第76話「無能力者、パーティ全員から告白される」
だったらみんなの想いを僕が受け止めよう。
その後のことは戦いが終わってから考えればいい。
みんなの気持ちにはずっと感づいてはいた。でもそれを確かめるタイミングがなかった。ここんとこずっと戦い続きで、そんなことを考える余裕さえなかった。ここまで仲間たちとの関係性を考える機会がなかったパーティも珍しいと思う。
それが今――ルーナのお陰で変わりつつあった。
「アース、私もあんたが好きなの。ずっと前から」
「あたしもアースが好き。だからあたしとの交際も考えてほしいな」
「アタシもアースが大好きだぞ」
「あの……私もアースが好き……かもしれない」
ジュピターがもじもじとしながら恥ずかしそうに答えた。
本心かどうかは不明だが、今言わなければ手遅れになると表情が物語っている。
「好きかもしれないって、ハッキリしなさいよー」
「ごめん。アースは凄く可愛いし、タイプかって言われると別にそうでもないけど、凄く誠実で優しくて強い子だし、お見合い結婚をする分にはこれほど十分な相手もいないと思う。だから私もアースの結婚相手に立候補するわ」
「お見合い相手ねぇ~」
「べっ、別にいいでしょ!」
そっぽを向いて誤魔化そうと目をキョロキョロとさせた。
そして真っ先に目に入ったマーキュリーの姿に注目すると、ジュピターはヴィーナスの矛先から逃れるために彼女に近づいた。
すると、それに誘われるようにヴィーナスの視線もマーキュリーの透き通ったような水色の髪に両腕を組みながら注目する。
「ねえ、マーキュリーはどうなのよ?」
ヴィーナスがソファーに座っているマーキュリーの首をアームロックするように絡みついた。なんかこれだけでも凄く仲良さそうに見えるのは気のせいだろうか。
「私に恋愛感情はない」
「まーたまたー。アースがどれほどあたしたちに貢献してきたか知ってるでしょー」
「知ってる。アースがいなければここに辿り着くまでに全滅していた確率は98.6%もあった」
「ふふっ、そこまで分かるのに好きじゃないの?」
「少なくとも、このパーティに必要不可欠だと思えるくらいには好き。でもそれはあくまでも仲間としての好き……ただ、嫌いではないことは確か」
「マーキュリーって結構機械的だけどさ、こういう時はちょっと人間味のある言葉になるのね」
マーキュリーの首を絞めつけるヴィーナスの腕がさらに強く絡んだ。だが一向にマーキュリーの表情は無表情のまま変わらない。
本人はノリのつもりだろうが、マーキュリーからすれば多分面倒だろうな。
「まあまあ、無理矢理聞き出すのはどうかと思うよ。その辺にしてあげたら?」
「はーい。まっ、本当の気持ちが分かったら教えてよ」
「……」
ヴィーナスが離れ、腕が届かないくらいの距離から声をかけた。
それを聞いたマーキュリーはよく見ないと分からないくらいにピクッと小さく顔を顰めた。アンドロイドでもこいつうぜえって思うことがあるんだろうか。
「ではマーキュリーさん以外は全員アースさんが好きということでいいですね。アースさん、わたくしたちとのおつき合い、どうか真剣に検討してください。お願いします」
ルーナが柄にもなく丁寧に深々と頭を下げた。
「わっ! 分かった! 分かったからっ! 頭を下げるのはやめてよ。仮にも大公令嬢に頭を下げさせるなんてとんでもないよ」
「何を言っているのですか。誰かに誠意を持ってお願いをするのに身分は関係ありません。それだけ真剣であることを分かっていただきたいのです」
僕の至近距離にまで近づき、胸に手を当てながら演説のような主張を繰り広げた。
さすがは大公令嬢なだけあって説明の仕方や物腰の柔らかさにまで気品がある。そんな彼女を見ると自分なんかでいいのだろうかと心底考え込んでしまう。
みんなからこんなに愛されてるなんて知らなかった。でもちゃんと告白してくれた相手には敬意を持って返事をしないと僕の気が済まない。
「……みんなの気持ちはよく分かった。でも結婚は無理だ」
「「「「「!」」」」」
ルーナたちが知っていたよと言わんばかりに目を背け、憂鬱な表情へと変わった。この言葉には本当の気持ちを伝えなかったマーキュリーでさえ、腕に動揺が走っている。
慌てて震える腕を抑えようとお互いにもう片方の手を押さえつけようとする。
「アースさんには考える時間が必要ですものね」
「うん……だから、待っていてほしい」
僕がそう言った途端、ルーナたちが一斉にシュンと表情を落ち込ませる。
「ねえ、アタシともキスしてよ」
「えっ……どうして?」
「だってルーナだけずるいじゃん!」
ネプチューンが頬を膨らませながら不満を口にする。
マーズたちは黙っている。本当は彼女たちもそういいたいのかもしれない。でも遠慮しているのは王族や貴族が先だという意識からだろう。
「分かったよ。じゃあ、みんな後ろを向いて」
「ふふっ、分かったわ」
僕とネプチューンが対面するように立ち、段々と距離が縮んでいく。ルーナたちは後ろを向いて僕らを心で見守ることに。
一緒に目を瞑ると、そのままネプチューンと唇を重ねた。少しでもキスがしやすいように彼女の頭を両手で掴んだ。ネプチューンは気持よさそうに僕に甘えてくる。彼女の両手は僕の腰を掴んだまま離さない――。
「はいストップ。お触りはそこまで」
「ちぇっ。もっとアースを感じたかったのになー」
さっきと同じくらいのキスを交わしたところでマーズに引き離された。ルーナたちがネプチューンを睨みつけ、嫉妬の炎に燃えた目を容赦なく向けている。
どうやら彼女たちの中には僕を独占してはならないという暗黙の不文律が存在するらしい。よく分からないし面倒だけど、僕も従わなくてはならないことだけ分かった。
「アース、ちょっと来て」
マーキュリーに呼び出され、一緒に2階まで赴いた。
さっきのことで動揺していることは、いつもとは様子の違う後ろ姿を見れば分かる。もしかして彼女も僕にキスがしたいとか?
いやいや、仮にも彼女はアンドロイドだ。そんなこと……あるはずがない。法を破って逃げ果せた者には寛容でも、慣習を破れば爪弾きにされる。
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