第3話「無能力者、パーティを組む」
ネプチューン王国王都トリトン。
そこは様々な地域から出稼ぎ目的で人々が行き交う王国の拠点。
市場では商人たちが横並びに店を構え、1人でも多くの人に売ろうと奔走している。
建物は3階を超える木造建築物が道路に沿って綺麗に並んでおり、道もさっきまでのデコボコ道とは異なり平らで歩きやすいように作られている。ここらでこれほどの整備が行き届いているのは帝都カロンと王都トリトンくらいであり、この豪華な街並みは大都市の証とも言える。
ネプチューン王国はプルート帝国の衰退に反比例するようにその勢力を伸ばし、今ではハウメア大陸の3分の1を支配する一等国家となっている。
さて、まずは仕事と寝床を探さないと。
あれから数日かけてここへ辿り着いたはいいが、手持ちのお金は残り僅か。早い内に見つけないとどうなることやら。
「ここには私の友達もよく来るの。一緒に不動産屋さんに行こっか」
「は、はい。でもその前に……ご飯食べてもいいですか?」
「あっ、そうだね。じゃあ一緒に食べよっ。私が奢るから」
「えっ、いいんですか?」
「いいのいいの。あんたを見てると、なんか放っておけなくて」
「……!」
「あっ! いやっ! そういう意味じゃないからっ! その、あんたって……貴族の家を追われてから故郷の惨状まで見たでしょ。だから、ほら、助けたくなっちゃって。私はそういう人が放っておけない性分なの! 分かった!?」
「はっ、はい。じゃあ行きましょうか」
マーズはトリトンでも人気のカフェへと連れていってくれた。
まだ出会ったばかりということもあり、なかなか距離感が掴めない。
オシャレな木造の外観にとても雰囲気の良い内装だ。だが客が数えるほどしかいない。本当にここって良い店なのかな?
「あっ、マーズ、久しぶりねー」
「ヴィーナス、それにマーキュリーまでどうしてここにいるの?」
「どうしてって、たまたまトリトンの近くにいたのよ。そしたらマーキュリーまでトリトンに来ていたから一緒にお茶してるのよ」
「冒険者同士がここで会うなんて滅多にないもんねー」
「マーズ、その可愛い女の子は知り合い?」
「あー、この子は数日ほど前に知り合ったの。あと、この子は男の子よ」
「「男の子っ!」」
2人の女性が同時に叫んだ。僕は村の外ではいつもこういう驚きの反応で迎えられる。
キュビワノ族は男性も女性もほぼ同じ外見であるため、見た目だけではどちらの性別なのかが全く分からない不思議な一族なのだ。僕は男だが、外見は母さんの子供の頃に似ているらしい。
だから村の外にいる人たちからはとても不思議がられた。慣れないもんだな。
「初めまして。僕はアース・ガイアといいます。あなた方はマーズの友達ですか?」
「ええ、そうよ。あたしはヴィーナス・アステリア。ヴィーナスって呼んでねー。よろしくー」
「ワタシはマーキュリー・カロリス。マーキュリーでいい。よろしく」
ヴィーナスは温かく挨拶をしながら僕を歓迎してくれた。
肩につくくらいのブロンドの髪と赤黒い目、ギャルのように派手な服装とマーズ以上に明るい性格であり、この中で1番の長身でとてもグラマラスな体である。胸もかなり大きい。
マーキュリーは常に淡々としていて表情に変化もなく穏やかな話し方だが、それでも僕を歓迎してくれているのが分かった。
肩に届かないくらいの水色の短髪と青い目、小柄で僕よりも背が低く胸は控えめだ。
僕はどこからやってきたのかを聞かれ、マーズの友人ならと思い、今までの経緯を説明する。語るも悲しく聞くも悲しい僕の過去を聞いている内に、マーズもヴィーナスも火が消えたように落ち込み気味である。ただ、マーキュリーは両手に本を持ったままジト目でこちらを向きながら話を聞いている。
「つまり話をまとめると、アースは無能力者であることを理由にマケマケ村を追われて、その後しばらくはあのウルヴァラ家のお嬢様に召使いとして仕えて、いらなくなって追放されて村に戻ったら村が滅ぼされていたってことでいいのかな?」
「はい。それで間違いありません」
「……可哀想に」
「えっ……」
ヴィーナスがテーブル席から立ち上がると、いきなり僕に抱きついた。
何だろう。この心が温まるようなこの気持ち――何だか久しぶりに味わったような気がする。最後に人の優しさに触れてから経過した時間がとてつもなく長かった。
「ヴィーナス、あんたこの子に触りたいだけでしょ?」
「てへっ、ばれちゃったか」
お転婆に舌を出してウィンクをしながらヴィーナスが僕から離れた。
だがさっき僕の過去を憂いていたあの目は嘘じゃないと確信している。ここはちゃんと説明しておこうと考えた。
「えっと、そんなわけで、僕は一刻も早く仕事と寝床を探さないといけないわけです」
「だったらさー、この『ギルドカフェ』で『クエスト』を受けたら?」
「クエストって、確かモンスターの討伐とか、仕事のお手伝いで報酬を得る契約でしたよね?」
「そうそう。1番手っ取り早いのがモンスターの討伐よ」
「じゃあさ、しばらくはあたしたちでパーティ組まない?」
「あっ、それいいねー。早速登録しにいこうよ」
「ワタシも賛成」
マーキュリーが相変わらず無表情のまま言った。そしてすっかり乗り気のマーズとヴィーナスの2人も僕の方を向いた。
これ……もしかして僕もパーティに入る流れ?
ていうかここ、ギルドカフェだったんだ。
ギルドカフェは世界中にチェーン店があり、都市部に必ず1つはある。仕事の提供場として人気が高く、難度が高い仕事ほどその報酬は高くなり、仕事をこなせばこなすほどより難度の高い仕事を任せてもらえるという。
「アース、あんたも私たちと一緒にパーティ組まない?」
「あの、僕は無能力者ですよ。僕が入ったら足を引っ張るんじゃ」
「何言ってんの。これはあたしたちのためでもあるし、あんたのためでもあるんだから」
「アース、ワタシたちの雑用」
「あっ、なんだ雑用ですか。分かりました。そういうことなら、よろしくお願いします」
召使いだった時の癖で頭を下げた。
雑用でも何でもいい。とにかく仕事を得ないと。
それに雑用の仕事は、ケレスお嬢様に散々こき使われていたこともあり手馴れている。
とりあえず食い繋ぐことはできた。剣があるとはいえ、これでまともに戦えるのだろうか。戦闘なんて一度もやったことないし、段々心配になってきたぞぉ~。
こうして、僕らはパーティを組むことになったのであった。
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