第24話「無能力者、回復が覚醒する」
ヒドラは海蛇のような黒っぽい紫色の体に3つの首を持ち、ドラゴンのような彫りの深い顔、見た者を震え上がらせる眼光で僕らを睨みつけている。
縄張りに入ってきて怒ってるんだ。
海蛇とは言っても、溶岩の海を泳ぐ海蛇だったんだ。別名、火山の監視者。
ヒドラが現れた地面の周囲には溶岩が少し溢れ出てきており、こちらにまでその熱気が伝わりそうなほどだった。雄叫びを上げると共に、口から炎の息を放射してきた。
「「「「「!」」」」」
咄嗟に僕ら全員が攻撃を回避すると、これが戦闘開始の合図となり、それぞれがヒドラを囲むように立ち、全方向から攻撃をし始めた。
ヴィーナスは【黄金銃】から弾を放つと、ヒドラの胴体に当たった途端に爆発を起こし、手痛い一発を食らわせた。ルーナは少し遠くから【雷光矢】を放った。そして今度はマーズがヒドラに近づき、持っていたナイフで3つの首の内の1つを大根を切るようにスパッと切断する。
だがヒドラは怯むことなく固い尻尾を振り回し、マーズとヴィーナスを薙ぎ払った。
「「きゃあああああっ!」」
「マーズっ! ヴィーナスっ!」
2人は岩壁に勢いよく叩きつけられた。打ち所が悪かったのかそのまま気絶してしまった。しかもヒドラの切断された首がすぐに復活してしまった。再生能力まで持っているとは――さすがは太古のモンスターなだけあって強いな。軍でも太刀打ちできなかったわけだ。
とどめを刺される前に僕はガイアソラスで応戦した。
「【魔剣斬】」
3つの首を同時に切断し、切断した部分が大爆発を起こすと、3つの頭がほぼ同時のタイミングで地面にポフッと転がり落ちた。しかし、それでも3つの首がすぐに復活してしまった。
何故だ!? 何故倒れない!? 再生能力があまりにも高すぎるっ!
「さっきから尻尾を隠してる。ワタシが援護する。尻尾を狙って」
「分かった」
マーキュリーが左手に持った魔導書を開くと、右手には水の塊がボールのような形状でぷかぷかと彼女の手の上を浮遊している。
すると、魔導書が光りだし、水の塊が段々と冷たく変質していき、やがて氷の塊となり彼女の手の上を浮遊した。
「【氷爆弾】」
それを思いっきりヒドラに向かって投げつけると爆発を起こし、爆発した場所の周辺が一気に凍りついた。ヒドラは首から下が氷づけになり、その場から動けない状態であった。
しかしヒドラは抵抗を続けた。段々と氷がピキピキと割れる中、それぞれのヒドラの口から毒の息が発射され、僕、ルーナ、マーキュリーを襲った。
「きゃあああああっ!」
「……全身への猛毒侵入を確認」
「みんなっ!」
2人が倒れ、あっという間に僕1人になってしまった。ヒドラの猛毒を受け、僕はダメージを受けたが、ガイアソラスの魔力によってすぐに回復した。ヒドラが氷を全て割る前に全員を回復させないと。
頼む、ガイアソラス。ここにいるみんなを回復してくれ。
そう願った途端、頭の中に突き刺さるように全体回復の文字が浮かんだ。
そうか……全体回復魔法を使えばいいんだ。今までは単体にしか使っていなかったけど、どんな回復魔法でも使えるんだったら、全領域への回復だって使えるはずだ。今こそその力を見せてみろ。戦いを嫌い、大地に恵みをもたらしてきたガイアソラスよ、この僕に力を貸してくれ。
右肘から先が剣となったまま、僕はガイアソラスを天へと突き立てた。
「【回復】」
回復対象を味方全員に定めると、負傷している4人全員の体が青白く輝き、みんなの全身の毒や傷が消え、体力が一気に回復したのだ。
全員がその場に立ち上がり、体の状態を確認する。
「凄い。体に力がみなぎってくる」
「やっぱりアースさんは凄いですね。これならまだまだ戦えます」
「全身の猛毒除去を確認、戦闘態勢に移行する」
「またアースに助けてもらっちゃったね」
「みんな、ヒドラを引きつけてくれ」
ヒドラの眼光を見ながらそう呟くと、全員がコクッと頷きヒドラへの攻撃を始めた。
その間に僕はヒドラの背後に回り、ガイアソラスを真っ直ぐと突き立て、フレースヴェルグの翼を生やして大きく飛び上がった。そしてヒドラの尻尾めがけてガイアソラスを頭の上に移動すると、そのまま縦に思いっきり剣を振るった。
「【大地斬】」
そのままヒドラを地面や尻尾ごと全身を縦に切断し、大きな地震と共に爆殺した。
ヒドラの死体はピクリとも動かず、尻尾の中に真っ二つとなったヒドラの心臓があることを確認したのだ。
弱点は尻尾の中にある心臓だった。みんな頭に狙いを集中していたから倒せなかったんだ。ヒドラの痕跡さえ残したくなかった僕は、ヒドラの死体に両手を掲げ、【吸収】と強く願った。
すると、ヒドラの死体が丸い光へと変わっていき、それが僕を包み込んだ後、最終的に光が僕の体の中に入り一体化する。
これでヒドラの討伐も完了した。証拠は残らないが証人ならいる。それだけでも十分だ。
だがこれでは済まなかった。さっきの技の衝撃で地面が割れ、休火山の奥底に眠っていた溶岩が所々から噴出した。その中にはムーン大公国が喉から手が出るほど欲しがっていた資源も一緒に噴出されていた。
地面の下にまだこんなにあったんだ。溶岩が固まったら採掘できるかな……ってそんなこと言ってる場合じゃない! 早く溶岩を止めないと。
「みんな逃げて」
「アースはどうすんの?」
「僕はここで溶岩を止める。早く行って」
「そんなっ! アースさんを置いてなんて行けません」
「早く行くよっ! アースなら大丈夫だからっ!」
マーズがルーナの手を引っ張り、僕以外の4人はどうにか火山から脱出した。
僕はさっきヒドラから吸収した能力を使い、口から氷の息を吐いて地面を固めていった。ヒドラは口から毒の息、炎の息、氷の息といった様々な効果を持った息を吐き出すことができるようだ。ヒドラを吸収した時から、僕は氷の息が使えることを本能的に掴み取っていた。
休火山が元の状態に戻ったことを確認し、僕は洞窟の外まで歩いていった。
外では仲間たちが心配そうに立ち尽くし、僕の姿を見かけると真っ先にルーナが僕の胸に頭から飛び込んできた。
「アースさんっ!」
「ルーナ、心配かけたな。それにみんなも」
「アースさん……ううっ、うっ、生きててよかったです」
「――そう簡単に死ぬわけないだろ」
この時、ガイアソラスの力を得た僕は、自分に確かな自信を持ちつつあった。
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