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第5話「無能力者、魔剣と融合する」

 早くも仲間の1人を失いかけている僕らは悲しみに包まれていた。


 ポーションがなくなった今、彼女を治療するにはトリトンまで戻るしかないが、そうこうしている内にマーズが目に見える形で衰弱していく。ここからマーズの体をおぶって急いで戻ってもとても間に合わない。


 僕は服が汚れるのも構わず仰向けで横たわっているマーズを抱きかかえ、涙を流しながら弱っていく彼女と痛みを共有するように心を痛めた。


 顔からこぼれた水滴がマーズの顔に落ちた。


「マーズ……ごめんなさい。僕が油断していたばっかりに」

「いいのよ。あなたは戦闘経験のない雑用なんだから、あんたを守れなかった私が悪いの」


 仏のような表情のマーズがとても小さなかすれ声で言った。


「くそっ! ライカンスロープの爪には猛毒が入っている。とても助けられる状況じゃない」

「あと5分で全身に猛毒が回る。残念だけど……」

「そんな……僕のせいで」


 嫌だ。こんな所で死なせたくない。何でもいい、彼女を回復させたい。


 ――神様、どうかマーズを助けてください。代わりに僕の命を差し出します。ですからどうか……どうか彼女の命をお救いください。


 僕は体を震わせ、涙と血で濡れていくマーズの体を抱きしめながら天に祈りを捧げた。


 すると、その願いを聞き入れたと言わんばかりに【光魔剣(こうまけん)ガイアソラス】が天に届くほどの青く眩い光を全方向へと放った。


「「「!」」」


 僕は剣に引っ張られ、マーズから離れた。剣が僕の腰から逃げるように離れ鞘ごと宙に浮くと、生まれる直前の卵のように花柄の鞘から罅がピキピキと割れていき、鞘全体が細かく罅割れると、小刻みに震えながら一気にパキィーンと粉々に砕け散った。


 その中から常に青く一筋の光を放っているガイアソラスが浮いたまま現れ、剣が丸く青い光へと変わっていく。青い光は僕の中へと入り込み、さっきまで傷んでいた僕の体と服装が見る見るうちに治っていく。


「――これはっ!」

「いっ、一体何が起きているの?」

「魔導書で読んだことがある。世界のどこかに、人の強い祈りに反応し、自らの魔力に見合った器の持ち主を選ぶ伝説の剣が存在すると」

「えっ、それってどういう……」

「私には分かる。彼は剣に選ばれた」


 体の内側からしばらくの間光りを放っていた僕は、光が収まると同時に全身を念入りに確認する。何が起きたのか全く分からない。


 1つだけ分かっているのは――体の内側から湧き出るガイアソラスの魔力を感じるということだけ。


 今ここに、僕と剣は融合し、一心同体となった。


 体から抑えきれないほどの魔力が湧き出ていることが分かった僕は、すぐさま倒れているマーズのもとへ駆け寄り、右手を彼女にかざした。


 心の中で祈るように【回復(ヒール)】と強く願った。


 すると、青い光がマーズの体を包み込んだ。ライカンスロープの猛毒が取り除かれ、全身についた傷が塞がっていき、彼女は傷1つない健康な体を取り戻した。


「――ん? ここは……天国?」

「マーズっ! ……生きててよかったっ!」

「! ……アース」


 感極まった僕はマーズの体を強く抱きしめた。


 危うく大切な仲間を失うところだった。もうあんな思いは二度と御免だ。マケマケ村と同じ悲劇はもう繰り返したくないっ!


 僕とマーズの後ろではヴィーナスが微笑みを浮かべており、マーキュリーは終始無表情のまま冷静さを保っていた。


「あれっ、2人ともどうしたの? もしかして私の後を追ってきたのっ!?」

「マーズ、ここは天国じゃないわよ。アースに感謝するのね」

「えっ?」

「アースが瀕死のマーズを回復魔法で治した」

「ええっ!? アースって回復魔法使えたのっ!?」

「いえ、厳密に言えば、僕の力じゃなく、ガイアソラスの力です」

「ガイアソラス……! もしかして、あの剣のこと?」

「はい」


 微笑みながら涙声で答えた。こうして再びマーズと話せるのがとにかく幸せだった。


 無事に治療できたことの嬉しさよりも、再び息を吹き返してくれたことへの安堵の方がずっと大きかった。僕は仲間の命の尊さを誰よりも知っているつもりだ。


「アース、ありがとう。おかげで助かったわ」

「いえ、僕が足を引っ張らなければこんなことにはならなかったんです。皆さん、本当に申し訳ございませんでした」

「もう謝らなくてもいいよ。次からは気をつけるから」

「そうそう。アースは立派に回復担当(ヒーラー)やってたよ。本来の意味とは全然違うけどね。マーキュリー、敵の気配はある?」

「周囲にモンスターの反応なし。さっきの光で全員逃げた」

「じゃあ、倒れているライカンスロープの牙を抜きましょうか」

「そうね」

「えっ、どうしてですか?」

「どうしてって、証拠品がないとお金に換えてくれないわよ」

「あっ、そっか。あはは……」


 咄嗟に笑って誤魔化した。恥ずかしい。でも討伐は初めてだから仕方ないか。


 僕らはライカンスロープの大きな牙を1匹につき2本回収した。牙2本で1匹倒したと見なされるのだが、これは余分に切り取った大きな牙で報酬を余分に渡してしまわないためであるという。こういうところはしっかりしてるんだな。


 来た道を戻り、ガラテアの森を抜けた。


 そこから平原を通り王都トリトンへ戻ると、体を休めるべくギルドカフェへと赴いた。合計14匹のライカンスロープから回収した28本の大きな牙を渡すと、目の前に1枚の金貨と4枚の銀貨が置かれた。


 ステラコインの価値は『1金貨=10銀貨=100銅貨』である。


 金貨の表にはドラゴン、銀貨の表にはライオン、銅貨の表にはタイガーが、それぞれの裏面には共通して王冠が描かれている。


「ではプラネテスのリーダー、アース・ガイアさん。こちらにライカンスロープ14匹討伐の報酬として140ステラをご用意しております。お確かめください」

「えっ! 僕がリーダーなんですか?」

「はい。パーティカードには確かにあなたの名前がリーダー登録されていますよ」

「そ、そうですか」


 僕は自分がパーティリーダーであることに違和感を持ちながら報酬を受け取った。


 これにてクエストは完了である。これには僕もホッと胸をなで下ろした。


 僕はパーティの一員としての務めを見事に果たしたのであった。

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読んでいただきありがとうございます。

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