第40話「無能力者、妖精王と戦う」
オベロン討伐のクエストを受けた僕らはベイスンの森に入った。
早くも強い魔力を感知した。この前入った時とは比べ物にならないほどだ。
パーティ全員の緊張感が段々と高まり、どこから敵が現れてもそれなりの対処ができるだけの準備が整っている。マーズは炎獄剣を、ヴィーナスは白銀銃を構えている。
マーズはヴィーナスに新しい武器を作ってもらったようだ。
数日前に一度、ヴィーナスの錬金魔法を眺めていた。まるで鍛冶職人のように武器を作っていたけれど、とても精巧な魔法によって作られたものだった。
ルーナは三日月弓をマーキュリーは秘伝流魔導書をいつでも使えるよう持っている。再生された森は以前よりも生命力を増しており、オベロンが棲みつくには十分すぎる環境だった。
マーキュリーが言うには、オベロンは縄張り意識が強いため、放置していれば侵入した人間が容赦なく倒されてしまい、木材などの採取が困難になることが予測される。
――どうしてこうもクレセン島にばかり太古のモンスターがやってくるんだ?
「「「「「!」」」」」
突然、まるで妖精のような高い鳴き声に反応すると、森の上空にはクエストの絵で見たのと全く同じオベロンが確認された。どうやら僕らの侵入を察知して出向いてきたらしい。
蝶々のような羽は虹色に輝き、緑色の長い髪とエルフを思わせる妖精のような顔つきやその威圧感からも、かつて森の妖精王と呼ばれていたことがうかがえる。その表情を顰め、無断で家に入ってきた侵入者を見ている主人の如く怒っている。
すると、オベロンの方から空間をも切り裂きかねないほどの切れ味を持つ無数の魔力の波動が飛び出し、近くにある気を真っ二つに切り裂きながら全員がそれをかわした。
「嘘でしょ……あの巨木をあっさり切り倒すなんて。あいつかなり強いわよ」
「あれを受けたらひとたまりもないわね」
反撃開始と言わんばかりにルーナたちが遠距離戦を始めた。
弓矢、ナイフ、銃弾が一斉にオベロンを襲ったその時、オベロンが空間移動で攻撃をかわしながら僕らに急接近し、魔力によって僕らを浮かせると、そのまま僕らを勢いよく投げ飛ばした。
「「「きゃあああああっ!」」」
「よっと」
全員が地面や樹皮に体を強打するが、ジュピターは余裕の表情でスタッと地面に降り立った。だがルーナたちが痛がる隙さえ見逃すことなく、オベロンは魔力の波動を容赦なく撃ってくる。
「危ないっ!」
「任せてっ!」
ガイアソラスの一振りで魔力の波動を全て跳ね返した。
「ナイス防御だね」
「まあね。今回復するね。【回復】」
回復対象を怪我をした味方全員に定めると、ルーナたちの傷が塞がり無傷の状態へと戻った。
これに驚いたのか、オベロンは戦法を変え、空間移動しながら腕から生やした植物のつたを鞭のように使い、僕らを接近戦を仕掛けてきた。一瞬で後ろに回られ、すかさず植物のつたを使った攻撃に僕らは苦戦を強いられた。
ただ1人を除いては――。
「ふーん、少しはやるみたいじゃない」
さっきから余裕の表情ジュピターが余裕の笑みを浮かべると、両手を広げながら木でできた箒を召喚する。
どうやらこの棒状で穂先が尖っている箒が彼女の武器らしい。
「久しぶりの討伐は燃えるわね」
「その箒は何?」
「これは私の武器、木製箒っていうの。これで自然の力を使った魔力攻撃ができるのよ。今見せてあげるわ」
「でも相手は色んな場所に空間移動できるんだよ。どうやって攻撃を当てるの?」
「どこへ移動するか分からないなら、全部の場所を攻撃すればいいのよ」
ジュピターが箒の穂先を空へ向けると、穂先から黄色い強力な光が上空へと飛び出し、電撃を帯びた爆風がオベロンを巻き込んだ。
慌ててオベロンが空間移動で避けようとするが、移動先にも爆風が広がっており、もはやどこへ逃げても手遅れと言える状態だった。そのまま爆風に飲み込まれると、体や羽が引き裂かれるように無数の傷がついていく。
「【爆風雷】」
爆風から生じた無数の雷が周囲を襲い、その内の一発がオベロンに直撃する。
攻撃を受けて力尽きたオベロンは重力に従って地面に音を立てながら墜落した。既に目が開いたまま死に絶えており、羽も死んだように色を失い透明無色となっている。ボロボロで穴の開いた羽は回復でもしない限り空を飛べそうにない。
それよりも驚くべきなのはジュピターの力だ。最初から顔色1つ変えずにオベロンの攻撃を次々に様子見のようにかわし、たった一撃であのオベロンを葬り去ってしまった。
「やったわ! オベロンを倒したわ!」
「ジュピター、あんた一体何者なの?」
「何者って、私はただの建築家よ。元冒険者だけどねっ!」
そう言いながらジュピターが陽気にウィンクをしてみせた。
僕はオベロンの亡骸に近づき、右手を掲げて【吸収】と強く願った。
すると、オベロンの体が光りに包まれ、それが僕の体に取り込まれて一体化する。
「ねえ、アースは何をやってるの?」
「回復魔法の一種である【吸収】を使い、オベロンの体を自分の体内へと取り込んでいる。これでアースはオベロンと同じ能力を得た」
「同じ能力を得るって、アースはこれを何回繰り返してきたの?」
「既に複数のモンスターから多くの能力を吸収している」
「それ……やばくない?」
さっきまで涼しい顔をしていたジュピターが僕の後姿をゾッとした表情で見つめている。
ここ数日間で僕は大公国の首都エクリプスに侵入してきた多くのモンスターを全て1人で倒し、既に何体ものモンスターの能力を吸収していた。もう何体吸収したか分からないが、そのおかげで五感が大きく強化され、人や物の特徴分析までできるようになっていた。
特に興味深いのはバイコーンの能力を得たことで、薬草を様々なポーションへと変えることができるようになったことだ。
薬草があれば世界中で不足しているポーションを自前で作り、必要があればそれを売ることもできるわけだ。もしパーティが資金不足に陥った時は、この能力を大いに使わせてもらうことになるだろう。
こうして、僕らはオベロンを倒したのであった。
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