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第46話「無能力者、証拠品を盗む」

 彼女の並々ならぬ歴戦の戦士のような顔色には思わず一歩引いてしまった。


 何のためらいもなくジュピターは【木製箒(ウッドブルーム)】を召喚し、その魔力を使って帝城の中に嵐を呼び、嵐が雷雲を呼んだ。


「【爆風雷(バーストサンダー)】」


 爆風と雷が兵士たちを次々と襲い、巻き込まれた螺旋階段までもがボロボロと破壊されていき、1階へと崩れ落ちていった。


 最初の爆発音で1階の人々は既に逃げ去った後だ。螺旋階段が破壊されたことで敵は上ってくる術が飛ぶ以外になくなってしまったが、こちらからはいくらでも逃げる手段がある。


「よしっ、もう上ってこれないね」

「……凄い。敵の一個小隊を一撃で倒すなんて」

「これくらい楽勝よ。一応私、以前も冒険者だったし、これくらいしかできることないからね」

「あはは……さすがはジュピターだね」


 いやいや、十分すぎるほどの活躍だよ。最悪足止めさえしていてくれればそれで十分だったけど、正直に言えば予想以上だ。


 1人であれだけの数を相手にしてこの涼しい顔。やはりただ者じゃない。


「マーキュリー、分析は終わった?」

「【分析(アナリシス)】完了。サンプルも手に入れた」


 マーキュリーの小さな手にはいくつかの化石が握られていた。


 それを持っていたバッグに詰めると、部屋の中をこっそり覗いてみることに。


「――これ、全部太古のモンスターの化石なの?」

「厳密に言えば、これらは全て冥王代と呼ばれた生物の初期時代に栄えていたとされるモンスターばかり。でもその強力すぎる力のあまり、どのモンスターも捕食対象を食べ尽くし、やがて共食いを始めて滅びたとされている」

「全員自滅だったんだ」


 半ば呆れ顔で言ってしまった。太古のモンスターが滅びた理由って案外あっけないものだな。てっきり隕石で滅びたとばかり思っていたけど、隕石で滅びたモンスターはもっと後の時代らしい。


 それにしても、何という化石の数だ。


「これ……全部持って帰ったらいくらするかなー?」

「冥王代の化石はかなりの貴重品。全部売れば一生生活できる」

「そこ真面目に答えなくていいから」


 そんなやり取りをしている時だった。


「お前たち、今すぐ投降しろ」


 突然、ワイバーンに乗った兵士たちが次々と飛んできては着陸し、あっという間に包囲される格好となってしまった。


 ワイバーンはその獰猛な見た目や大きな体に反してドラゴンの中でも温厚で扱いやすく、移動用のファームモンスターとして広く使われている一方で空軍の主力としても用いられている。腕はなく翼だけで太い脚と水色の固い体を持っている。


「ジュピター、全部持って帰るのは諦めよう」

「えっ、じゃあどうするの?」

「この部屋を爆破する。それで化石の再利用を防げる」

「ばっ、爆発だとっ! 貴様らっ! 何を考えているっ!?」

「おっと、これ以上近づくとこの部屋を本当に爆破――」

「「「「「!」」」」」


 ジュピターが敵に足を止めようと咄嗟に脅しの言葉を伝え終える前に部屋が大きな爆音と共に爆破された。


 既にマーキュリーの【水玉爆弾(ポルカボム)】が部屋の中を覆っていたのだ。これらが全面的に爆発を起こし、残った化石がことごとく粉微塵に小石の如くポロポロと散っていった。


「そ、そんな。皇帝陛下の隠し部屋が」

「これでもう、化石からの復活は不可能」

「説明してる場合じゃないわよ」

「ジュピター、倒せないの?」

「駄目よ! 数が多すぎるし、この数を倒すにはもっと威力を強める必要があるけど、それをやったらあなたたちまで巻き込んでしまうわ」

「分かった。じゃあ逃げるよ」


 僕は帝城の硬い壁を風穴を開けるようにパンチ一発で破壊し、マーキュリーとジュピターの体を掴むとそのまま壁の穴から飛んだ。


 そして今度は翼を生やし、カロンの郊外まで飛んで逃げた。


 追手がいないことを確認してから降り立ったところで一息ついた。マーキュリーが言っていたことが本当なら、地下壕を是非とも覗いてみたい。


「「はぁ~」」


 僕とジュピターはため息を吐いた。


「助かったぁ~。アース、あんたそんなに腕っぷし強かったっけ?」

「あれはさっき吸収したミノタウロスの能力の1つ、【怪力(ハイパワー)】によって生まれた力。強力な馬力を誇り、大抵のものであれば壊したり持ち上げたりすることができる」

「じゃあもし、さっきアースが不意打ちでミノタウロスを倒していなかったら――」

「誰かがあの破壊力の前に即死していた可能性は十分にあった」

「ていうか、【迷彩(カムフラージュ)】の意味なくない?」

「魔力感知が徹底されている場所では効果が薄い。外部に影響を及ぼす魔法を使えばすぐに魔力感知によって位置を特定される。ただ、化石自体はどこでも掘れるもの。これだけで全ての証拠が集まったとはとても言えない」

「えぇ~、もう戻るの嫌なんだけど~」

「マーキュリーとジュピターは先に帰ってて。僕が残りの証拠を集める」

「アース1人で行くの?」

「うん。後は任せて」


 そう告げると、僕は【転移(テレポート)】と強く願い、魔法陣が現れた。そこにマーキュリーとジュピターが入ると、プラネテスの家を思い浮かべると、魔法陣語と2人の姿がシュパッと消えた。


 ジュピターは最後まで不満そうな顔だった。全体技の思わぬ弱点が発覚したな。


 マーキュリーはサンプルとなる化石を持ち帰ってくれた。確実な証拠がなければ平和を公約にしているブラン宰相が軍備増強を認めてくれないことは明白だった。説得するにはもっと強い証拠を持って帰らなければ。


 その想いだけが僕を突き動かしていた。当然だが敵の強さは未知数だし、1人だけでは命の危険さえある。だが生半可な覚悟ではルーナを守れない。ジュピターの言うことも正しいけど、彼らが戦う気満々であることは兵士たちの顔色を見れば分かる。


 常に戦闘モードだし、いつ戦いになってもおかしくない装備だった。


 保守派の人たちには申し訳ないけど、平和を唱えるだけじゃ何も守れない。マケマケ村だってそうだった。ずっと平和でいてほしかった――。


 何かを守るには相応の力が必要だ。良くも悪くも村の光景から得た教訓だった。今でも僕の頭の片隅に焼け崩れた村が鮮明に残ったまま離れようとしない。


 それこそ――まるで昨日のことのように覚えているのだから。

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