじゃ死んでも死にきれないよ」
そう言い残し、再びレヴィアタンに向かって飛び立った。
無駄だと知りながらもガイアソラスで攻撃する。僕らの意図を知ってか知らずか、ルーナたちまでもが援護射撃に参加してくれている。
それぞれの攻撃がレヴィアタンに命中するが、足止めをするくらいの効果しかない。
だがそれでも十分だ。サターンは魔力を増幅することで、リングの魔力をより強力なものとすることができる。それまでの時間稼ぎだ。
彼女の腰回りには黄金に輝く立派なリングが出現し、それがやがて大きな環となっていく。
そして痺れを切らしたレヴィアタンが再び口を大きく開けると、黒い光が再び集まり始める。またあの攻撃を行う気だ。待ってたよ。
「今だっ!」
「【呪術円環】」
サターンが放った大きなリングはさっきのようにレヴィアタンの体を締めつけることはなく、その大きな口につっかえ棒になるように挟まった。
「よしっ! うまくいった」
レヴィアタンは攻撃を中断し、僕は思わずガッツポーズをした。
「アース、やるなら今の内だぞ」
「うん、分かってる」
僕は勢いそのままにレヴィアタンの口の中をめがけて一直線に突っ込んだ。
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