↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/100

第34話「無能力者、皇子の秘密を知る」

 マーキュリーに言われるがまま、僕は1階の温泉まで下りて服を抜いた。


 うぅ……やっぱり僕、女子っぽく見えちゃうな。脱衣室にはいくつかの鏡があり、それがありのままの僕の姿を偽りなく映し出す。誰もいないと思っていたその時、液体に何かが浸かるような音が聞こえた。


 窓越しに外を見てみると、ロングヘアーの女性らしき人が後姿のままバスタオルを体に巻き、足が湯に浸かったまま立っている。しかもそのままのっそりと肩まで湯に浸かった。なるほど、そういうことか。マーキュリーはずっとこれを狙っていたんだ。さすがはアンドロイドだ。抜け目がない。


 今、夜中の温泉に僕以外の姿はまずないと思っていた。深夜ということもあり、他の人たちはすっかりと寝静まっている。ここは男性風呂のはずだが、何故か女性らしき後姿が羽休めをする鳥ように落ち着いた様子で入浴する姿が見えている。


 何だかいけないことをしている気分だ。


 でも何で女性が男性風呂にいるんだ?


「あのー、ここ男性風呂なんですけど」

「誰だっ!?」


 脊髄反射でこちらを向いたかと思えば、慌てて湯からバシャッと飛び出し、棒を持つように両手を構えた位置に見覚えのある二又槍を召喚した。棒の先にある2つに枝分かれした鋭い刃がこちらを向いている。


「――! あなたは……」


 開いた口が塞がらなかった。思わず目を疑う光景だった。


「アース、何故私がここにいると分かった?」


 彼……いや、彼女は紛れもなくあのプルート皇子だった。だが体つきは女性そのものであり、控えめの胸にスラッとしたくびれが僕にはとても美しく煌びやかに見えた。


「いや、僕は誰もいない時にしか風呂に入らないと決めているので」

「……見られたからには仕方がないな。さっさと入れ」


 僕とプルート皇子、いや、プルート皇女は一時休戦と言わんばかりに温泉に肩まで漬かった。さっきの二又槍は異空間へと姿を消した。


「あの槍は何と呼ぶのですか?」

「あれは【二又槍バイデント】。私の相棒とも言える武器だ。アース、風の噂で聞いたが、お前が無能力者だったのは本当か?」

「はい、本当です」

「詳しい経緯を聞いてもいいか?」

「……分かりました」


 プルート皇子に僕の過去を話した。かつてのマケマケ村はプルート帝国の領土だった。それがどういった経緯でネプチューン王国の手に渡り、村を滅ぼされたのかが分からなかった。


 彼女なら何か知っているかもしれないと思い、昔の帝国の話をうかがった。


「僕はどうしてもマケマケ村を滅ぼした犯人を突き止めて、この手で仇を討ちたいのです。3年前のことで何か事情を知りませんか?」

「3年前か――我が帝国が最後の植民地を失った時であることしか知らん。すまないが、その件では力になれそうにない」

「……どうして男性のふりをしたのですか?」

「……」


 さっきから僕が最も気になっていた疑問をさりげなく尋ねると、さっきまで真顔で語り合っていたプルート皇女がそっぽを向きながら顔を顰めた。


 やっぱ聞いちゃ駄目だよね。


 仮にも皇族の人にこんなことを聞くのもどうかと思うし、下手をすれば国家機密かもしれないのに何でこんなこと聞いちゃったんだろ。一度出た言葉を引っ込められるはずもなく、僕は焦りさえ感じて息が荒くなり、呼吸が乱れそうになる。


「あの……無理に答えなくてもいいです。皆さんには内緒にしておきますので」

「見られたものは仕方がない。お前には事情を話しておこう」


 プルート皇女が今までの事情を話した。


 彼女の父親である皇帝には3人の息子がいるとされるが、それは真っ赤な嘘であった。


 プルート帝国の現皇帝は男子に恵まれず、生まれた3人の子供はいずれも女性だった。プルート皇女は3人姉妹の三女である。無論、他の皇女たちも男装して男を演じ、側近以外の者たちには完全に伏せてきた重大な国家機密だった。


 だからたった1人で夜中の温泉に入りに来たわけだ。


 大公官邸には何の事情も知らない護衛たちがいる。護衛が全員女性だったのは、少しでも不安を和らげるためだった。


「父上に男子がいないと知られれば、帝国は間違いなく混乱する」

「何故混乱するのですか?」

「プルート帝国皇帝の後を継げるのは皇帝直系の男子のみ。うちの国はどこまでも保守的だ。100年ほど前にハウメア大陸の半分を支配し、大帝国と称された我が帝国は伝統的とも言える強引な植民地支配によって本国以外の地域から過剰な搾取を行った。本国は全盛を極めたが、その政策も長くは続かず、やがて今までのツケが回ってきた」

「植民地の離反ですね」

「ああ。私の祖父にあたる2代前の皇帝が慌てて減税処置を施し、植民地との融和を図ったがもう手遅れだった。それからはドワーフの植民地侵攻をきっかけに、急速に勢力を伸ばしてきたネプチューン王国やウラヌス共和国にまで侵攻され、我が帝国は徐々に解体されていった。それが今や二等国家にまで成り下がった」


 胸が張り裂けそうな表情で、帝国の惨状を僕に訴えた。


 プルート皇女は帝国による伝統的な支配を快く思わなかった。


 どんなに惨めでも帝国に生き長らえてほしいという願いがあった。男装してまでムーン大公国の支配権を握り、ここに眠る資源を帝国へ送るのが彼女の本来の役割であった。


 名目上は三男であるため、殺されたところで大した痛手ではない。全てはマーキュリーが言っていた通りだった。フェイクというのが性別を偽っているという意味だとしたら――。


「アース、私の弱みを握ったというのに、何故一向に脅そうとしない?」

「そんなことしませんよ。あなたは敵側ですが、心根はとても良い人ですから。帝国に帰ったらどうするおつもりなのですか?」

「結婚した証拠として、后となったルーナを一度本国へ持ち帰る予定だったが、それはもう叶わぬ夢となった。お前はヒドラを倒すほどの腕前と聞いている。太古のモンスターは私でも倒すのに手間がかかった。それをあっさり倒してしまえるパーティがルーナの味方とあっては、戦ったところで勝ち目はないだろう。もう戦争は確定した」

「……」


 プルート皇女の境遇に対して思うことはある。手ぶらで帰ればただでは済まない。


 何か良い方法はないだろうか。彼女を助けられる策でもあれば……。

気に入っていただければ下から評価ボタンを押して応援していただけると嬉しいです。

読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。