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第7話「無能力者、令嬢の護衛になる」

 僕らはルーナ様を連れてギルドカフェへと避難した。


 外にいる人々は僕を追いかけようとするが、騒ぎを聞いて駆けつけた警察たちになだめられ、ルーナ様の執事も僕らの後を追ってくる。


 青い制服に白いレイピアと拳銃を持ち、いついかなる時もその厳格な対応を緩めることのない彼らは時に暴力的であるため、警察というよりは治安部隊としての色が強く、住民たちにとっては体が反射的に震え上がるほどの存在である。


 皮肉にも今回はその点が有利に活きる結果となった。


 しかしながら、現場を目撃した住民たちの噂は留まることを知らず、人々の絶え間ない噂により、僕の名前が何日もかけて全世界へと轟くこととなった。


「どうにか収まったようですね」

「お嬢様、お体は大丈夫でございますか?」


 丸い眼鏡をかけた白髪の執事らしき男性が心配そうに尋ねた。


「見ての通り、もう大丈夫です」

「ご無事で何よりです。アース殿、わたくしはルーナ様専属執事のアポロ・ハドリーという者です。以後、お見知りおきを」


 アポロさんが頭を下げながら自己紹介をする。僕も一応会釈を返した。


「先ほどはお嬢様を助けていただき、誠に感謝いたします」

「いえいえ、当然のことをしただけですから」

「アポロ、早速で悪いのですが、刃物の行方と犯人の追跡をお願いします。それと、王城へ赴くのも遅れると伝えてください」

「かしこまりました。アース殿、もしよろしければ、お嬢様の護衛をお頼みしてもよろしいでしょうか?」

「はい、別に構いませんけど」

「ありがとうございます。では後ほど」


 そう言い残すと、アポロさんは血で濡れた服のまま慌ててギルドカフェを出た。


 マーズたちもルーナ様と自己紹介を済ませた。興味本位ではあったが、何故あんなことがあったのか事情を尋ねることに。


 ただの通り魔であればそれまでだが、何やら彼女には命を狙われるほどの事情を抱えているように感じたのだ。


「ルーナ様、先ほどは王城へ赴くと仰られていましたが、早く行かれなくてもよろしいのですか?」

「アースさん、もっと気軽にルーナと呼んでください」

「えっ、でも貴族の方にそんなこと」

「どうかお願いします」


 ルーナ様が丁寧に頭を下げて懇願する。


「わっ、分かりましたっ! ……ル、ルーナ」


 慌てて彼女の要求を受け入れた。名前で呼ぶのって、こんなに恥ずかしいんだ。でも貴族の人に頭を下げさせるのはさすがにまずいからね。


「はい、アースさん。皆さんも気軽に接してくれて構いませんからね」

「アースって、ルーナを呼ぶ時だけ緊張してるよね」

「あたしたちを呼ぶ時は平気なくせに」

「?」


 マーズとヴィーナスがムスッとした顔で僕を見つめている。


 僕はきょとんとしながら首を傾げた。


 何故こんなにも不機嫌そうな顔をしているのだろうか。マーキュリーは全く気にせず本を黙読している。どこまでもマイペースだな。


「ところで、ルーナはどうしてここまで来たのですか?」

「わたくしは『ムーン大公国』から助けを求めに来たのです」

「ムーン大公国?」

「はい。プルート帝国から少し離れた島国で、わたくしは大公の娘です」

「大公令嬢さんがどうしてネプチューン王国まで来たの?」

「実は少し前からムーン大公国がプルート帝国の侵略を受けているのです」

「し、侵略っ!?」

「はい。わたくしはそれを阻止するべく、ネプチューン王国に援軍を要請しに来たのです」

「でもプルート帝国って、確か衰退している国家じゃないの?」

「一般的にはそう言われています。しかし、ある時に良からぬ噂を耳にしたのです。それが、新兵器の開発を企んでいるという噂なのです」


 ルーナがこの世の終わりがやってきたような顔で言った。


 その表情は冷静さを保っていたが、内心では心臓が飛び出しそうなほどの焦りを感じているのが手に取るように理解できた。


 ムーン大公国は助けを求めている。それがどれほど重要なものであるかを証明するべく、僅かな親衛隊を率いてここまでやってきたものの、王都トリトンに着いたところで何者かに刺され、危うく殺害されるところだったという。


 彼女を守っていた親衛隊の兵士たちは既に全滅しており、警察と共にやってきた鑑識によって全員が運ばれていった。そのすぐそばではアポロさんが警察の事情聴取を受けている。


「事情は分かりました。そういうことなら喜んで護衛しますよ」

「ありがとうございます。報酬は後で必ずお支払いしますね」

「ねえ、その報酬ってどれくらい貰えるの?」


 目が金貨になっているヴィーナスが食いつくようにルーナに尋ねた。


 すると、ルーナが少しばかり目線を上に向けながら人差し指を顎に当てた。


「そうですねぇ――では1人10万ステラでどうでしょうか?」

「「「10万ステラっ!?」」」


 僕、マーズ、ヴィーナスが飛び上がるように唖然とした顔で耳を疑った。


 10万ステラもあれば家を買ってもまだお釣りが出る。あわよくばこのまま貧乏生活からもおさらばできる――あっ、でもまずは仲間たちの許可を得ないと。


「はい。アースさんは命の恩人なんですから、それくらい払わせてください」

「僕は別に構いませんけど、皆さんは一緒に来てくれますか?」

「もちろんよ。10万ステラもあれば当分生活には困らないし」

「あたしも賛成。ちょうど暇だし、同行くらいどうってことないよ」

「ワタシもそれでいい」

「「聞いてたんかいっ!」」


 マーズとヴィーナスが咄嗟にマーキュリーにツッコミを入れた。


 話がまとまり、僕らはギルドカフェを後にした。ルーナは腹部の傷がすっかり治っていたが、服の傷や血の痕はそのままであり、ルーナは血の痕を恥ずかしそうに手で隠している。


「ねえアース、ルーナの服の傷と血の痕だけど、どうにかならない?」

「分かりました。やってみます」


 僕は彼女の血の痕に手をかざし、【浄化(クリーン)】と強く願った。


 すると、見る見るうちに彼女の服についた血の痕が消えた。今度は【修復(リペーア)】と強く願い、服の傷までもが完全に修復されていく――これがガイアソラスの魔力か。


「あぁ~、凄い。凄いですっ!」


 ルーナは嬉しそうに目を輝かせながら子供のようにはしゃいでいた。

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