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第4話「無能力者、足を引っ張る」

 僕、マーズ、ヴィーナス、マーキュリーの4人は正式にパーティ登録をした。


 なお、パーティの上限は10人までというルールがある。それを超えてしまうとパーティではなく軍と見なされ、国際法違反となり処罰の対象となる。これは全員魔法が使える前提のパワーバランスを考慮した結果だろうか。


 無論、僕のような無能力者も人数にはカウントされる。だが僕が加入したところでパーティの戦力は実質3人となるわけだが、彼女らは気にならないらしい。


 僕らはクエストの手続きを終えると、王都トリトンを離れモンスターの討伐へと向かった。


 トリトンの街の象徴である大きな時計塔が段々と小さくなっていく。


 クエストの内容はガラテアの森に生息するライカンスロープと呼ばれる大きな狼の討伐だ。1匹につき報酬10ステラ。僕にとっては高めの報酬だ。しかし彼女たちにとってはとても安い報酬らしい。


 パーティ名は『プラネテス』に決まった。昔の言葉で放浪者という意味だ。ここにいる全員が放浪者のような状態であることからこの名前で登録することになったのだが、僕にとっては初めてのパーティだ。


「ところで、皆さんはどんな魔法が得意なんですか?」

「私は火炎魔法を活かした接近戦が得意なの」

「あたしは錬金魔法で作った銃器で戦ってるわ。基本的に中距離戦が得意かしら」

「ワタシは魔導書の力を使った水流魔法。それから味方のサポートが得意」


 それぞれが得意な魔法と戦い方を説明してくれた。


 冒険者はソロで戦う者も多いが、利害が一致すればパーティを組むこともあるんだとか。


 みんな個性があって羨ましいな。僕も魔法を活かした戦いができるって一度でいいから言ってみたい。


「アースは戦闘経験とかあるの?」

「僕は……戦闘経験はありません。なのでその……極力足を引っ張らないようにします」


 僕は赤面しながら精一杯のアピールをした。


 正直に言えば恥ずかしい。自分の適性すら全く答えられないなんて……。


 はぁ~、何て情けないんだ。荷物をまとめた時から持っているこのバッグに買ったばかりのポーションを可能な限り詰め込んだが、相手次第では足りなくなる。


「ふふっ、あははははっ! やっぱアースって可愛い~」

「ええっ!?」


 ヴィーナスがまたしても僕に抱きつくや否や、その豊満な膨らみを僕の顔に押しつけてくる。


 包み込むようなその柔らかい感触が伝わってくると同時に突き放したくもなる恥じらいを心の奥底で感じた。


「あっ、ヴィーナスだけずるい」

「だってこの子、すっごく抱き心地がいいんだもーん」

「やれやれ。アース、ヴィーナスはあんたのことが気に入ったみたい。彼女は好きなものにすぐ抱きつく習性があるから許してあげてね」

「あはは……はい。大丈夫です」

「……」


 つい会釈をしてしまった。僕は何年も前からケレスお嬢様というこの人たち以上に面倒な女性の相手をしていたこともあり、これくらいは十分に許容範囲だ。


 マーキュリーは僕には一向に興味を示さないまま、無表情で僕の真後ろを歩いている。


 とりあえず剣を持っている僕と接近戦を得意とするマーズが前衛、中距離戦が得意なヴィーナスとサポートが得意なマーキュリーは後衛となった。


「この辺りにライカンスロープがいる。推定20匹、注意して」


 無表情のマーキュリーがボソッと呟くように言った。


 彼女は魔力感知によって人やモンスターの気配が分かり、このパーティにおけるセンサーとなっているが、実は戦闘の方が得意という変わり種だ。


 僕らが追っているライカンスロープは二足でも四足でも歩行できる狼だ。真っ黒な犬の姿をしており、野山から度々下山しては人々を襲い物資を強奪するため、漆黒の山賊という異名を持っている。日光さえ遮るように薄暗いガラテアの森は奴らの縄張りだ。いつ襲ってきても不思議ではない。


 明らかに僕ら以外の足音や僕でも分かるくらいの気配を感じると、僕らは武器を構え、ライカンスロープを待った。


「危ないっ!」

「「「!」」」


 マーズが叫ぶと当時に僕に飛びついた。


 仰向けに倒れた僕の上にマーズに覆いかぶさっている。すぐに差し出されたその手を取ってお互いに立ち上がった。ちょっと恥ずかしいんだけど。


「気をつけて。こいつらの狙いはあんたのバッグよ」

「はい、分かってます」


 1匹のライカンスロープが僕のバッグをめがけて飛びかかってくる。


「どりゃあああああっ!」


光魔剣(こうまけん)ガイアソラス】を盾として使い、僕を襲っているライカンスロープを足止めしている間に、マーズが【炎獄拳(フレイムブラスト)】でライカンスロープの1匹を殴り倒した。僕はそんな彼女の勇姿に思わず見とれてしまった。


 殴り倒された個体は即死し、それを見た他のライカンスロープが一斉に1人になったヴィーナスに襲いかかってくる。


「こっちは任せろっ!」


 ヴィーナスが両腰についているホルスターの片方から1丁の拳銃を構え、【白銀銃(シルバーリボルバー)】の銃口から放たれた弾を正確に4匹のライカンスロープの額に命中させた。それぞれの額からは夥しい量の血が流れており、その銃弾の威力の強さが露骨に表れていた。


 撃ち漏らした敵はヴィーナスに触れる前にマーズが全て殴り倒した。ヴィーナスはそのまま1丁の拳銃を指でクルクルと回しながらホルスターにしまった。


 僕の近くではマーキュリーが【水玉爆弾(ポルカボム)】と呼ばれる魔力で作られた水の塊となったボールを投げ飛ばした。ライカンスロープに命中すると共に爆発を起こし、周囲のライカンスロープまでもが爆発に巻き込まれた。


 これで14匹も倒した――カッコいい。これが冒険者なんだ。


「アースっ! 危ないっ!」

「!」


 僕の後ろから生き残ったライカンスロープが大きな爪で襲いかかってくる。


 剣が弾き飛ばされ、僕がそれを拾いに行くもバッグの持ち手を引き裂かれ、バッグが引きはがされる形となり、なおも僕に襲いかかってくる。


「アースに手を出すなっ!」


 咄嗟にマーズが危険を顧みずに僕の前へ出た。


「あああああっ!」

「「「!」」」


 マーズの体の表面が引き裂かれ、赤く鮮やかな血が噴き出てくる。


「マーズっ!」


 ヴィーナスがライカンスロープを援護射撃で追い払った。


 すると、ライカンスロープの1匹が持っていたバッグを口に加え、そのまま四足歩行で森の奥へと走り去ってしまった。


「待って! 返してくださいっ!」

「無駄よ。あそこまで逃げられたら追いつけない」

「マーズっ! しっかりしてっ!」

「くっ……やられた」


 マーズの体は肩から腰にかけて表面が爪で引き裂かれていた。


 ポーションはバッグに入っていた。もう取り戻せない。最悪にもアイテムを管理するはずだった僕が足を引っ張ってしまった。


 バッグを奪われた僕は、ただマーズに寄り添って涙を流すしかなかった。

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読んでいただきありがとうございます。

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