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第51話「無能力者、幼馴染の覚悟を知る」

 プルートが言うことはもっともだった。今のプラネテスは欠陥だらけだ。


 僕は一足先に家の中へ戻り、外にいるルーナたちを見ながら心の中で呟いた。


 隣にいるプルートは今やマーキュリーに次ぐ参謀だ。僕を攻撃担当(アタッカー)に置くべきかどうかは別にして、ガイアソラスの力を最大限に引き出せていないのは確かだ。今のところは全てガイアソラスの力によって吸収した能力を活かすばかりで、剣の方はなおざりだ。


 彼女がそんな僕を見て剣を使いこなしていないことを見抜くのは想像に難くない。


「アース、本気で父上と戦うつもりなら、せめてパーティ構成くらい最適なものにしておかなければ到底勝ち目はない。相手は人を殺すように鍛え上げられた軍だ。しかも次に戦う時には雑兵ではなく精鋭部隊を送ってくるだろう」

「それってもしかして、アステロイド部隊とか」

「! お前、それをどこで知った?」


 プルートの目の色が変わった。さっきまでとは違う顔つきだ。冷静に僕を見ていたその瞳は心臓を撃ち抜かれたように大きく見開かれ、嫌な汗が額から出ており、思っていた以上に事態が深刻であることを僕に訴えかけている。


 いつもより僕との距離も近い。早く答えろと眼光が叫んでいる。


 以前とはまるで立場が逆だ。つい笑ってしまいそうになるのを抑え、僕は口を開いた。


「ケレスの家に転移した時にたまたま聞いた」

「アステロイド部隊まで再び結成されるか。厄介なことになりそうだ」

「そのアステロイド部隊って、一体何なの?」

「かつてウルヴァラ家が結成していたパーティが軍として編制されたものだ。ケレスは5年ほど前にアステロイドという屈強なパーティを結成し、ケレス自身はそこのリーダーとして活躍していた。パーティメンバーはたったの5人だったが、5人で一個師団の価値があると父上に言わしめた。その活躍が認められて彼女は将軍に昇格し、アステロイドはパーティから軍に取り込まれた」

「――そういえば、ケレスは何人か男女を連れて家に帰ってきたことがあったような」

「ロクな連中じゃなかっただろう」

「うん……まるで人の心がなかった……!」


 パーティが軍の中に取り込まれるということは、相当な戦力を誇るということだ。


 5人で一個師団か。そんな連中が敵側にいるなんて恐怖でしかない。


 そんな話をしていた矢先、プルート帝国に置いていた身代わり君がケレスの家でとんでもないものを目撃してしまった。


「アース、どうした?」

「プルート、話はまた後で。ちょっと休んでくる」

「……?」


 僕は自室へ戻った。ウルヴァラ家に侵入した身代わり君はケレスとエリスの他、アステロイド部隊と呼ばれる人たちが集まっていた。


 確かエリスもよく一緒に来ていた。彼女もこの部隊の仲間だったんだ。


 ケレスとエリスの他に3人のメンバーの姿が見えた。恐らくあれで全部だ。


 1人目はヴェスタ・ヘルクリーナ。ケレスとは特に仲の良い紫色の短髪の女性だ。いつも僕に近寄ってきてはストレスの禿げ口のように嫌味を言うばかりだった。スタイルも良く胸も大きい。ケレスやエリスとは対照的だ。


 2人目はジュノー・インテラムニア。小柄で肩につくくらいの濃い緑色の男性だ。軽い身のこなしで敵を翻弄する偵察役。あからさまに僕を見下していた。


 3人目はアポフィス・アスクレピオス。赤黒い刈り上げの短髪、大柄で筋肉質なヤンキー男だ。とてもオラオラしていて感じが悪く、いつも僕に嫌がらせをしていた。


 とても評判が良かったとは言えない。少なくとも僕の中では――。


「おい、将軍から将校に降格させられたってマジかよ」


 アポフィスがガラの悪い声でケレスに馴れ馴れしく尋ねた。


「アポフィス、言葉に気をつけなさい。ケレス様は貴族なのですよ」

「貴族っつってもあんたの親父は元々平民で、お前自身の成果じゃねえだろ」

「あなた、つまみ出されたいのですか? ――ケレス様」


 エリスがアポフィスに詰め寄ろうとした時、ケレスから横に伸びた手がそれを阻んだ。


「本当のことだ。仕方がない。私が降格処分を受けたのは本当だ。今日お前たちを呼んだ理由は他でもない。これから作戦通りに行動してもらいたい。1週間後にムーン大公国の首都エクリプスを帝国軍で攻め落とす。我らはその先鋒としてカイパーベルトを占領する」


 ――嘘だ……あのケレスが……本気でここを攻め落とそうとしている。


 僕は頭の中が真っ白になった。耳がこれ以上彼女たちの言葉を受け入れることを拒否している。あれだけ仲が良かった幼馴染と戦わないといけないなんて。しかも今度は戦場で本気の殺し合い。何という残酷な運命だ。


 これ以上は何も考えたくない。彼女らが先鋒で攻めてくることは分かった。


 タイムリミットはあと1週間、それまでにブラン宰相を説得しなければ。


「アースさん、アースさんっ!」


 誰かが僕を呼んでいる。それに少し体も揺さぶられている。


「……ハッ! あれっ、ケレスたちは?」


 目を開いてみれば、僕の視界に真っ先に入ってきたのはルーナたちだった。


 どうやら僕が心配になってここまで来てくれたらしい。


「はぁ? 何寝ぼけたこと言ってんのよ。ご飯ができたから呼んできたってのに」

「あぁ~、そうだったんだ。ごめんね、心配かけて」

「アースは身代わりと感覚を一体化させていた。視覚と聴覚を共有し、ウルヴァラ家に潜入させてみたものを自らが見た記憶として認識している」

「確かあたしが身代わり君をスパイに置いたらって話だよね。ホントにやってくれてたんだ」

「ウルヴァラ家に潜入させてみて、何か分かったの?」

「……1週間後、ここに攻めてくる」

「「「「「……」」」」」


 さっきまでのざわつきが一気に収まった。実に分かりやすい反応だ。


 無理もない。僕らは受け取りたくもない挑戦状を突きつけられたのだから。


 今軍備増強を図らなければ殺戮の嵐だ。ケレスはこの作戦に人生の全てを懸けてくる。もう失敗は許されない立場だ。ルーナを取り逃がしただけでなく、今度はプルートまで置いてきてしまった。何の迷いもなく突っ込んでくるだろう。それだけはハッキリと分かっていた。


 味方の無礼な振る舞いさえ咎める余裕がなかった。きっとプルートがこちら側についたと知れば容赦なく彼女をも襲うはずだ。


 もう帝国側を止められる者はいなくなった。


 僕らを安心させていた平和が……ピリオドを打とうとしている。

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読んでいただきありがとうございます。

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