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第67話「無能力者、王族を仲間にする」

 僕は身代わり君を近くの物陰に隠れさせてから魔力を切断した。


 これ以上泣き叫び続けるケレスを見ていられなかった。


 ウルヴァラ家で教わったことはきっと忘れないだろう。


 何食わぬ顔で再び仲間たちの元へ戻ると、そこには1人のジャケットを着た住民が走り疲れた様子で佇んでいる。住民はとても慌てているようで、既にルーナたちに事情を説明した後のようだ。ルーナたちもゾッとした顔のまま石のように沈黙を守っている。


「どうしたの?」

「アースさん、ネプチューン王国の艦隊がこちらに向かっているそうなのです」

「ええっ!?」

「まあ、そういう反応になるよね」

「分かった。じゃあ早速行ってくるよ。考えたくはないけど、侵略の可能性もある」


 そう言いながらルーナたちの顔色を窺うと、みんな頭を縦に振り、いつでも出動できると返事をしてくれた。


 話は決まりだ。住民を帰らせ、カイパーベルトの海岸まで転移すると、そこには僕らとは比べ物にならないほどの大きさを誇るネプチューン王国の艦隊がズラリといくつも並んでいる。


「あっ、アースだ。おーい!」


 1隻の戦艦に乗っているネプチューンが声をかけてくる。


「ねえ、あの子誰?」

「彼女はネプチューン。ネプチューン王国の皇女で、今の国王陛下の孫だよ」


 すると、待ちきれないのかネプチューンが僕の元へと飛び降りてくる。


 とても重病人だったとは思えないほどの元気さと軽やかな身のこなしだ。恐らくこの子は王城に留まるような身ではない。自ら様々な物事に触れて成長していくタイプだ。


 ここにもいたよ。後継者でありながら後継者には向かない子がね。


「よっと。アース、久しぶりだな」

「久しぶり。元気そうで何よりだよ」

「アースが病気を治してくれたおかげで、今じゃこんなに動けるよー! あははっ! なあ、アース、アタシと結婚してくれないか?」

「「「「「ええっ!?」」」」」


 伸び伸びと飛び跳ねて見せたかと思えば、突然の言葉に僕らは驚愕した。


 そういやそんな約束したような……してないような……でも条件付きだったはず。


「えっと……僕は貴族じゃないんだけど……」

「ふふん。それも対策済みだ。アース、ネプチューン王国から正式にお前に対して貴族の称号を贈ることが決定した」

「「「「「貴族っ!」」」」」

「ちょっ、ちょっと待って! どうしてアースが貴族に昇格なの!?」

「おじい様が大公と話し合って、この度ネプチューン王国とムーン大公国は同盟を結ぶことになったわけだ。それに共通の敵であるプルート帝国の大艦隊と戦って勝ったそうじゃないか。さすがはアタシが婿に選んだだけのことはある」


 両手を腰に添えながら自信満々の笑みを浮かべて言った。


 これが本来の彼女の性格だ。僕には分かる。病気の時の弱々しく謙虚なところが第一印象なだけあって物凄いギャップだがこれはこれで可愛い。


「あはは……気持ちは嬉しいけど、今はちょっと……」

「! ……アタシじゃ駄目なのか?」

「いや、そういう問題じゃなくて、僕には伴侶となる相手と一緒に過ごすだけの覚悟もないし、そんなに立派な人間じゃない。所帯を持つんだったら、もっと立派な大人になってからじゃないと――」

「……アタシに人を見る目がないって言いたいのか?」


 ネプチューンが若干不機嫌そうに目元を顰めた。


 しかも若干涙目だ。ちょっとまずいことしちゃったかな。


「そうじゃないよ。結婚するなら、せめて伴侶となる人に安心感を与えられるくらいに強くならないといけないと思うし、そう易々と決めていいものじゃないと思う。それにお互いのこともあまりよく知らない。もっと吟味する時間が欲しいんだよ。それに僕、国王になる気ないし」

「アタシはアースと一緒にいるだけで安心を感じるよ。それにアタシと結婚したからといって国王になる必要はないよ」

「どうして?」

「だってアタシ、王位継承権を放棄したもん」

「「「「「放棄したぁ!?」」」」」

「うん。だってアタシがいたらナイアドお兄様に反発する大臣たちがアタシを担いで後継者争いになりかねないもん。ナイアドお兄様に迷惑はかけたくないから」


 目線を下に落とし、呟くくらいの小さな声で言った。


 王族なだけあって様々な事情を抱えていそうだ。


 後継者争いと言えば、ニクス、ステュクス、プルートの三姉妹の間でも行わていたはず。プルートと話した限りでは、王位継承の意思は感じられなかった。だったらどうして僕らを裏切って帰国したんだ?


 未だに信じられない。でもプルートはサインを出していた。


 故に今でも彼女を信じたいと願っている自分がいる。


「だからアタシ、今では王位継承権のないただの王族ってわけだ。だから貴族になった者との結婚なら認められているってわけだ。でもアースには時間が必要なんだよな?」

「うん。でも別に嫌ってるわけじゃないからね」

「――分かった。じゃあアタシもプラネテスに入るっ!」

「えっ、プラネテスに入るって……冒険者は遊びじゃないんだよ。怪我をする可能性もあるし。それにみんなの承認がないと入れないよ」

「私は別に問題ないよ」

「あたしも。彼女結構良識ある子みたいだし」

「わたくしも異論はありません」

「私も歓迎よ。それにネプチューン王国と同盟を結ぶんだから、それくらいは認めてあげないと、今後の両国の関係にも影響が出るわよ」

「決まりだな。それに怪我をする可能性があるとは言っても、アースが治してくれるんだろ?」

「それはそうだけど……」


 この子、さすがは王族なだけあって肝が据わってるなー。


 何者をも恐れないこの度胸、プルートに通じるものがある。国を動かす側として、幼少期から複雑な世の理を目の当たりにしてきた人たちだからこそ、心に余裕を持つことができるのかもしれない。


 お調子者だが、それなりの品格も兼ね備えているし、姿勢も奇麗だ。


「アース、アタシの顔になんかついてるか?」

「あっ、いや、凄く姿勢も良いし、とても綺麗だなって思って」

「! ……当然だろ。アタシは王族として高等な教育を受けてきた。それにアタシ専用の武器も持っているし、既におじい様にパーティに加入する許可も貰っている……それでも駄目か?」


 目に涙を浮かべ、訴えるようにウルウルとした瞳で僕を見つめてくる。


 弱ったなぁ……外堀は全部埋められちゃったし、もう認めるしかないか。


「分かった。ネプチューン、プラネテスへようこそ」

「……ああ、これからよろしくな」


 ネプチューンが両手で僕の首を掴み、目を瞑りながら僕の頬にキスをした。

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