第26話「無能力者、建築家と出会う」
アルダシール将軍は元々プルート帝国の将軍だった。
だが本土以外を軽視し、植民地と化した土地から過剰な搾取をする皇帝に彼は不信感を抱き反乱を起こした。しかし、彼の孤軍奮闘も空しく敗れてしまい、彼はムーン大公国へと落ち延びてきた。
そこで自分を拾ってくれた大公に忠誠を誓い、今ではここでも将軍に出世している。
「14年前に反乱を起こして敗れた後、これを聞いた帝国の植民地がまた反乱を起こした。その内のいくつかはネプチューン王国やウラヌス共和国に併合され、プルート帝国は徐々に追い詰められた。だがここ最近は帝国側の守りが堅いせいか、本国への侵入はできないでいる」
なるほど、この人も帝国の衰退に一役買っていたわけだ。
それにしたって不思議な縁だ。帝国の更なる衰退を皮切りに、僕はあのエリスと入れ替わる形で屋敷を追放された。ちょっと複雑かも――でも変だな。衰退して召使いを雇う余裕がないんだったら、どうして僕以上に有能な召使いを雇ったんだろうか。
そこは今でも謎に包まれたままだ。
エリスはケレスお嬢様と仲が良かった皇女の召使いだった。話の流れからして皇女に譲られたと考えるのが自然だけど、譲った理由が不明だ。
「それは恐らく、新兵器の試作段階である可能性が高い」
マーキュリーが目線を上に上げ、僕らの話に割って入った。
アンドロイドには空気を読むという機能はなく、突然話に割って入ることもしばしば。ルーナたちは個性だと思って難なく受け入れているようだけど、いつか偉い人に怒られそうで怖い。
「新兵器か。確かにそう考えれば説明がつくな。俺はプルート帝国が滅びるのをこの目で見るまでは絶対に死ねん」
「歴史は繰り返す。誰かがどこかを滅ぼしても、必ずまたどこかに残虐な君主は現れる。これは時代が生み出した必然」
「たとえそうであっても、プルート帝国だけは許せん」
両腕の拳を手が赤くなるほど強く握り、眉間にしわを寄せている。
いずれにせよ、プルート帝国とはどこかで折り合いをつける必要がある。
アルダシール将軍が足を止めると、僕らの目の前には木造建築の一軒家があった。丸太をベースに作られているようでとてもオシャレだ。そこの扉をコンコンと中指で叩くと、中から女性が応答する声が聞こえた。
「はい。あっ、アルダシールさん、どうしたんですか?」
表れたのはポニーテールの薄い茶髪にルックスもスタイルの良い女性だった。
黄土色のカジュアルな服でとてもスポーティだ。性格はとてもハキハキしていて、いかにも元気いっぱいって感じだ。見えている胸もかなり大きいし、黒いブラが胸の周辺から僅かに見えている。
「ジュピター、大公の命だ。彼らの家を作ってくれ」
「それは別に構いませんけど――ルーナ様、ご無沙汰しております」
ルーナを見るや否や頭を下げた。胸の谷間がさらに強調されている。
駄目だ。目が谷間に吸い寄せられる。どうして顔も体も可愛い子ばっかりなんだろうか。嬉しいと言えば嬉しいけど、目のやり場に困っちゃう。
「ルーナでいいですよ。それに公の場ではないのですから、敬語は不要です」
「うん、分かった。それで? ルーナは別荘でも建てるつもりなの?」
「いえ、わたくしは以前からプラネテスというパーティの一員なので、パーティ用の家です」
「パーティに入ったの? いつもは平和主義のルーナにしちゃ珍しいわね」
「はい。なのでパーティ用の家を建てたいのですが、依頼してもいいですか?」
「ええ、いいわよ。私はジュピター・オーバル。普段は建築家やってるの。よろしくねっ!」
自己紹介をしながら可愛くウインクをする。
カッコ良さと明るさと可愛さを併せ持ったスポーツ系女子って感じだが、歳は僕と変わらないくらいであり、お姉さんっぽくもないし、妹っぽくもないかな。
「よろしくお願いします」
「あー、私も平民だから普通に話してくれていいよー。それにしても、君めっちゃ可愛いねー。この中で1番可愛い子かも」
ジュピターがいきなり正面から僕に抱きついてきた。しかもそのまま僕の頭を細く長い指でなでてきた。なんか凄く気持ちいい。この気さくでかなり人慣れしている彼女に僕は顔を赤らめながら戸惑った。
目の前には豊満な胸が迫っており、額には汗が流れ、子守りをされているみたいで恥ずかしさを表すように心臓の鼓動が早まった。
「えっと……僕、男なんですけど」
「ええっ!? 男の子なのっ!?」
「アース・ガイアです。アースって呼んでください」
「へぇ~、だから彼らって言ってたんですね~」
「まあ、そういうわけだ。しばらく面倒を見てやってくれ」
「分かりました」
役目を終えたアルダシール将軍が大公官邸まで歩いて戻っていく。
本来は戦争の指揮が役割の彼にとって、人の案内役なんてプライドが許さないんだろう。その後ろ姿にはどこか哀愁のようなものを感じた。ジュピターはしばらく僕らにつき合ってくれるようで、家の設計から場所までを全員で相談した。
その結果、街の中心から少し離れた場所にある空き地に家を建てることで落ち着いた。
ジュピターは【加工】という魔法で材料となる物質を別のものに変化することができるようで、最も得意なのが木製の道具を作ることなんだとか。
「ここに丸太があるでしょ。これをこうやって持って好きな形をイメージするの」
そう説明をしながらジュピターが身長の2倍以上もある丸太を軽々と持ち上げると、樹皮が剥がれていき、中にある木の木目が現れ、家を建てるのに必要な木材へと変わった。
「「「「「すご~い!」」」」」
「ふふっ、別にこれくらい普通だってー。まずはこの丸太をたくさん集めるわよ。向こうに森があるから、そこで木を伐採して持ってくるの。本来なら依頼者に任せるところだけど、今回は大公の命だから特別についていってあげるわ」
「ありがとう」
「でも大公の命だなんて、あなたって余程気に入られてるのね」
「そりゃそうよ。アースは回復術師だもん」
「!」
マーズがそう言った途端、ジュピターの顔色が変わった。
「えっ、じゃあ……あんたが今噂の、世界で唯一の回復術師なの?」
「はい。回復自体はガイアソラスっていう魔剣の力なんだけどね」
「すっご~い!」
「えっ……」
ジュピターがまたしても僕に絡みついてきた。しかもさっきよりずっと強い力だ。
「こんな所にいたなんてもう感激っ! こうなったら最後までつき合うわ。ねえ、一緒に森まで行きましょ。ねっ?」
「う、うん。よろしく」
「じゃあ早速行こっ!」
ジュピターが僕の腕を引っ張り、森へと近づいていく。
プラネテスの家の費用は大公が負担してくれるそうだが、あまり高くなるのも悪いし、2階建てくらいにしておこうかな。
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