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第45話「無能力者、帝城に入る」

 プルート帝国帝都カロン、かつては最も栄えた大都市であったが、植民地からの過剰な搾取の反動からか飢える者が後を絶たず、平民は明日食うものにさえ飢える者が後を絶たない。


 貴族たちも比較的質素な格好で馬車に乗ってはいるが、それでも街の景観だけは保とうと建物や道路は整備されている。


「帝城ってどこにあるの?」

「あの1番高い建物」


 マーキュリーが指差した先には禍々しいくらいに迫力のある城があった。見るからに人を寄せつけようとしないデザインだが、それは城の設計者の策によるところが大きい。


 僕らは今、【迷彩(カムフラージュ)】によって気配すら悟られていない。故に通行人が気づかずにぶつかりそうになる。


「うわっ、またぶつかりかけたんだけど」

「マーキュリー、気配を消すのは城に入る直前じゃないと駄目かな?」

「駄目。何故ならこの街の人々は全て監視されているから」

「監視って、どういうこと?」

「プルート帝国には街のいたるところに帝国軍の兵士がいる。誰かが魔法を使おうものならすぐに魔力感知されて通報される」

「そんなに警戒する必要ある?」

「疑心暗鬼なんだよ……この国の人たちは」

「?」


 ジュピターが首を傾げた。彼女には理解しにくい問題だ。


 何度も植民地に離反されている内に、段々と自国民に対しても警戒の目を向けることでその名を知られてきたこの帝国だが、まさかケレスもこの影響で僕を疑うようになったのだろうか。


 歳を追うごとに彼女の顔からは余裕がなくなっていくのを感じていたが、全ての原因がこの光景だったのだとしたら――。


 仮にも大都市と呼ばれているこの街に住んでいる人がここまで貧しいということは、国自体が貧しくなっている証拠である。


「帝城の門に着いたけど、どうするの?」

「誰かが入るのを見計らって一緒に入る」

「それしかないよね。ここで魔法を使ったら魔力感知されるわけだし」


 しばらくして貴族らしき人が門番に頭を下げられながら帝城の門を通ると、そのすぐ後に僕らも貴族らしき人の後をつけた。


 無事に帝城に入れたはいいが、このままどこを調べればいいのだろうか。


 マーキュリーが周囲をキョロキョロと見渡しながら【分析(アナリシス)】を巧みに使いこなしているけど、外からの分析でも分かるのかな?


「分析するのはいいけど、それも魔法だよね?」

「【分析(アナリシス)】はただ調べるだけの魔法だから気づかれない。アースの魔法のように、外部にまで影響を及ぼす魔法では気づかれてしまう」

「あぁ~、そういうことか」

「それで? 何か分かったの?」

「この城はフェイク、本拠地はこの下にある地下壕。ただ、この城の1ヵ所にだけ興味深いものがあった。太古のモンスターの化石、あれが重大な証拠になるかもしれない」

「じゃあそれを持って帰ればいいんじゃないかな。【蘇生禁術(ネクロマンシー)】で化石からでもモンスターを復活させられることはみんな知ってるわけだし」

「ただ、あの部屋には門番がいる上、厳重に鍵をかけられている。でもアースのガイアソラスなら、それを突破できる」

「そんなことをしたら気づかれるんじゃないの?」

「気づかれた時はアースの魔法で大公国へ戻ればいい。ただ、次にここに来るのはかなり難しくなるものと思われる」

「これが最初で最後のチャンスってわけか」


 僕らは帝城の中を物音を立てないようにしながら人気のないところまで歩いた。


 帝城の中は帝国軍の兵士たちが鉄壁の如く守備を固めており、貴族たちまでもが居住していることからもここが権力の象徴的な場所であることがうかがえる。


 マーキュリーが言うには、化石は最上階付近の部屋にあるらしいが、それだけ厳重に守られているんだったら何でプルートは容易く入れたんだ?


 謎はもう1つある。皇帝以外は誰も禁術の使い手を見たことがないと言うが、そんなことはないはずだ。皇帝1人で面倒を見きれる存在じゃないし、それほど重宝されている者であれば常にそばに置くはずだ。


「「!」」


 階段を上った先には大広間と南京錠で鍵をかけられた1つの扉があり、僕らはそこで足を止めた。


 今、僕らの目の前には屈強な門番がいる。頭は牛のようで全身が筋肉質、僕らの2倍はある背丈に加えて強力な斧を持っている。


 常に獰猛な表情で息が荒く、早く殴り合いがしたいとうずうずしている様子だ。


「あれが――門番?」

「そう。あれはミノタウロス。太古のモンスターの中では陸上の接近戦においては特に強力な突進力を誇るモンスター」

「あれを突破しないと部屋には入れないわけね」

「任せて」

「えっ、どうするの?」

「あいつを一撃で倒す」


 僕の右肘から先をガイアソラスに変えると、魔力感知を受けたミノタウロスがようやくこちらに気づいた。


「マーキュリー、援護を頼む」

「了解した」


 マーキュリーが1冊の魔導書を取り出すと、そこから魔力が放出され、僕のガイアソラスに更なる魔力をもたらした。


 青白く光を放っているガイアソラスがミノタウロスに襲いかかる。


「【魔剣斬(ガイアスラッシュ)】」


 大きな爆発音が起こり、ミノタウロスの体が断末魔と共に真っ二つに割れた。その隙にマーキュリーとジュピターが扉の前まで移動する。


 下からは爆発音に気づいた帝国軍の兵士たちが螺旋階段を急いで上ってくる。


 その間に僕は【吸収(ドレイン)】によってミノタウロスの体を吸収し、ジュピターは持ってきた鉄に【加工(プロセス)】を使い、南京錠に合った鍵をその場で作り上げた。


 ガチャッという音が聞こえると、ジュピターがビンゴと言って扉を開けた。


 そのまま化石がある部屋へと入ったが、あいにく帝国軍の兵士たちがここまで迫ってきている。この2人を選んだのは正解だった。鍵の解除や位置の特定までできるため、探し物を見つけるのにはうってつけのメンバーたちだ。


 2人とも全体攻撃が使えるため、追手から逃れる術にも長けている。


「マーキュリー、化石を取ってきて。ここは何とかする」

「分かった」


 そう言いながら僕はジュピターと共に目の前の帝国軍の兵士たちと戦おうと扉に背を向け、兵士たちに向かい合った。時間は僕らが稼ごう。その覚悟が僕ら2人にはできていた。


「アース、ここは私だけで十分よ」

「もしかして……またあれをやるの?」

「ばれちゃった以上は、もう暴れる以外の選択肢はないでしょ」

「そうだね」


 ジュピターは僕の一歩前へ出た。その後ろ姿には重々しい空気が漂っていた。

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