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第42話「無能力者、闇の魔力を知る」

 数日後――。


 何やら大公国と帝国との間に動きがあったようだ。


 帝国はプルートの返還とルーナとの結婚による同盟を要求したが、大公がそれを正式に突っぱねることを表明したため、両国との間には亀裂が生まれ始めていた。


 大公国軍だけでなく、大公国を拠点とする多くのパーティの力を借り、資源の採掘と軍備の増強を進めることとなったが、この動きに保守的な者も少なくなかった。戦争しないことが支持の条件とされている者たちだ。


 ブラン宰相もその代表的な人物だった。彼がプルートを捕らえたのも、彼女を人質にすることで戦争を回避するためだ。


 大勢の平和のために1人を犠牲にすることが本当の意味での平和とは思わない。


 助けられるなら全員を助けたい。そのためには1つ気がかりな謎を解いておかなければ。


 プルートは僕が施した【迷彩(カムフラージュ)】によって声でもかけられない限りは気配すら悟られない。ここでは彼女の気配にすぐ気づけるのは僕だけである。プルートが行方不明となってもう何日も経っているが、指名手配は全く解かれず、彼女にとっては我慢の日が続いた。


 僕は数日前にクレセン島で倒したライカンスロープの能力を吸収したことで、鋭い察知能力を手に入れたために気づくことができる。


 だが彼女は【迷彩(カムフラージュ)】の代償として、近くにいる時に自分の噂話を目の当たりにすることがあり、無視されたように感じることもあるという。


 辛い思いをさせてしまった。外にはファームモンスターを使い、行方不明者や指名手配犯を探す者たちが定期的に通過するため、そう易々と解除するわけにもいかなかった。


 そんな折、僕はひっそりと隠れるようにベッドに座っているプルートに話しかけた。


「プルート、1つ聞きたかったことがあるんだけど」

「何だ? 帝国のことは一通り話したはずだが」


 プルートがこちらを向くと、僕は彼女に近づき口を開いた。


「いや、そうじゃなくて……どうしてヒドラがいたことを知っているの?」

「……あの時の気配はお前だったか」

「厳密に言うと、僕の身代わり君なんだけどね。あの時クレセン島にヒドラがいたことを知っていたのはクレセン島にいる人の中でも大公と軍の関係者だけだったはずだよ」

「気づいていたか。ならお前には話しておこう」

「何があったか教えて」


 あれからほとぼりが冷めたところでプルートに聞いてみると、彼女は太古のモンスターにまつわる事情をあっさりと自供した。


 闇の魔力を持った禁術の使い手はプルート帝国に住んでいる。


 プルート自信はまだ目にしたことがない。皇族でさえ知る者が限られているのだ。だがそれは重大な禁忌とされていることの裏返しである。


 身内でさえ外に漏らす心配があると疑われている有様だが、それでもプルートは禁術の使い手の者と思われる部屋を偶然にも覗くことができた。


「そこには太古のモンスターたちの化石があった。そこに父上が現れ、私にこう告げた。ここにいる太古のモンスターたちが、いずれ帝国復興に大きく貢献すると……そして、二度とここに立ち入るなと言って私を部屋からつまみ出した」

「それは何年前の話なの?」

「今から6年前の話だ。私はまだ大人と子供の狭間にいた頃だ。ヒドラがここの山を陣取って資源の採掘を妨げている話も父上から聞いた話だ。どうやら禁術の使い手は父上に仕えているらしいが、その姿を見た者は誰もいない」

「分かった。じゃあ僕が調べてくるよ」

「調べるって、まさか【転移(テレポート)】を使って帝国に忍び込むつもりか?」

「そのまさかだよ。それが1番手っ取り早いだろ」


 禁術の使い手がプルート帝国内にいることが分かっただけでも収穫だ。


 そいつさえどうにかできれば、帝国軍の戦力を大幅に削減できるはずだ。うまくいけば戦争中止に持ち込むこともできるはずだ。


 結局、それ以上に詳細な話を聞くことはできなかった。彼女とて提供できる情報には限界があるということだ。


 ――いや、待てよ。敵に捕まってもいいように都合の悪い情報は一切教えなかったとしたら、プルートが捕まることは予測されていた? ――もし最もリスクの少ない使()()としてプルートを送り込んできたとしたら。


 いやいや、まさかそんなことがあるはずはない。


 僕は思わず首を横に振り、自らの疑念を脳裏の奥に封じ込めようとした。


「どうした?」

「いや……何でもない」

「……?」


 目をパチパチとさせながらプルートが首を傾げた。


 とにかく、今は彼女を匿い、戦争を回避することが最優先事項だ。


「というわけで、僕はしばらくプルート帝国のカロンまで行って、禁術の使い手がいないかどうかを調査してくるよ。そいつが太古のモンスターを蘇らせてここまで送り込んできているのだとしたら、一刻も早く辞めさせないといけないからね」


 ルーナたちに承諾を貰うため、僕はプルートから得た情報を話しつつもこれからの計画を話した。もちろんこれは戦争回避のためでもあるのだから、反対されることはないはずだ。


「なら私も行く。アースだけ放っておけないもん」

「じゃああたしも行こうかな」

「連れていく人はもう決めている。マーキュリーとジュピターの2人だ」

「どうしてわたくしたちは駄目なのですか?」

「ルーナが帝国に行くのは問題外だし、マーズとヴィーナスにはここで料理番をしながらプルートを見張っていてほしいんだ」

「見張るのはいいけど、何かあるの?」

「彼女は何かを隠してる。それを聞き出すまでは……決して彼女が捕まることはあっちゃいけない。だから誰かがやってきても隠し通してほしい」


 ここんとこずっとモンスターとの戦いでは全員参加で、誰かが怪我をする度に回復をしなくちゃならなくなる。ここは少数精鋭で赴き、総力戦は極力避けるべきと考えた。


 マーキュリーは帝国の事情に詳しそうだし、ジュピターはまだ未知数ではあるものの、僕らの中では最強の戦力だ。


 プラネテスのリーダーとして勤めている内に、全員連れていけばいいわけではないことが段々と分かってきた。最小の戦力で最高の結果を得る。それが戦いのセオリーであると知った。


 その日の夜、僕が彼女たちと共に食べた食事はとても美味しかった。

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