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第21話「無能力者、令嬢を守り抜く決意をする」

 ルーナは目覚めた僕に抱きついてからは気分が優れなかった。


 特に彼女の両親が部屋に入ってきた時からずっとだ。さっきから見えない何かに怯えている様子だったし、ここはちゃんと聞いておこう。


 この部屋は僕の好きに使っていいらしい。しばらくの間、プラネテスは国賓として大公官邸に泊まり続けても良いらしい。ルーナがこれまでのことを大公に話してくれたおかげだ。


「では私たちはそろそろ戻るとしよう。君は娘の命の恩人だ。好きなだけ泊まっていってくれ。できる限りのおもてなしをさせてくれ。部屋は君たちのためにいつでも開けておくからね」

「ありがとうございます」

「ルーナ、ちゃんと考えておくのよ」

「……はい」


 ルーナがしゅんとした顔で答えた。


 大公たちが部屋を出ると、プラネテスのメンバーのみになり、マーズたちもルーナの異変に気づいたようだった。


「ルーナ、何でさっきから落ち込んでるの?」

「――実は先ほど、お父様と話していたのですが……」


 数時間前――。


 僕がまだ気絶していた頃、ルーナがプラネテスの一員として命懸けでここまでやってきた経緯を伝え終わった後のことだった。


 大公の部屋には大理石の床、ピカピカのシャンデリア、家系図の描かれた壁があり、木造の机の上には本や資料が大量に並べられている。大公はその大きな椅子に腰かけながらその場に立ち尽くすルーナの顔を見上げ、席に着きながら両手の指を組んでいた。


「そんなっ! 嘘だと言ってください!」


 ルーナが両手を机にパタッと置きながら大公に反発する。


「嘘じゃない。かなり前から話は進んでいた」

「何故私がプルート帝国の皇子に嫁がなければならないのですか?」

「少し前からモーントセレーネーに太古に滅んだはずのモンスターが棲みつき始めてな、そのせいでで資源を採掘できなくなった。我が軍の戦力の維持が困難になってきた今、奴らの方から我が国と同盟を結ぶ話が出たのだ。そこでお前をプルート帝国の皇子に嫁がせることで、同盟を強固なものにしようと通達がきた」


 大公が引き出しの中から1通の手紙を取り出し、机の上に置いた。


 ルーナはそれを全く手に取ることもせず、全く読まないことで抗議の意を示した。


「……それが、プルート帝国が私を捕まえようとしていた理由ですか?」

「ああ、ここまで戻ってきてくれたことは本当に嬉しい限りだ。だが残念だ。これ以上戦争を続ければいずれ上陸され、民は侵略と略奪に苦しむことになる。それを防ぐには戦争を終結させ、同盟を結ぶ他はないのだ。分かってくれ」

「……わたくしは一体何のために……命懸けでネプチューン王国まで赴き、援軍要請をしたとお思いなのですか?」


 プルプルと両腕を震わせながら涙声で必死に喉の奥から声を絞り出した。


 ここでは大公の命には誰も逆らえない。たとえどんなに不本意であったとしてもだ。


 プルート帝国がケレスお嬢様を寄こしてまでルーナを生け捕りにしようとしたのは、ルーナを捕らえた後、人質も兼ねて皇子に嫁がせるためだったんだ。しかもルーナが嫁ぐことを拒否した場合は帝国が大軍を率いて一気にここを攻め落としにくるという。


 もはや完全に脅しだな。同盟とは言っても、これは平等な条件ではない。


「他に好きな人でもいるのか?」

「――います。とても素敵なお方です」

「悪いが諦めてもらう。今のこの国を救うにはこれしかないんだ」

「……」


 なるほど、だからルーナの両親が部屋に入った時に縁談の話を思いついたのか。


 ルーナはそれを何としてでも阻止したい。ならば話は簡単だ。


 プラネテスのみんなはルーナに同情の目を向けながらも納得がいかない様子だ。


「酷い話ね。女を作戦の駒としか思ってないみたい」

「あたしたち平民と彼女たちとでは事情が違うのよ。嘆いてもしょうがないわ」

「ルーナ、僕をモーントセイレーネーまで連れて行ってくれないかな?」

「それは構いませんけど――まさか」

「うん、そのまさかだよ。そこにいる太古のモンスターを倒す」

「待って。そもそも何故太古のモンスターが頻繁に出現し続けているのか、まずはその原因を探る必要がある。下手に動いては太古のモンスターたちを刺激しかねない。太古のモンスターの中にはこれまでのモンスターをも凌ぐ力を持ったモンスターもいる」


 マーキュリーが無表情のまま淡々とした口調で言った。


 だが山を陣取っているモンスターをどうにかしない限り、大公国軍の戦力はずっと強化できないままだ。縁談を受けざるを得ないのもそれが原因だし、だったら再び資源を採掘できるようにして、いくらやってきても継続的に戦えるようにすればいい。


 勝てるかどうかは分からないが、倒しに行くだけの価値はあるはずだ。


「マーキュリー、アースなら大丈夫よ。きっと何とかしてくれるわ」

「もし山にいるモンスターを倒すことができれば、大公国軍は再び島を防衛できるだけの戦力を取り戻せます。お父様にお伝えしましょうか?」

「いや、僕の口から伝える。ルーナ、一度大公たちを大広間に集めてくれないか?」

「分かりました」


 この日の夜、僕らは翌日に大公官邸の大広間に集合することに。


 暇潰しに一度外に出てみると、官邸というよりは城のようだった。官邸の所々に三日月のような形をしたシンボルがあり、1番高い所にはムーン大公国の国旗が風に吹かれている。


 大広間は官邸の玄関から入った先の奥の部屋にある。


「アースさん、本当にモンスターを倒しに行くんですか?」

「心配ないよ。何とかなる。それにルーナだってプラネテスの一員だよ。ギルドカフェにも登録したわけだし、あんな理不尽な理由でそう簡単には手放せないよ」

「アースさん……」


 うっとりした顔で僕の後をつけてきたルーナが僕を恋する乙女のような顔で見つめ、縋るように僕の左腕を強く握り、柔らかい感触を押しつけてくる。


 彼女の柔らかい手に触れた時、僕は彼女を何が合っても守りたいと強く思った。僕が追放されたのはきっと運命だ。そう、彼女と出会うためだ。


 一生彼女の護衛として仕えたい。彼女は僕をガイアソラスの力を持った者としてじゃなく、あくまでもアース・ガイアという1人の人間を見てくれている。彼女を救った剣の力じゃなく、剣の力を彼女のために使った僕に感謝の意を示してくれたのだ。


 今にして思えば、僕はあの時からルーナのことを意識していたのかもしれない。

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