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第48話「無能力者、皇帝に直談判する」

 ハデス皇帝は僕を見下ろすように見つめ、その器量を測っているようだった。


 すると、彼は自ら玉座からのっそりと立ち上がり、わざわざ僕がいる最下段まで下りてきた。その図体は中肉中背だが、たくましさや威厳すら感じられる迫力を持っていた。


 同時に傲慢さや凶悪さまでもが近づいてくるほどにじわじわと伝わってくる。しかも赤ワイン特有の鼻の奥に刺さるようなアルコール臭までぷんぷんと漂ってくる。さっきの酒の臭いはこれか。


「皇帝陛下、あなたがお飲みになられているその赤ワイン、人除けの魔法がかかってますね」

「ほう、何故分かった?」

「皇帝陛下は身内以外の者にはここへ来てほしくない。だから人除けをしつつ、身内には臭いでどの部屋であるのかが分かるようにしていたわけですね」

「思った以上に聡明だ。そなた、我が国の将軍にならぬか?」


 ハデス皇帝が誘いの言葉を僕にかけた。ネレイド国王の時と同じだ。


 回復術師としてではなく、あくまでも制服のための戦力として考えている。どうしてこうもみんな僕を破壊の道具として使いたがるんだ?


 意味が分からない。僕はそんなことのためにこの力を授かったんじゃない。


 僕がこの力を授かった理由、それは大切なものを守るため。力を持つ者は、力の使い道を誤ってはいけない。


「ありがたいお誘いではありますが、お断りさせていただきます。僕はあなたを説得するためにここへやって来たのですから」

「金ならいくらでも出そう。そなたであれば将軍と宰相を兼任し、この世界の全てを征服できるはずだ。そなたはそれだけの力を持っておるというのに、何故あんな国土を守るので精一杯な弱小国家の味方をするのだ?」

「それは……皆さんからたくさんの温かい気持ちを頂いたからです。僕はそれ以上の気持ちを皆さんに返すべきであると考えています。それに……いくら世界を征服したところで、みんなを不幸にするような人間であっては絶対に幸せにはなれません。あなた方のような植民地に対する支配のやり方では、離反する者が現れるのは当然です」

「貴様っ! 父上に向かって何たる無礼っ!」

「無礼ついでにもう1つ。あなたの妹君は安全な所で保護していますのでご安心を」

「……プルートは無事だったか」


 ステュクスがホッと胸をなで下ろした。だがハデス皇帝は顔色1つ変えず、目を細めて口を閉じ、僕の話を聞く姿勢のまま顔色1つ変えなかった。


 つまり、もうプルートのことはどうでもいいということか。


「なるほど、そうであるか。自己紹介が遅れたな。我が名はプルート帝国皇帝、ハデス16世。全名はハデス・ディス・パテルである。そなたには一度会いたいと思っていたところだ。して、我に何の説得をしようというのだ?」


 後ろを向きながら階段を上り、再び玉座へと腰かけた。


 どうやら歓迎する気はないらしい。当然と言えば当然か。


「単刀直入に言います。太古のモンスターを使ったムーン大公国への攻撃を今すぐ中止し、これから行う予定の侵攻も白紙に戻してください」

「! ……お前、化石のことを知っているのか?」

「はい。あなた方の計画は全てお見通しです。皇帝陛下は【蘇生禁術(ネクロマンシー)】を使える闇の魔力の持ち主を匿っておられますね?」

「何故それをっ!? ――があああああっ!」


 突然、ハデス皇帝が右腕をステュクスに向かって伸ばしたかと思えば、まるで拷問されているかのようにステュクスの全身に激痛が走り、その状態のまま空中に吊るされている。


「ステュクス、お前は少し黙っておれ。話が聞こえぬわ」


 彼が右手を下ろした瞬間、全身から力が抜けきった状態のステュクスが落下してくる。


 地面にぶつかる前に僕が彼女をその両腕にパシッと掴み、【回復(ヒール)】を唱えた。ステュクスの全身の痛みが癒え、さっきまでと同じ状態にまで回復した。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……ありがとう」


 目を逸らしながらステュクスが言った。


 服装こそ男のふりをしているが、このふわっとした感触で女性であると分かった。プルートが言っていたことは本当だったんだ。


「自分の娘に手を出すなんて、最低な父親ですよ……あなたは」

「ふんっ、子供は躾けなければ成長せんのだ。そなたも子を持てば分かる」

「あなたの子供が全員娘だとばらしますよ」

「脅しのつもりか? そんな噂を流したところでびくともせんわ。もうじき時がくれば、我らの娘たちは全員息子になるのだからな」


 一瞬、何を言っているのか全く分からなかった。


 性転換をするのかな。しかも彼女たちの意思に反して行う前提であるあたり、やはり子供のことを世継ぎの駒としてしか考えていない。


「全員息子って、どういうことですか?」

「また今度会えた時に教えてやろう。その時にはこのハウメア大陸、いや、世界の大陸を全て手中に収めた後だろうがな。グワーッハッハッハッハ!」


 ハデス皇帝はそう言いながら天井を向き大きく口を開けて高笑いだ。


 その一方でステュクスは納得がいかない顔だ。後継者争いをしていると聞いたが、本当にそうなのだろうか。


「もう帰るがよい。そなたがこちら側につかぬというなら力づくでこちら側につかせるまでだ。我はそなたが気に入った。いずれはそなたを我の配下にしてみせようぞ」

「いいでしょう。ただし、こちらがあなた方との戦いに勝った時は……こちらの要求を全てのむと約束していただきたい」

「ふふふふふっ、本気で我らに勝てるとでも?」

「必ず勝ってみせます。約束していただけますね?」

「よかろう。その賭けを行ったことを後悔するそなたの顔が目に浮かぶ。どこまで我を楽しませてくれるのかが実に楽しみだ。グワーッハッハッハッハ!」


 そう言いながら玉座の間を後にすると、僕とステュクスの2人だけが残された。


 あの自信に満ちた顔は何だ? ただのハッタリか? それとも本当に何かしらの策があるとでもいうのか?


 それにプルートたちを性転換するって、どういうことなんだ?


「皇帝陛下は何を企んでいるのですか?」

「……私にも分からん」

「あなたは男になりたいのですか?」

「それは……」


 さっきから奥歯に物が挟まったような受け答えだ。


 今は無理に聞かない方がいいだろう。どうせ答える気ないだろうし。


 さて、そろそろ帰るか。


「皇女様、プルートは必ずお返しします」

「……約束だぞ」

「はい、約束です。戦場であなたと出会わないことを祈ってます」


 僕はそう言い残すと、【転移(テレポート)】を心の中で唱え帰宅するのだった。

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