第39話「無能力者、報道に驚く」
結局、大公国の今後については保留となり、プルートの身柄はほとぼりが冷めるまでの間、プラネテスの家で預かることで落ち着いた。
無論、しばらくは外出禁止だ。そもそも大公国のことは僕らが決めることじゃないし、ルーナを通して多少は干渉することも可能だろうが、僕は一介の護衛でしかない。
ルーナの専属護衛とプラネテスのリーダーという職を得た今、僕が次にやるべきことはルーナの故郷を守ることと認識している。
翌日、1部の新聞がうちに届いた――。
プルートが脱走したまま行方をくらましたこと、彼女の正体が女性であることが大きく報じられてしまい、ますます身動きが取れなくなった。
「やはりこうなったか」
寝室から出られなくなったプルート何かを諦めたような顔でため息を吐いて言った。
プルートが住むことになった2階の寝室には、僕、ルーナ、プルートの3人が居座り、外に聞こえないくらいの声で静かに話している。
帝国側にこのことが知られるのは時間の問題だ。どこの国にも必ず諜報員がいるのは常識である。特に広く報道された情報は必ず時間差で敵国にも届く。彼女はそれを危惧していたのだ。皇帝にばれればただでは済まない。
「プルート、しばらくはここで耐えてほしい。未来の自由のために」
「ああ、分かってる。それより、私の武器を取り戻してくれないか? バイデントがあれば、お前たちの力になることもできる」
余っていた服をプルートに着せたが、とてもよく似合っている。
ルーナが予備の服としてとっておいた白いブラウスと黄色のコルセットの服が見事なまでに彼女の体にフィットしている。ルーナとはサイズが違うものの、ジュピターが【加工】でサイズを彼女用に変えてくれた。大きくした分薄くなったけど。
「分かった。必ず探して持ってくるよ」
「頼んだぞ」
「アースっ! これを見てっ!」
突然、ジュピターが新聞を持ったまま慌てて部屋へと駆けつけてきた。
新聞のトップ記事でない部分に全く見覚えのないモンスターが移っていた。
「! これは一体……」
その記事には宙に浮いたモンスターらしき光景が移っていた。蝶々のような虹色の羽にエルフを思わせる人型の姿があり、その周囲の建物が真っ二つに切り裂かれていた。
「この場所はワタシたちが最初に行き着いたカイパーベルトと呼ばれる小さな街。そしてこの姿は太古のモンスターの一種であるオベロンのものと思われる」
ジュピターの後をついてきたマーキュリーが淡々と述べた。
その後ろからはマーズとヴィーナスも付き添うように歩み寄ってくる。
「オベロンって、昔の神話とかにでてくるモンスターでしょ?」
「太古の昔、オベロンは森を居住地としながら静かに暮らしていたとされる。普段は大人しいが、戦いになると不思議な力を使い、人や物を浮遊させたり、空間移動を使って逃げたり、あらゆるものを切り裂く魔力の波動を放つ力を持っている。それでついた別名が、森の妖精王」
「また太古に滅んだモンスターなのぉ?」
「今までの現象から推測すると、このオベロンも闇の魔力を持つ者の禁術によって復活させられた可能性が高い。現代にはオベロンが静かに過ごせる場所がない」
「じゃあ、どこにいるの?」
「オベロンの体の向きからして、カイパーベルトの近くにあるベイスンの森へ行ったものと推測できる。オベロンは豊かな森に惹かれる習性がある」
マーキュリーはオベロンが自然の力が強い森に居座る習性があることを教えてくれた。ベイスンの森にはそんな豊かさはなかったはず――まさかっ!
「アース、どうしたの?」
「オベロンがやってきたのは……僕のせいかもしれない」
「どうして?」
「僕がベイスンの森を再生させたことで、オベロンが好む豊かな森にしてしまったせいだと思う。僕らが最初に訪れた時は、とても豊かな森とは言えなかった。僕があの森を回復して豊かな森として回復したのが原因でやってきたとしたら……僕の責任だよ」
「何言ってんの。アースは何も悪くない。悪いのは闇の魔力で禁術を使った人でしょ」
「それはそうだけど……」
いかん、また何でも自分のせいにする癖が出ている。
召使いだった時の思考がまだ抜けきっていない。自分のせいにしていれば全て丸く収まると思っていたが、そうじゃなかった。この現象を止めるには、一刻も早く闇の魔力を持った者を捕まえるしか方法はない。
でもどうやって探すんだ? 仮にいたとしてもどこかに隠れているだろうし、そう簡単には見つけられないだろう。
「ベイスンの森へ向かいましょ」
「そうだね。でもその前に……」
「?」
僕はプルートの前に右手を掲げ、【迷彩】と強く願った。
「あれっ、プルートが消えた?」
「私ならここにいるぞ」
「うわっ! びっくりした」
「【迷彩】でプルートの気配を消したんだよ。これでもうプルートが見つかることはないと思うよ。ここで留守番してて」
「分かった。この前何かに見られているような気がして、僅かに気配を感じたところに攻撃を仕掛けたら、抜け殻のようなものがあった。あれはお前の仕業か?」
「あはは、ばれてたか。あれは僕が作った身代わりで、身代わりにこの魔法を使って気配を消しながら偵察してたんだよね」
「身代わりに気配を消しながら偵察をさせるとは恐れ入った。バイデントの魔力感知がなければ見抜けなかっただろうな」
そうか……僕の身代わりの位置がばれていたのはバイデントの力か。その力を使うことであらゆる角度からやってくる刺客を見抜いていたんだ。だから彼女が遠征の適任とされたわけか。
プルートに留守を任せ、僕らはまずギルドカフェへと赴いた。
掲示板には名称不明のままオベロンの姿が描き記されており、このクエストが書かれた紙をはがして受付まで持って行った。賞金は敵の位置が分からないことや、その強さが未知数であることもありかなりの高額だった。
「凄い、15万ステラもある」
「これならジュピターの借金を早く返せるね」
「あ、ありがとう」
ジュピターの頬が赤く染まり目を斜め下へと向けた。
受付を済ませ、僕らはマーキュリーの推測通り、ベイスンの森へと向かうのだった。
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