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第78話「無能力者、海の怪物と戦う」

 マーキュリーによる地震感知は僕らの想像さえ超えていた。


 早速1階まで行き、プラネテスのメンバーたちを全員集合すると、ここから北にあるカイパーベルト海岸まで転移する。


「どいてえええぇぇぇ!」

「ええっ! ――痛っ!」


 転移した瞬間、逃げ惑う街の人々の内の1人と正面から勢いよく体と体がぶつかった。僕が相手から覆いかぶせられ、そのまま後ろ倒しになってしまう。


 どうやら人々の逃走ルートに転移してしまったらしい。


 相手は顔から黒い髭を生やしており、ボロボロの服を着た中年男性だった。


「あいたたたた。大丈夫ですか?」

「ああ、済まない。俺は大丈夫だけど大丈夫じゃねえ」

「どっちですか?」

「でっかいドラゴンが現れたんだよ。今まで見たこともねえやつだ」

「でっかいドラゴン?」

「そうだ。お前らも食われない内にさっさと逃げろ。じゃあな」


 中年男性はそう言い残すと、そそくさに立ち去ってしまった。


 追いかけっこをする子供よりもずっと必至だ。それだけ未知のモンスターに対する恐怖が大きいのだということがすぐに分かった。


 ――ん? 見たこともないモンスター? まさかっ!


「マーキュリー、もしかして」


 マーキュリーは真っ直ぐ僕の目を見つめると、コクッと首を縦に振った。


「間違いない。恐らくは太古のモンスター」

「「「「「!」」」」」


 海の方角から大きく獰猛な咆哮が響いた。ネプチューン王国軍やウラヌス共和国軍の戦艦よりも何倍もの大きさを誇る巨大なドラゴンが現れた。


 それはまるで巨大な海蛇のようで、腕も足もない漆黒に染まった胴体はかなり太く長かった。顔はドラゴンそのもので、彫りの深い顔に鋭い目や数多くの猛者を噛みちぎってきたであろう無数の鋭利な牙。このあまりの迫力に僕らは口をあんぐりと開けたまま、その大きな頭に目を通していた。


「なっ……何なのあれ」

「あれはレヴィアタン。太古のモンスターの中でも最強を誇るモンスターの1体。海の支配者とも呼ばれている」


 マーキュリーが言うには、体には全体に強固な鎧を思わせる鱗があり、この鱗であらゆる攻撃を跳ね返してしまう。性格は凶暴そのもので冷酷無情。この海の怪物は古代の海においては最強の名を欲しいままにし、ギラギラと光る目で獲物を探しながら海面を泳いでいた。


 僕は地面に顔を向けて考えた。何故あれほどのモンスターが今現れたのかを。


 レヴィアタンが復活したということは、またしても帝国が太古のモンスターを復活させたということだ。


 ――待てよ。確かミノタウロスを倒して以来、僕らは古代のモンスターを見ていない。


 それにあれだけの大きさならすぐにでもここを制圧できたはず。なのに何故復活させなかったのだろうか。


 いや、復活させなかったんじゃなく、復活させられなかったのだとしたら――。


 あの海戦の後で誰かがレヴィアタンを復活させた。そしてそれ以前にレヴィアタンを復活させることができた者が帝国内にいなかったと考えれば説明がつく。


 まさか――いや……そんなこと、あるはずがない。


「みんなっ! あれを見てっ!」

「「「「「!」」」」」


 マーズの注意喚起で再びレヴィアタンの姿を見た。


 その大きな海蛇の大きな体はそばにあったいくつかの戦艦に対して大波と共に飛びかかり、そのまま紙で作られた手の平サイズの家を腕で押し潰すように、いくつかの戦艦をあっという間に轟沈させてしまった。


 沈没した戦艦数隻は大きな爆発を起こし、そのまま海の藻屑と化した。


 だがレヴィアタンには傷1つなく、平然とした顔で次の戦艦を虎視眈々と狙っている。


 僕はそれを阻止しようと大きな翼を生やし、ぬかるんだ地面を蹴って上空へと飛んだ。レヴィアタンがそばにある戦艦部隊へと近づいたところを見計らって倒そうと右肘から先をガイアソラスへと変えた。


「――!」


 しかし、突然無数の光り輝く黄金のリングがレヴィアタンの頭から通り、そのままレヴィアタンの動きを止めてしまった。


 とても動きにくそうに雄叫びを上げ、リングに強く締めつけられている。まるで結界が生きているかのようだ。


「お前、その翼は?」


 背後から澄んだ声で尋ねられた。振り返ってみれば、そこには背中から立派な悪魔の翼を生やしたサターンの姿があった。以前見た時とは違い、全身が濃い紫の衣装に包まれ、頭からは2本の角が生えている。


 その姿はまさに悪魔と呼ぶに相応しく、悪魔は人間、ヴァンパイア、エルフ、ドワーフ、ゴブリンなどと同様に言葉を話せる高等知的生物であることが確認されている。


 そんな彼女が翼や角を生やして空を飛んでいるということは、戦闘態勢に入った証である。


 こうしていざ本物の悪魔であるサターンに見つめられると、何だかとんでもない相手を敵に回したみたいでちょっと緊張するなぁ~。近づくだけで音が出るくらいに肌がピリピリする。


「えっと、これはフレースヴェルグから吸収した能力の1つで、飛行しているだけです」

「吸収だと。まさかお前、【吸収(ドレイン)】が使えるのか?」

「は、はい。これも回復魔法の一種ですから。サターンさん、あのリングは一体何なんですか?」

「サターンでいい。あれは【呪術円環(カース・オブ・リング)】。あの環にかかった者は動きを封じられ、魔力も使えなくなる。だが奴は怪力だ。あのリングなどすぐに壊すだろう。ただの時間稼ぎにしか使えん。アース、私に協力しろ」

「分かりました。でも1つだけ条件があります」

「条件だと。お前は一体何を考えている?」

「ジュピターとちゃんと話し合ってください」

「! ――ジュピターに何を吹き込まれた?」


 ジュピターの名を聞いた瞬間、サターンが血相を変えて僕を睨みつけた。


 それほどまでに彼女を憎んでいることが肌感覚で伝わってくる。因縁があるのは確かだが、それは大きな誤解であると僕の勘が教えてる。ジュピターが悪い奴でないことくらい分かる。それが分かってるからこそ話し合ってほしいと心から願っているのだ。


 あの目は撥ねつける気満々だ。


「あなた方のことはよく分かりません。でもジュピターはとても良いエルフです。話だけでも聞いてあげてください。お願いします」

「……」


 こうして頭を下げている間にも、レヴィアタンにかかったリングの封印がとけていく。

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